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コロナで崩れたバランスを立て直せ 形式知と暗黙知、規律と自由…

マネジメントとリーダーシップなど7つの「4象限」試論

中山 達樹

拡大中山 達樹(なかやま・たつき)
 1998年、東京大学法学部卒業。2010年、シンガポール国立大学ロースクール修士課程(アジア法専攻)修了。2015年、中山国際法律事務所開設、同事務所代表弁護士。2016年、公認不正検査士。シンギュラリティー大学エグゼクティブ・プログラム修了、リー・クアンユー公共政策大学院リーダーズ・プログラム修了。2022年、経営倫理士。
 コロナ禍で世界は変わった。

  • 人に会わなくなった。
  • 話し合わなくなった。
  • 会っているようで、会っていない。
  • 話しているけど、ほんとうに話し合っていない。
  • 意見をぶつけ合っていない。
  • 本音で語っていない。うわべだけで語っている。
  • 魂が触れ合っていない。

 そんな「魂が触れ合っていない」感覚を持つ人は多い。世界中の数十億人が、そんなコロナ禍の2年半を過ごしてきた。これでいいのか。やむを得ないのか。いや、違う。やっぱり、リアルで会った方がいい。リアルで会うことに勝る価値はない。日本では、コロナ第7波にかかわらず、そう思う人が圧倒的に増えてきた。

 アメリカ・イギリスでも、コロナ前よりも飲み会が増えている(2022年6月11日付け日本経済新聞(注1)。リアルで会って、ストレスを解消している。オンライン飲み会はもうやらない。海外ではほとんどマスクをしない。日本と中国以外では「コロナは終わった」と思われている。With コロナからAfterコロナになった。東京23区でも、テレワーク率は3割を切った(中小企業、2022年5~6月、東京商工会議所(注2)

 海外ではコロナ禍の終わりが見えかけている。そんな今、テレワークのストレス・閉塞感をヒントに、コロナ禍を総括したい。

1  暗黙知が足りない

 コロナ禍で広まったウェブ会議では、リアルな面談に比べると、情報の深度・解像度・伝達速度が落ちる。やや表層的なやりとりに終止しがちだ。テレワーク全般でもメール・テキストで言語化できる「形式知」のコミュニケーションが主体となる。「暗黙知」(言語化できない情報。情熱・波動・オーラ・温かみ・親しみ等)が十分に伝わらない。

 例えば、ウェブ会議でしか会ったことない人に、本音は語りにくい。リアルで会わないと、敵か味方かが分かりにくいからだ。一方、リアルで会うと暗黙知を得られるため、本音を言いやすい。コロナ前から面識がある人とはウェブ会議でも話しやすい。「暗黙知の貯金」があるからだ。しかし、コロナ禍から2年半、ウェブ会議でしか会わない人も増えてきた。暗黙知の貯金も切れてきた。だから、人は暗黙知を求め、飲み会や旅行を増やし始めた。

 また、形式知だけのコミュニケーションでは、ストレスも大きく、誤解が生じやすい。コミュニケーションの7%が言語的情報で、残り93%が非言語的情報(うち視覚的情報が55%、聴覚的情報が38%)というメラビアンの法則も、言語的な形式知のみのコミュニケーションの脆弱さを示している。

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 これは4象限で表現できる。形式知を横軸、暗黙知を縦軸に置くと、コロナ禍のコミュニケーションは「形式知があって暗黙知がない」右下の緑の領域だ。閉塞感とストレスは組織を「衰退」させる。

 一方、暗黙知があっても、知識を言語化・形式知化(ストック)していかないと、不安定だ(左上の青の領域)。カリスマ社長に引っ張られる未成熟ベンチャー企業がこの「不安定」ゾーンにある。

 そこで、形式知・暗黙知のバランスを取り、「成長」(右上の赤)につなげたい。なお、この形式知と暗黙知の境界を失くす壮大な試みがメタバースであり、DAOやWEB3もこの文脈にある。

2 マネジメント過多

 この形式知・暗黙知の対比は、マネジメント(管理)とリーダーシップ(先導)の対比にも使える。組織は放っておくとマネジメント過多になる。しかもコロナ禍で対話は減った。見る(look)・聞く(listen)・会う(see)の積極的コミュニケーションはできても、見える(see)・聞こえる(hear)・出会う(encounter)の消極的コミュニケーションはできない。コミュニケーションの総量が減れば、創意工夫やイノべーションも生まれにくく、組織をかき回すリーダーシップも発揮されにくい。対話のない組織はさらにマネジメント偏重になる。

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 マネジメントを横軸、リーダーシップを縦軸に置いた4象限で示すと、「マネジメントばかりでリーダーシップがない」状態が右下・緑の「衰退」だ。VUCA(ブーカ、Volatility<変わりやすさ>、Uncertainty<不確かさ>、Complexity<複雑さ>、Ambiguity<あいまいさ>)の時代、リーダーシップある戦略を提示できない企業の衰退は必至だ。

 一方、リーダーがぐいぐい会社を引っ張って管理が及ばないと左上の「不安定」になる。すると、ふうふう言いながらマネジメント機能は後を追いながら充実してくる。マネジメントは後から付いてくるため、まずはリーダーシップを先行させなくてはならない。マネジメントが先行してリーダーシップが付いてくることはない(『たった三行で会社は変わる』藤田東久男)。

 このマネジメントとリーダーシップの違いは、以下のように整理できる(前掲書に筆者加筆)。

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 マネジメントは、左脳で司る理屈や形式知である。「木を見て森を見ず」のセクショナリズム・個別最適に陥りがちだ。Do things right (言われたとおりにちゃんとやる)は楽だ。受け身でできる。ただ、単なる保身の思考停止になりかねない。

 一方、リーダーシップは、右脳で司る直感や感性(暗黙知)と親和性がある。先行き不透明なVUCAの時代、何が正しい(right)のか、どの方向へ進むべきか、を自分の頭で考えないといけない。リスクはヘッジしつつ、常にリスクを取るのがビジネスだ。しかし、9割の企業が、リスクを取ってイノベーションを生む仕組みを作っていない(伊達洋駆『人と組織の行動科学』)。

3  右脳を使っていない

 コロナ禍の2年半で、人は右脳を使わなくなっている。ウェブ会議では左脳ばかりを使う。整理されすぎた情報(形式知)の中では右脳は使われにくい。

 例えば、ウェブ会議では「あ・い・う・え・お」の感嘆詞をあまり使わない。「あ、そういえば」「いいね、それ」「うん、そうだよね」「え、そうなの」「お、そうきたか」などだ。「与えられた問題の解決」であるマネジメントでは、左脳ばかりが働く。左脳過多は「衰退」(右下)だ。「報告・質問・依頼・回答」の「ほしいか」のみではコミュニケーションとして不十分で、社員の幸福度も下がる(矢野和男・日経ビジネス電子版2022年6月17日(注3))。

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 一方、VUCAの時代、「何が問題かを発見する」のは右脳の領域だ。ワチャワチャしたカオスの中からこそイノベーションは生まれる。ひらめきも雑談から生まれたりする。相談まで至らない気軽な「壁打ち」はオンラインではやりにくい。スティーブ・ジョブズが言う「connecting the dots(点を結ぶこと)」はイノベーションの真髄であるところ、dotを増やすのは左脳だが、dotをつなげるのは右脳だ。

 女性は、男性より脳梁が太くて右脳との連携が頻繁なため、「直感」「ひらめき」をすぐ口にする(黒川伊保子『男と女はすれ違う!』(注4))。男性ばかりの「ボーイズクラブ」では話題がロジカルになりすぎ、「衰退」に向かう。女性を入れるダイバーシティ確保が急務だ。

 DXや効率化は重要であるものの、効率化ばかりを考えると組織は滅びる。イノベーションは効率化のためであっても、イノベーションを創る営みは本質的に非効率だ。無駄に見えるプロセスが必要だ。そんな「無用の用」がないと組織はギスギスする。成果主義一辺倒では心理的安全性に欠ける。例えば、3Mのポストイット開発やGoogleの20%ルールは、「無用の用」の好例といえる。

4 規律ばかりで自由がない

 左脳で扱われるのは論理と規律。ロジカルに考えると、どうしても鯱張った規則ばかりができる。流行りのDXも、社員管理のために使われれば、組織の自由を奪う。規律ばかりで自由がないと息苦しく、「衰退」(右下)に向かう。

 そこで、右脳を使い、自由闊達で型破りな発想を育みたい。とはいえ、自由だけでは「不安定」(左上)だ。自由と規律のバランスを取った「成長」(右上)に向かわないといけない。

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5  老人が跋扈して若手が萎縮

 左脳の分析力で規律をもたらす老人の知恵は、横軸に置くことができる。自由を求める若手の活力は縦軸だ。

 日本人の平均年齢は48歳で世界最高齢の国の一つ。それゆえ、どの組織も自ずから管理規律過多・左脳過多の「衰退」(右下)に傾きがちだ。住友の中興の祖・伊庭貞剛が「事業の進歩発展に最も害するものは、青年の過失ではなくして老人の跋扈である」と喝破したとおりだ。

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 もちろん、若手の活力のみでは不安定(左上)なので、自由を求める若手と積極的な対話をし、組織をバランスよく成長させるべきだ(右上)。対話はエネルギーを使うが、それだけに得られるものも大きい。しかし、テレワークで業務一般がラクになった今、真の「対話」が最もタフで面倒くさくなった。2年半のテレワークで人はラクなものに慣れてしまった。だから多くの人がラクな方に逃げている。DXやテレワークの美名のもとに、面倒臭さを避けてばかりいる。若手と腹を割って本音で対話をしているかを振り返っていただきたい。

 もし若手とガチンコで話し合っていなければ、組織は「衰退」に向かっている。ガバナンスとは要するに、既得権益の奪い合いだ。対話が既得権益を動かす唯一のツールである。対話がないということは、シニアの既得権益がのさばっているということだ。国民が投票に行かなければ、既得権益を持つ与党が選挙で勝つ、というのも同じだ。対話の量は組織活性度と比例する。対話をしないということは現状維持をしているだけ。VUCAの時代、現状維持は「衰退」にほかならない。

 例えば、京セラやJAL再生を率いた稲盛和夫氏は、「コンパ」と呼ばれる膝詰めでの飲み会を多用した。ホンダのワイガヤでは、肩書を外した対話を夜通し行った。貴社内で、若手と十分に対話しているか、若手が生き生きしているか、社内に若手の活気があふれているか、を確認していただきたい。

6 戦略を考えていない

 左脳や論理で規律を守るのは「戦術」だ。一方、右脳と感性で自由に発想するのが「戦略」といえる。

 コロナ禍で対話が不十分だと、戦術過多に陥り、戦略が不足する。VUCAの時代、戦略なき船は確実に沈む。戦略不足は戦術で補えない。若手と対話を重ねることで次世代の右脳と感性を最大限に活かし、生存戦略を大胆に構築しないといけない。

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7 コンプライアンス過多

 SDGsの流れを受けてコンプライアンスの要請が強まっている。ルールを増やすのは容易だが、減らすのは難しい。そのため自然とルールは増える。テレワークでの勤怠管理もストレスが多い。管理、管理、管理…コンプラ、コンプラ、コンプラ…の「コンプラ疲れ」が溢れている。

 とはいえ、増えすぎたルールを減らすのも勇気とエネルギーが要る。テレワークで気軽に相談もしにくくなった。だから多くの人が見て見ぬ振りをして、「とりあえず守っとけばいいや」という保身から問題を先送りしている。個別最適で違和感を放置する悪しき「思考停止」だ。それでさらに「ブルシット・ジョブ」(無意味でどうでもいい仕事)が増える。日々の業務の中で、「ブルシット・コンプライアンス」と呼べる作業も多いはずだ。

 例えば、「気温30℃以上の日にはプールに入らない」規則を定めた小学校で、代わりに校庭でリレー競争を行い、生徒3人が熱中症になった。笑えないが本当の話だ。官僚的・本末転倒的なコンプライアンスは後を絶たない。野中郁次郎教授は、10年以上前から「オーバー・コンプライアンス(コンプラ過多)」が日本企業の三大疾病の一つと警鐘を鳴らしているが(『日本企業にいま大切なこと』)、コンプラ過多はもはや病膏肓に入る感がある。

 そこで私は、全体最適で「自分の頭でモノを考える」ために、コンプライアンスの代わりに「インテグリティ」を唱えている(『インテグリティ ―コンプライアンスを超える組織論』(注5)。インテグリティとは、良心を発揮するリーダーシップとチーム感のあるコミュニケーションを重視し、組織の一体性を確保する考えだ。管理・論理の文脈で扱われるコンプライアンスを横軸に、自主性とリーダーシップを重視するインテグリティを縦軸にそれぞれ置くと、コンプラ過多は「衰退」をもたらす右下に位置する。インテグリティはまだ不明瞭な概念なため、これのみでは「不安定」だ。両者のバランスをとって「成長」につなげたい。

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 以上、4象限の切り口で整理できるものを7つまとめた。

  1. 形式知/暗黙知
  2. マネジメント/リーダーシップ
  3. 左脳/右脳
  4. 規律/自由
  5. 老人の知恵/若手の活力
  6. 戦術/戦略
  7. コンプライアンス/インテグリティ

 特にコロナ禍で対話が減っている中、これらの対立概念のバランスを取ることが重要だ。対話を重ねてPDCAを高速回転し、この対立概念の間を「振り子」のように調整し、さらなる高みへスパイラルアップ(螺旋的成長)する。これがヘーゲルの弁証法でいうアウフヘーベン(揚棄)である。コロナ禍でストレスが溜まっている今ほど、魂の通じ合う対話を通じたスパイラルアップが求められる時代はない。

 我々は、コロナ・テレワークのお陰で「痛勤」から解放されて自由になったように感じているが、本当の意味で「自由」になっているだろうか。自由には以下の2つがある。

  • 消極的自由:~からの自由/~しない自由
  • 積極的自由:~への自由/~する自由

 コロナ+テレワー

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筆者

中山 達樹

中山 達樹(なかやま・たつき) 

 1998年、東京大学法学部卒業。2010年、シンガポール国立大学ロースクール修士課程(アジア法専攻)修了。シンギュラリティー大学エグゼクティブ・プログラム修了、リー・クアンユー公共政策大学院リーダーズ・プログラム修了。
 2005年10月、弁護士登録(第一東京弁護士会、58期)。2010年6月から2011年6月までDrew & Napier LLC(シンガポールの法律事務所)。2015年8月、中山国際法律事務所開設、代表弁護士。2016年1月、公認不正検査士登録。2022年、経営倫理士。
 主要著書に『グローバル・ガバナンス・コンプライアンス』、『インテグリティ -コンプライアンスを超える組織論』(中央経済社)など。グローバル・ガバナンス・コンプライアンス及びインテグリティに関する講演多数。環太平洋法曹協会(Inter-Pacific BarAssociation)にて要職を歴任。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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