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「パナマ文書」情報源が6年の沈黙破る「改革は誇りだが、まだ不十分」

奥山 俊宏

 タックスヘイブン(租税回避地)の秘密ファイル「パナマ文書」を報道機関に提供し、世界各国の首脳たちの関わりを暴く契機をつくった匿名の人物が、6年間の沈黙を破り、記者のインタビューに応じた。22日、ドイツのニュース週刊誌「デア・シュピーゲル」のウェブサイトでその内容が公開された(注1)。国際社会ではこの6年、税逃れへの対抗策が具体化しつつあり、この人物は「パナマ文書の結果として行われた改革を誇りに思っているが、まだ不十分だ」と述べた。

拡大バスティアン・オーバマイヤー記者(左)とフレデリック・オーバーマイヤー記者(paper trail media)

 パナマ文書は、タックスヘイブンでの会社の設立や維持を専門に手がける中米パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」から流出した1150万件、2.6テラバイトの電子ファイル群。2015年、匿名の人物によって南ドイツ新聞(ミュンヘン)のフレデリック・オーバーマイヤー記者とバスティアン・オーバマイヤー記者に提供された。南ドイツ新聞は国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ、事務所=米ワシントンDC)とそれを共有し、ICIJがデータベース化。朝日新聞を含む各国の報道機関の400人近くのジャーナリストが参加して分析と取材にあたった。2016年4月3日(日本時間4日未明)に一斉に記事の発信を始めた。

 アイスランドのグンロイグソン首相(当時)、ウクライナのポロシェンコ大統領(同)ら10カ国の現旧指導者12人(のちの取材で14人に)を含む公職者140人の関係会社、英国のキャメロン首相(同)の亡父や中国の習近平国家主席の義兄の会社が見つかった。ロシアのプーチン大統領の親友のチェロ奏者ロルドゥーギン氏がタックスヘイブンの複数の会社の所有者となっており、そこに資金が流れ込んでいたことも判明した。

拡大日本人のためにタックスヘイブンに設立された会社の書類もパナマ文書に含まれていた
 グンロイグソン氏は報道直後に首相を辞任。パキスタンのシャリフ首相も、資産隠しをめぐって翌2017年に辞任に追い込まれ、2018年に有罪判決を受けて刑務所に収容された。ICIJのまとめによると、報道開始後5年弱の間に各国政府が徴収した税金や罰金の総額が少なくとも13億6千万ドル(約1500億円)に上る。日本でも、申告漏れを指摘されて、過少申告加算税を追徴されたなどの事例が報道されたが、その総額は不明だ。

 パナマ文書の報道が始まった直後、米国のオバマ大統領(同)は記者会見で「多くは適法だが、しかし、それこそが問題だ」と述べ、「不十分な法制度」是正への意欲を明らかにした。税逃れの撲滅に消極的だったトランプ政権を経て、バイデン政権が発足すると、2021年、国際社会は法人課税の最低税率を世界的に15%とする方針で合意した(注2)

 南ドイツ新聞にいた両オーバーマイヤー記者にパナマ文書を提供した人物は、「名無しの太郎」を意味する「ジョン・ドウ」を名乗り、報道開始1カ月後の2016年5月に両記者を通じて一度だけ声明を発表したが(注3)、それ以降は一切の発言を公にしていなかった。両記者はその後、南ドイツ新聞を離れ、今回のインタビューは「デア・シュピーゲル」のために両オーバーマイヤー記者によってインターネット経由で行われた。その原稿は、パナマ文書の報道に関わった世界各国の記者たちに事前に共有された。以下はその和訳

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筆者

奥山 俊宏

奥山 俊宏(おくやま・としひろ) 

 1966年、岡山県生まれ。1989年、東京大学工学部卒、朝日新聞入社。水戸支局、福島支局、東京社会部、大阪社会部、特別報道部などで記者。2013年から朝日新聞編集委員。2022年から上智大学教授(文学部新聞学科)。『法と経済のジャーナル Asahi Judiciary』の編集も担当。近刊の著書に『内部告発のケーススタディから読み解く組織の現実 改正公益通報者保護法で何が変わるのか』(朝日新聞出版、2022年4月)。
 著書『秘密解除 ロッキード事件  田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店、2016年7月)で第21回司馬遼太郎賞(2017年度)を受賞。同書に加え、福島第一原発事故やパナマ文書の報道も含め、日本記者クラブ賞(2018年度)を受賞。 「後世に引き継ぐべき著名・重要な訴訟記録が多数廃棄されていた実態とその是正の必要性を明らかにした一連の報道」でPEPジャーナリズム大賞2021特別賞を受賞。
 そのほかの著書として『パラダイス文書 連鎖する内部告発、パナマ文書を経て「調査報道」がいま暴く』(朝日新聞出版、2017年11月)、『ルポ 東京電力 原発危機1カ月』(朝日新書、2011年6月)、『内部告発の力 公益通報者保護法は何を守るのか』(現代人文社、2004年4月)がある。共著に『バブル経済事件の深層』(岩波新書、2019年4月)、『現代アメリカ政治とメディア』(東洋経済新報社、2019年4月)、 『検証 東電テレビ会議』(朝日新聞出版、2012年12月)、『ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか』(同、2008年9月)、『偽装請負』(朝日新書、2007年5月)など。
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※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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