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アラブ首長国連邦(UAE)のビジネス法の最新動向

SPAC、外資規制、労働、個人情報、債権回収、法人税導入……

森下 真生

拡大森下 真生(もりした・まさお)
 2002年、東京大学法学部卒。司法修習(57期)を経て2004年、弁護士登録(第一東京弁護士会)。2010~2011年、丸紅株式会社法務部出向。2012年、University of California, Berkeley, School of Law修了(LL.M.)。2014年、ニューヨーク州弁護士登録。2018年、ドバイ首長国弁護士登録。2022年1月、西村あさひ法律事務所パートナー就任。

1.はじめに

 アラブ首長国連邦(以下、「UAE」という。)は、2021年12月2日に、建国50周年を迎えた。UAEでは、50周年のタイミングで、中東・アフリカ・南アジア(MEASA)地域で初めての万国博覧会が開催され、また、ドバイ首長国は、コロナ禍でも入国が容易であったということもあって、UAEの国際的な注目は高まっており、日本人と日本企業の進出も増えている。

 UAEでは、50周年を迎えるにあたって、法環境の整備が行われ、ビジネス法分野についても、いくつかの重要な法律の制定や改正があった。また、2022年1月末には、UAEでのビジネスに大きな影響を与える法人税の導入が発表された。

 本稿では、UAEのビジネス法分野における最近の重要な法令動向について、概説する。

2.商事会社法

(1)概要

 既存の2015年商事会社法(以下、「旧会社法」という。)の全面改正を行う連邦法(以下、「新会社法」という。)が2021年9月20日に出され、2022年1月2日から効力を発している。形式は、全面改正であるものの、内容は、概ね旧会社法と同様であり、実質的な変更は一部に留まる。

 新会社法では、特別目的買収会社(Special Purpose Acquisition Company : SPAC)(以下、「SPAC」という。)と特定目的会社(Special Purpose Vehicle : SPV)の導入が行われた点が注目された。但し、新会社法では、いずれも定義されただけで、同法の適用除外とされ、別途定められる規則に服するとされる。その後、2022年1月14日に、中東湾岸諸国では初めてのSPACに関する規則が制定されている。SPAC規則においては、例えば、SPAC設立時の資本金は、100,000ディルハム(1ドル100円時、約300万円)以上でなければならないとされ、公募時の資本金は、1,000,000ディルハム(1ドル100円時、約3,000万円)以上とされる。また、公募後のスポンサーのSPACにおける持分割合は、3%以上20%以下でなければならないとされる。

 新会社法では、有限責任会社(Limited Liability Company : LLC)と株式会社に関する若干の変更も行われた(注1)。商事会社法上の株式会社については、日本企業の利用は乏しいが、公募前の発起人の一定割合の株式の引受義務の撤廃、株式の割引発行の許容、株式の額面価格の撤廃、新設分割の導入等、公開株式会社に関し、重要な変更がなされた。

 なお、商事会社法は、日本企業の多くが拠点を置くフリーゾーンには適用されないため、商事会社法改正の日本企業への影響は限定的である。

(2)外資規制

 以前の商事会社法には、外資規制に関する定めがあり、例えば、有限責任会社と株式会社の場合、外資は最大49%までしかその持分を取得できなかったが、2020年9月の商事会社法の改正により、外資規制は撤廃された。

 新会社法でも、外資規制は定められておらず、現在のUAEには、外資規制は原則として存在しない。もっとも、内閣が別途指定する「戦略的インパクトがある事業分野」については、例外的に外資規制が残っており、旧会社法下では、①安全保障及び防衛事業並びに軍事的性質事業、②銀行、両替、金融会社及び保険事業、③通貨印刷事業、④通信事業、⑤巡礼事業、⑥コーラン学習センター事業並びに⑦水産関連事業が、戦略的インパクトがある事業分野に指定されていた。新会社法施行後、本稿執筆時点において、「戦略的インパクトがある事業分野」の別途の指定はなされておらず、旧会社法下で定められた内容が引き続き維持されると解される。

 なお、UAEでは、公表されているルールがすべてというわけではなく、表向きは外資100%可能とされていても、実際には、外資100%保有が認められない分野がある。また、UAEに7つある首長国毎に、会社設立に関するルールは異なる。

 したがって、100%外資保有法人の設立にあたっては、設立対象首長国の管轄当局にその可否を確認する必要があることに留意が必要である。

3.労働法

 2021年に新たな連邦労働法(以下、「新労働法」という。)が公表され、2022年2月2日から施行されている。

 新労働法は、既存の労働法(以下、「旧労働法」という。)を廃止し、それに置き換わるものだが、基本的には旧労働法の内容を踏襲している。

 なお、連邦労働法は、フリーゾーンも含め、全首長国に適用されるが、独自の法域となっているアブダビ首長国のADGM(Abu Dhabi Global Market)(以下、「ADGM」という。)とドバイ首長国のDIFC(Dubai International Financial Centre)(以下、「DIFC」という。)では、連邦労働法は適用されず、ADGMとDIFCそれぞれにおける独自の労働法が適用される。

 改正のうちもっとも重要な点は、旧労働法下であった無期契約と有期契約のうち、無期契約が廃止され、すべての契約を3年以内の有期契約(更新は可能)とする必要があることになったことである。既存の無期契約は、有期契約に変更する必要がある。

 旧労働法では、無期契約については、正当理由がある場合には、30日前通知により、雇用契約を終了することができたが、有期契約については、期間中、法定の終了事由に該当しない限り、雇用契約を適法に終了することはできなかった。

 新労働法では、有期契約の場合でも、正当理由がある場合には、当事者が合意する30日から90日までの期間前の通知により、雇用契約を終了できることとなった。

 また、旧労働法下では、従業員が法定の退職事由以外の事由で任意に退職する場合の退職金の減額が定められていたが、新労働法では、任意の退職の場合の退職金の減額がなくなった。さらに、新労働法下では、旧労働法では退職金の支払を行わなくてよいとされていた法定解雇事由に基づく解雇の場合にも、退職金を支払う必要がある。

 UAEに拠点を有する日本企業は、無期契約の有期契約への変更をはじめ、旧労働法からの改正点(注2)について、雇用契約や就業規則の変更を行う必要がある。

4.個人データ保護法

 UAEでは、事業分野を問わず適用される包括的な個人情報保護法は存在しなかったが、50周年を前に個人データ保護法が公表され、2022年1月2日から施行されている。

 個人データ保護法の適用を受けるデータ管理者(個人データを保有する組織又は自然人であって、単独で又は他の者と共同で、その活動の性質を前提に、データの処理の方法、基準及び目的を決定する者)とデータ処理者(個人データを保有する組織又は自然人であって、単独で又は他の者と共同で、その活動の性質を前提に、データの処理の方法、基準及び目的を決定する者)は、施行規則が定められた後、6か月以内に個人データ保護法を遵守すればよいとされ、猶予期間があるが、同法上、2022年3月までに定められることとなっている施行規則は、まだ公表されていない(注3)

 UAEの個人データ保護法は、EUの一般データ保護規則(General Data Protection Regulation : GDPR)(以下、「GDPR」という。)の影響を色濃く受けており、個人データ(personal data)の定義も、「識別された自然人、又は、氏名、音声、画像、識別番号、オンライン識別子、位置情報などの識別子、若しくは、身体的、心理的、経済的、文化的若しくは社会的アイデンディティを表す1つ若しくは複数の特徴を使用して、データを関連付けることによって、直接若しくは間接的に識別可能な自然人に関するデータ」とされ、GDPR類似の内容となっている。

 UAEでは、当面、個人データ保護法に関する解釈論の発展は見込めないところ(注4)、個人データ該当性の判断においては、GDPR下と同様に考えるというのがひとつの方針になると思われる。

 個人データ保護法は、①UAE国内に居住する、又は事業所を有するデータ主体、②UAE国内外のデータ主体の個人データの処理活動を行うUAE国内の管理者又は処理者、及び③UAE国内のデータ主体の個人データの処理活動を行うUAE国外の管理者又は処理者に適用されるとされる。

 すなわち、UAE国民の情報のみならず、UAEに居住するか事業所を有する個人の情報は、データ主体が外国人であっても保護の対象になり、外国のデータ主体の管理又は処理のみを行う場合であっても、UAEで行う場合には、個人データ保護法の適用を受けることとなる。また、UAE国外の管理者又は処理者であっても、UAE国内のデータ主体の個人データを取り扱う場合には、適用を受けることになる。

 管理者と処理者の守るべき義務やデータ主体の権利についても、EUのGDPRと類似しており、個人データ保護法の導入により、UAEでも、個人データ保護における先進諸国と同程度の個人データへの配慮が必要になったと言える。

5.債権回収関連法

(1)概要

 UAEは、世界有数の債権回収が困難な法域とも言われ(注5)、実際に債権回収の試みが功を奏さないことは多い。問題としては、UAEでは、弁護士による場合を含め、第三者による債務者のライセンス情報や不動産等の資産情報の調査のための制度がなく、債務者資産の調査が困難であることや、人口の9割が外国人とも言われるUAEでは、事業継続が困難になった会社の経営者は、会社を放置して、自国に引き上げてしまうことが多いということがある。

 もっとも、UAEでは、2016年に倒産法と動産担保法が制定され、2020年に動産担保法が全面改正されるなど、債権者にとって好ましい法整備が進んでいる。2021年には債権のファクタリング及び譲渡に関する法律(以下、「債権譲渡法」という。)が制定され、債権の譲渡担保に関する関連当事者の権利義務関係が明確化された。

(2)債権譲渡法

 2021年12月7日から効力を発している債権譲渡法は、ファクタリングについて中央銀行のライセンスを要求すると共に、債権に対する担保設定について、動産担保法を補完する法律である。

 2016年の動産担保法制定以前は、動産への担保設定のためには、動産の占有が求められ、その設定は必ずしも容易ではなかった。また、不確実性(ガラール)を禁じるイスラム法(シャリーア)により、将来の動産や債権に対する担保設定の有効性には疑義があった。

 2016年動産担保法では、動産担保に関する登録制度が導入され、占有移転を伴わない動産への担保設定が可能になった。また、同法は、将来の動産に対する担保設定も明確に許容した。

 さらに、それまで必ずしも明らかではなかった銀行口座への担保設定が明確に可能とされ、担保対象物についての裁判外での自力救済も認められた。

 2020年の動産担保法は、2016年動産担保法を全面改正するものであったが、2016年法の内容を概ね踏襲した。

 動産担保法下で、債権も担保対象とすることが可能であるが、2021年に制定された債権譲渡法は、担保目的の債権譲渡に関するルールを詳細に定めた。

 まず、UAEにおける債権譲渡については、実務上、債務者への通知が必要(但し、ドバイ首長国では、承諾が必要という見解が有力であり、債務者の承諾まで取得するのが安全な実務)と解されていたが、債権譲渡法は、債務者への通知がなくとも、債権譲渡が当事者間で有効となることを明確にした。もっとも、債務者に対して譲渡を有効にし、債務者の弁済先を譲受人にするために、債務者に対する通知は必要となる。

 他方で、債権譲渡法は、動産担保法に基づく登録簿への登録がなければ、債権譲渡を第三者に対抗できない旨を定め、債権譲渡の第三者への対抗要件が、当該登録簿への登録であることを明らかにした。

 また、同法では、将来債権の譲渡も可能であることが、確認されている。

 同法では、譲渡制限は、債権譲渡の有効性に影響を与えないとされ、譲渡制限に違反した譲渡であっても、譲渡人は責任を負わないとされる。一方、譲渡対象債権の債務者は、譲受人に対して、譲渡人に対して有していたあらゆる抗弁を主張できるとされる。

 上記を含め、債権譲渡法では、債権譲渡に関する債権の譲渡人及び譲受人並びに債務者の権利義務関係について、広く明確化が図られており、債権を対象とする担保の設定が行いやすくなったと言える。

 なお、債権譲渡法に基づく債権の登録は、担保目的の債権譲渡に関するものが想定されていると解されるが、実務上、担保目的ではない所有権移転目的の債権譲渡についても、債権譲渡法が適用されると解した上で、登録を行う例が見られる。

(3)小切手不渡りの場合の刑事罰の廃止

 これまでUAEでは、小切手が不渡りになると、その署名者に罰金又は懲役の刑事罰が科されることとされており、債権回収にあたっては、それが有効に機能する場合があった。会社による小切手の署名は、会社の取締役が行うことが多く、署名者の刑事罰回避の動機が、会社による弁済を促進する効果を持ったからである。

 しかし、ビジネス上、小切手発行が一般的に行われるUAEにおいては、小切手の不渡りに刑事罰を科すのは、会社経営の失敗に対して刑事罰を科すようなものである。実際に多くの外国人が、小切手の不渡りによって、刑事罰に処せられ、国外退去させられており、UAEで事業を行う外国人にとって、UAEの魅力を低下させるものともなっていた。

 そのためUAEでは、長らく小切手の不渡りに関する刑事罰の撤廃が望まれていたが、2020年9月27日に出された商事取引法改正法により、刑法の改正もなされ、2022年1月2日から、意図的に銀行口座から金銭を引き出し、不渡りを発生させた場合等、例外的な場合を除き、小切手の不渡りは犯罪ではなくなった。

 他方で、同法による商事取引法の改正により、小切手の保有者は、銀行に対して、小切手記載の金額について、複数回に分けて、権利行使できることとなった。その点では、小切手の債権回収における有効性は高まったと言える。

 債権回収のために、小切手を取得することは今後も有効であるが、その不渡り時の刑事罰の恐れによる小切手の弁済促進効果はなくなったことに留意が必要である。

6.法人税導入

(1)導入経緯

 UAEの大きな魅力は無税であることであるが、UAE財務省(Ministry of Finance)は、2022年1月31日に、2023年6月1日からの法人税の導入を発表した。

 法人税導入の遠因は、UAEが、2017年12月5日に、EUによる「税務面で非協力的な国・地域リスト」(EU list of non-cooperative jurisdictions for tax purposes)に追加されたことである。

 その後、UAEは、2018年5月に、租税回避を防止するための国際的な枠組みである経済協力開発機構(Organization for Economic Co-operation and Development : OECD)の税源浸食と利益移転(Base Erosion and Profit Shifting : BEPS)に関す包摂的枠組み(Inclusive Framework on BEPS)(以下、「BEPS包摂的枠組み」という。)に参加した。

 BEPS包摂的枠組みでは、2021年10月8日に、参加140の国・地域中、136の国・地域(ケニア、ナイジェリア、パキスタン、スリランカ以外。その後、モーリタニアがBEPS包摂的枠組みの加盟国となり、現在は参加141の国・地域中、137の国・地域)が、多国籍企業の国際事業における各国での公平な税負担を確保するための2つの柱について、最終合意に至った。そのうちの第2の柱(Pillar Two)(以下、「BEPS第2の柱」という。)の下で、グループ全体の連結売上高の合計が年間7億5,000万ユーロ超である多国籍企業についての最低法人税率は15%とされた。

 その結果、当該合意に参加したUAEも求められる税率で法人税を課すこととなった。

(2)税率と適用範囲

 現在、UAE財務省により公表されている法人税の税率は以下のとおりである。

 ①純利益AED375,000(USD102,000)まで:0%
 ②純利益AED375,000(USD102,000)超:9%
 ③BEPS第2の柱に定める7億5,000万ユーロ超の売上高のある多国籍企業:異なる税率(15%が予想される。)

 法人税は、すべてのUAE事業及び法的事業体によって行われるすべての活動に対して適用される。個人の給与や投資による収入には適用されないが、個人事業主(UAEでライセンスを取得して事業を行っている個人)の収入には適用される。

 なお、フリーゾーン法人も法人税に服するが、財務省ウェブサイトによれば、すべての要件を満たし、UAEのメインランド(フリーゾーン外のエリア)と事業を行わないフリーゾーン法人については、法人税は適用されないとされる。

 フリーゾーン法人が、法人税の免除を受けるための要件はまだ明らかではなく(「メインランドと事業を行わない」の意味するところも、必ずしも明らかではない。)、その公表が待たれている。

7.結語

 上記のとおり、UAEでは最近、重要なビジネス関連法の制定や改正が相次いだが、UAEを含む中東湾岸諸国では、近年急激にビジネス法の整備が進んでおり、今後も法令動向を注視する必要は高い。

 なお

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筆者

森下 真生

森下 真生(もりした・まさお) 

 2002年、東京大学法学部卒。司法修習(57期)を経て2004年、弁護士登録(第一東京弁護士会)。2010~2011年、丸紅株式会社法務部出向。2012年、University of California, Berkeley, School of Law修了(LL.M.)。2012~2013年、Norton Rose Fulbright LLP (ロンドン)。2013~2016年、Marubeni Middle-East & Africa Power Limited (ドバイ)出向。2014年、ニューヨーク州弁護士登録。2018年、ドバイ首長国弁護士登録。2016~2019年、ドバイ駐在員事務所 駐在代表。2019年からAfridi & Angell出向(Head of Japan Desk)。2022年1月、西村あさひ法律事務所パートナー就任。
 主な論考に「コロナ禍における中東ビジネスと紛争解決」(JCAジャーナル2021年5月号)、「サウジアラビア投資と日・サウジアラビア投資協定の活用」(JCAジャーナル2018年11月号)、「トランプ政権下の対イラン制裁」(ビジネス法務2017年6月号)などがある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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