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実務から見た法律の域外適用いろいろ 金融、独禁、電気通信など

山本 俊之

拡大山本 俊之(やまもと・としゆき)
 2000年、慶應義塾大学環境情報学部卒。2000~2005年、株式会社格付投資情報センター勤務。2007年、慶應義塾大学法科大学院修了。2007~2008年、メリルリンチ日本証券株式会社勤務。司法修習(62期)を経て、2009年、第二東京弁護士会登録。2022年1月、西村あさひ法律事務所パートナー就任。
 筆者は、2009年の弁護士登録後、ファイナンス・金融を専門とする弁護士として、アセットマネージメントやデリバティブを中心に、各種の金融取引、金融業規制・コンプライアンスのアドバイスに取り組んできたが、ファイナンス・金融以外の分野における事案、具体的には当局対応や海外紛争案件、クロスボーダー案件にも携わる機会があった。このように幅広い分野での実務を行う中で、法律の域外適用について考える機会が多くあり、またとりわけ外国クライアントからの新規相談において域外適用について検討する機会も多い。本稿では、いわば古くとも新しい問題として、一実務家の立場から法律の域外適用について検討してみたい。

 なお、筆者は日本法の弁護士であって、本稿でも日本法における域外適用について検討している。もっとも、外国法が関係する案件では当該外国法における域外適用についても検討する必要がある場合もあることに留意されたい。

1. 概要

 まず、域外適用とは、国家が、自国の領域外の行為や人・財産などの事象に対して管轄権を行使することをいい、公的規制に係る立法管轄権や、物理的な公権力行使としての性質をもつ執行管轄権が特に問題になるとされている。立法管轄権については国家の自由度が高いとされ、とりわけ、領域外の行為に対して、多くの国家では、管轄権行使を自国領域内に限定する属地主義から、当該行為の実質的効果が自国領域内に及ぶことを管轄権の基礎とする効果理論へと大きく変容を遂げたとされている(注1)。また、属地主義とは、国際私法上、法の適用範囲を法が制定された領域内に限定することをいうが、以下で触れる金融商品取引法(金商法)や独占禁止法(独禁法)などの公法の域外適用は属地主義の限界を示すものとされている(注2)

 もちろん、ある法律において域外適用についての明文規定があればそれに従うこととなるし、判例・裁判例によって一定の考え方が示されている場合もある。他方、明文規定等がない場合であっても、実務上は、一定の考え方・論拠をベースに域外適用の有無についての結論を導き出す必要があるため、悩ましいことが多いともいえる。

2. いくつかの具体例

(1) 金融分野

 金融分野における代表的な規制法として金商法があるが、その実務においては、①内・内、②内・外、③外・内、④外・外の類型化によって考えていくことが多いように思われる(注3)。なお、ここでいう「内」とは日本、「外」とは外国を指している。

 以下では、本稿における議論のために、証券会社が有価証券を投資家に販売する行為を想定する。なお、有価証券の販売と一口にいっても、対象となる有価証券の種類や具体的行為の内容によりその金商法上の取扱いは様々であるが、一般に、有価証券の販売行為を業として行えば金融商品取引業に該当する(金商法2条8項1号等)。したがって、個別事案での例外はありうることに留意しつつも、上記4つの類型化の具体的なあてはめを域外適用の観点から考えることとしたい。

 まず①については、日本の証券会社が日本の顧客に対して有価証券の販売行為を行う場合が想定される。そしてこの場合に金商法が適用されることについて特段の異論はないと考えられる。他方、④は外国の証券会社が外国の顧客に対して有価証券の販売行為を行う場合が想定されるが、この場合に(当該外国における証券規制の問題はあっても)日本の金商法が適用されないことについて、同じく特段の異論はないと考えられる。

 この点、金商法の前身である証券取引法に関する文献において、規制の対象とする行為の一部が国内で行われれば証券取引法令を適用するという属地主義、証券取引法令が守ろうとする法益に対する侵害の可能性がある場合に証券取引法令を適用するという効果主義、属地主義を基本としつつ、証券取引法令の目的が十分に達成できない場合に効果主義を加味して適用範囲を調整するという修正効果主義、という考え方が挙げられている(注4)。この考え方からしても、①はそもそも属地主義の観点から当然と思われるし、④は効果主義を仮に加味しても日本法の適用は考えにくい。

 次に②は、日本の証券会社が外国の顧客に対して有価証券の販売行為を行う場合が想定される。この場合、当該外国における証券規制の適否は別途検討が必要になろうが、日本法について考えると、属地主義の観点から金商法の適用があると考えられている。実際、金商法ではなく、貸金業法に係る高裁判例ではあるが、「日本国内において金銭の貸付けの一部を業として行っている限り、顧客が国外の借主のみであっても、『貸金業を営』むこと([貸金業法]3条1項)に該当するものと解するのが相当であり、このように解することは、日本国内における貸付行為をもって貸金業法の適用対象ととらえる考え方(属地主義)にも抵触しないというべきである」と判示されている(注5)

 さらに③は、外国の証券会社が日本の顧客に対して有価証券の販売行為を行う場合が想定されるが、日本の顧客保護といった観点からしても、金商法が外国の証券会社の当該販売行為に適用されると考えられる。これも販売行為が日本国内で行われると整理することで(注6)、属地主義をベースにしていると思われる。

 もっとも、上記はあくまで実務における単純化・類型化であって、様々な例外、あるいは明文規定が置かれている場合もある。

 例えば③外・内の類型の取引について、外国証券業者の規定があり、原則として国内にある者を相手方として金商法28条8項各号に掲げる行為を行ってはならないとされる一方で、一定の相手方・行為類型を対象にその例外が認められている(金商法58条の2、金商法施行令17条の3、金融商品取引業等に関する内閣府令(金商業等府令)208条の36~213条)。また、筆者がアドバイスを行っているデリバティブの分野では、清算集中されない店頭デリバティブ取引に係るいわゆる証拠金規制において(金商法40条2号、金商業等府令123条1項21号の10、21号の11)、明示的に域外適用が規定されている条文がある。店頭デリバティブ取引では日本と外国間のクロスボーダー取引が多いためだと思われるが、「外国において店頭デリバティブ取引を業として行う者」を当事者とする取引が日本の証拠金規制に服することが明文化されている(金商業等府令123条12項1号イ、13項1号イ)。

 他方で、金商法とは管轄官庁も異なるが、割賦販売やクレジットカード等の消費者信用を規律する割賦販売法では、上記②内・外の類型の取引について、同法の規律が域外適用されないことが明文化されており(割賦販売法8条2号、35条の3の60第1項2号、2項2号)、その趣旨は、割賦販売法を適用するよりは、むしろ一般の商慣行に任せる方が適当であると考えられるためと説明されている(注7)。このように属地主義が法律の明文をもって修正されている事例も存在しており、属地主義・効果主義といった概念だけでは割り切れない難しさが実務にはある。

(2) 独禁法・競争法分野

 独禁法や外国の競争法のカルテル行為については、効果主義が強調されているように思われる。ある国で行われたカルテル行為の影響を受けた商品が、他の国に輸出された場合に、当該他の国の当局がカルテル行為に係る処分等を行えるのか、という問題設定となる。

 この点、事業者らがテレビ用ブラウン管の販売価格に関して日本国外で価格カルテルの合意をしたところ、これが日本の独禁法が禁止する不当な取引制限に該当するとされ、公正取引委員会が国内外のカルテルの行為者に対して、排除措置命令及び課徴金納付命令を発した事案がある。その裁判では、価格カルテルの合意は日本国外で合意されたものであり、ブラウン管を直接購入したのは日本国外に所在する(日本のテレビ製造販売業者の)現地製造子会社等であることなどから、日本の独禁法は適用されないと主張された。

 そして、この事案において最高裁は、独禁法は、国外で行われた行為に係る域外適用の規定を有していないが、独禁法1条の目的等に鑑み、「国外で合意されたカルテルであっても、それが我が国の自由競争経済秩序を侵害する場合には、同法の排除措置命令及び課徴金納付命令に関する規定の適用を認めていると解するのが相当」とした上で、「価格カルテル(不当な取引制限)が国外で合意されたものであっても、当該カルテルが我が国に所在する者を取引の相手方とする競争を制限するものであるなど、価格カルテルにより競争機能が損なわれることとなる市場に我が国が含まれる場合には、当該カルテルは、我が国の自由競争経済秩序を侵害するものということができる」と判示した(注8)

 ところで、国際カルテル案件では、上記のような効果主義的な考え方を前提に、ある国の当局が事業者に処分等を下しそれが公表された後、他の国の当局も、(競合他社が違反の事実を当該他の国の当局にも自己申告しているのかもしれないが)追随して処分等を下そうとする動きがよく見受けられる。

 この点、手続面において、海外当局から日本企業に対し調査文書が直接郵送されるケースが存在した。そしてそのようなケースについて、外務省は、

 外国の行政機関から我が国に所在する個人や団体に対して、「罰則を科す」、「出頭の義務を課す」等の記載のある文書が、直接郵送されるケースが発生しています。
 外国の行政機関が我が国に所在する個人や団体に対して、「罰則を科す」、「出頭の義務を課す」といった内容を含む命令的、強制的ないし権力的な効果を発生させる文書を送達することは「公権力の行使」に該当し、我が国政府の同意なく行うことは認められていません。外国の行政機関は、関連する条約に規定された手続に従うか、外交上の経路を通じて我が国政府の個別の応諾を得た場合にのみ、有効な送達を行うことができます。
 もし、外国の行政機関から、「罰則を科す」、「出頭の義務を課す」等の記載のある文書を受け取り、その手続や内容等に疑義がある場合には、外務省までご連絡ください。

と述べており、もちろん当該他の国の当局がそのような動きをとる根拠を有する限り、そのような各国当局の動き自体を止めることはできないし、当該事業者がそうした動きを招く行為を行ったという事情が消えるわけでもなく、あくまでも日本の主権を確保する観点ではあるものの、そうした海外当局への対応を行う日本企業に対して、適正な手続を確保する選択肢が提示されることとなった(注9)

(3) 電気通信事業分野

 昨今は、消費者向け、事業者向けを問わず、外国から日本に対する、インターネットを通じたプラットフォームサービスの提供が増加する一方であるが、この分野において、2020年に可決され、2021年4月1日に施行された電気通信事業法改正では外国法人等に対する法執行の実効性の強化を目的とした改正がなされた。

 電気通信事業法では、電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他電気通信設備を他人の通信の用に供することが「電気通信役務」とされ、電気通信役務を他人の需要に応ずるために提供する事業が「電気通信事業」と定義されている(同法2条3号、4号)。そして、このような電気通信事業を営もうとする者に対しては、登録や届出が求められるが(同法9条、16条)、一定の適用除外も定められている(同法164条1項(注10))。プラットフォームサービスの提供における登録・届出要否の検討の文脈では、主に、他人の通信を媒介しているか否かといった点が問題となる(注11)

 上記法改正の具体的内容としては、外国法人等に対する電気通信事業法の実効的な適用を確保する観点から、登録・届出の際の国内代表者等の指定義務、電気通信事業法違反の場合の公表制度等に係る規定の整備がなされているが、この点について、総務省は「外国法人等が電気通信事業を営む場合における電気通信事業法の適用に関する考え方」を2021年2月12日に公表した(注12)

1  外国法人等が営む電気通信事業に対して事業法が適用される場合

  • 外国法人等が、日本国内において電気通信役務を提供する電気通信事業を営む場合のほか、外国から日本国内にある者に対して電気通信役務を提供する電気通信事業を営む場合、事業法が適用される。
  • 「外国から日本国内にある者に対して電気通信役務を提供する」とは、外国から日本国内にある者(訪日外国人を含む。)に対する電気通信役務の提供の意図を有していることが明らかであることを指し、例えば、次のいずれかに該当する場合には、当該意図を有していることが明らかであると判断され得る。
     一 サービスを日本語で提供している場合
     二 有料サービスにおいて、決済通貨に日本円がある場合
     三 日本国内におけるサービスの利用について、広告や販売促進等の行為を行っている場合

(注)上記の「外国法人等」とは、外国の法人及び団体並びに外国に住所を有する個人をいう。

 この「考え方」では、上記囲みの通り、電気通信事業法の域外適用について一定の考え方が示されているが、「外国から日本国内にある者に対して電気通信役務を提供する」場合とは、上記(1)で見た③外・内の類型についてのものと整理できよう。その意味では、法律が異なっていても、実務において域外適用が問題となる類型は似ているということになる。他方で、実際にどのような場合に国内法令の域外適用がなされるのかについての考え方は、個別の法律において規制されている類型や法の趣旨を踏まえたものとならざるを得ないといえる(注13)

3. おわりに

 以上、「域外適用」について、表題の文字通り「いろいろ」とオムニバス的に論じてきた。必ずしも理論的に整理されているとはいいがたいが、実務においてはクロスボーダー取引への法令適用について一定の類型化が試みられている一方で

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筆者

山本 俊之

山本 俊之(やまもと・としゆき) 

 2000年、慶應義塾大学環境情報学部卒。2000~2005年、株式会社格付投資情報センター勤務。2007年、慶應義塾大学法科大学院修了。2007~2008年、メリルリンチ日本証券株式会社勤務。司法修習(62期)を経て、2009年、第二東京弁護士会登録。2022年1月、西村あさひ法律事務所パートナー就任。
 著書・論考に「与信AIに法規制はなされるか―差別・公平性の観点から―」(共著、金融法務事情No.2187(2022年6月10日号))、『資産・債権の流動化・証券化〔第4版〕』(共著、金融財政事情研究会、2022年4月)、「金融AIの法規制」(日経BP、金融DX戦略レポート 2022―2026、2022年1月)などがある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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