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バレーボールがもたらしてくれた縁

渡部 香菜子

渡部 香菜子(わたなべ・かなこ)
 2004年3月、一橋大学社会学部卒業。2007年3月、一橋大学法科大学院(法務博士(専門職))修了。司法修習(61期)を経て、2009年1月、ビンガム・坂井・三村・相澤法律事務所(外国法共同事業)入所。2014年8月から2015年5月まで 米国University of Virginia(LL.M.)。2015年4月、統合によりアンダーソン・毛利・友常法律事務所入所。2022年1月、パートナー就任。
 最近、近くに住む同僚弁護士から、地域のバレーポールクラブに入らないかとの誘いを受けた。コロナ禍も落ち着きを見せてきて、少しずつ大人数が集まって行うクラブ活動なども再開されてきたのだろう。

 私は、中学校・高校の6年間、バレーボール部に所属していた。高校でも、県でベスト8かベスト16までで、強かったとはいえないが、練習熱心なチームだったため、平日は授業終わりから午後8時頃まで、休日も基本的にお盆と正月を除いて毎日練習があり、バレー漬けの生活だった。

 バレーボール部を部活に選んだのは、中学1年生当時、仲の良い友達がバレーボール部に入るのに便乗したにすぎず、バレーボールそのものに特に思い入れがあったわけではない。

 なんとなく始めたバレーボールだったが、中学校・高校と厳しい練習の中、不思議とバレーボールをやめたいと思ったことは一度もなかった。今考えると、チームメイトと一緒に厳しい練習を乗り越え、チームが一体となって連携して試合に勝ったときの達成感を味わう経験を重ねることで、バレーボールにはまっていったのだと思う。

バレーボールの魅力

 バレーボールと言えば、一般に、高身長の選手の豪快なスパイクやブロック、セッターの華麗なトス回し、到底追い付きそうにないボールを拾い上げる高いリベロ(レシーブ専門の選手)の身体能力など、個々のプレイヤーの技術や能力が注目されることが多いと思われる。しかし、私にとってのバレーボールの魅力は、プレイヤーどうしの連携の面白さだ。

 例えば、高身長の選手が多く強烈なブロックを武器とするチームとの対戦において、個々のスパイカーが単発でスパイクを打っても歯が立たないような場合でも、複数のスパイカーとセッターとのコンビネーションによって相手チームのブロックを外し、スパイクを決めて得点を挙げることができる。守備の場面でも、ブロックをする選手とレシーブをする選手が、互いのポジションを把握して、隙間を作らないように、連動して動く。ブロックとレシーブが互いに補完することで、相手チームのスパイクが強烈なものであっても、そのコースが絞られるため、スパイクを拾ったりブロックしたりすることが可能となる。

 相手チームのプレーに応じて、それぞれの選手が、自分以外の選手がどのように動くか、どのようにポジションを取るかを考慮に入れながら、自身が取るべきポジションを調整する。ボールに触って実際にスパイクやレシーブをする選手のプレーが重要なことはもちろんであるが、ボールを触っていない選手の連動が、まさに重要なのである。

 特に、身体能力の高い選手を多く擁する相手チームに対して、それぞれの選手が他の選手の動きやポジション取りを把握して、相互に補完しあって動くことで、身体能力の差を補い、チームとして相手チームに勝つことができたときに、バレーボールの面白さを実感することができる。

チームプレーとしての事業再生

 弁護士としての私は、主として事業再生の分野に携わっているが、事業再生も、チームを組んで、チームメンバーが一体となって取り組むことの多い仕事である。チームの大きさは、案件の大小によって様々であるが、大きいものでは、弁護士のみならずスタッフ含め、15~20名ほどのチームとなることも少なくない。

 例えば、再建型の法的手続である民事再生手続を申し立てた債務者を代理してその再建をサポートする場合は、1つのチーム内で、スポンサー選定担当のチーム、取引先対応のチーム、金融機関対応のチーム、債権調査のチームなどのスモール・チームを作ってそれぞれの役割を明確にして、相互に連携・協力しながら案件を進めていく。事業再生の案件は、刻々と変わっていく状況に応じてタイムリーに対応することも求められる。そのため、個々のメンバーは、それぞれのスモール・チームに所属しつつも、業務の内容についても、案件進行のタイムラインについても、他のスモール・チームの仕事や対応も把握・理解しながら、連携して進めていく必要がある。チームメンバーが上手く連携してチームが一体となって進めることができてはじめて、成果を上げることが可能となる。

 私が、事業再生の仕事を面白いと感じて、この分野を自身の主たる業務の一つにすることとなったのは、事業再生の仕事には、他のチームメンバーが行っていることを理解して目を配りながら、自らの仕事を進めることで、チーム一体として成果を出すことができるという側面があり、そのことが、チームメンバーが連携してプレーするバレーボールの面白さに似通っていたことも、大きな一因であったように思う。そう考えると、バレーボールによってもたされた縁を多少なりとも感じるところである。

バレーボールによって広がった人脈

 私は、1年間のLLM留学の後、2015年から2016年まで、米国ニューヨークにある日系商社の米国子会社で勤務する機会を得た。その勤務先には社内バレーボールチームが結成されており、当時の同僚の勧めで、私はそのバレーボールチームに入ることとなった。実に、12年ぶりにバレーボールをすることになったのである。

 チームメンバーは、私より若い人が多く、身長もジャンプ力も優っており、始めはチームメンバーに迷惑をかけるのではないかと心配だったが、6年間の練習漬けの生活で培った感覚は残っており、思いのほか、私はチーム内で重宝された。私は、初心者であるチームメイトに対して、パスやレシーブなどのバレーボールの基礎的な技術を教え、プレーの連携の仕方を説明するなど、コーチの役割も果たした。

 英語での会話は得意ではなかったものの、チームで一緒にプレーしたり、チームメイトに教えたりしていると、不思議と気持ちが合ってくるため、バレーボールの練習や週1回のリーグ内での試合、また試合後にビールを飲む機会などを通じて、私は、多くの現地の人たちと仲良くなることができた。チームメイトとコミュニケーションを取ろうと、下手な英語を駆使して会話をした経験が、私の英語力を少しでも向上させてくれたはずであるし、彼らとは、私が帰国後5年以上経った現在でも交流がある。このことも、バレーボールがもたらしてくれた縁である。

 話を冒頭の話題に戻すと、私は、同僚弁護士からの誘いに対して、「もう身体が動かないから」などと理由を付けて断っていた。ただ、こう書いていると、久しぶりにバレーボールをしてみるのも悪くないかもしれない、と思い始めている。ニューヨークでのバレーボールから既に6年経過したが、また何かの縁があるかもしれない。もう少し前向きに考えてみることにしよう。