インサイダー取引規制の「重要事実」とどう違うのか
2022年08月03日
いわゆる銀証ファイアーウォール規制は、主に金融グループ内の銀行・証券会社間における顧客の非公開情報等の授受禁止(以下「情報授受規制」という。)等から成る規制である。その趣旨は、金融グループ内の情報授受等の結果として生じ得る各種の弊害(顧客情報の不適切な管理、利益相反取引、優越的地位の濫用等)に対する事前予防である(注1)。
近時、金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」第一次報告(2020年12月23日)を踏まえた金融商品取引業等に関する内閣府令(以下「金商業等府令」という。)の改正により、外国法人の非公開情報等が情報授受規制の対象から除外された(2021年6月30日施行)。また、金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」第二次報告(同月18日)(以下「第二次報告」という。)を踏まえた金商業等府令の改正により、上場会社等(注2)が、そのオプトアウト(注3)に応じて非公開情報等の提供が停止されることとなっている旨を容易に知り得る状態に置かれているときは、当該上場会社等の同意を要せず、当該上場会社等がオプトアウトするまでは、その非公開情報等の授受を行うことができるという、上場会社等の非公開情報等に限定した新たなオプトアウト制度を設けること等を内容とする規制緩和が行われた(2022年6月22日施行)。
他方、上場会社等の非公開情報等については、その多くが「法人関係情報」に該当し、金商業等府令上の法人関係情報に係る規制の対象となっている。今般、新たなオプトアウト制度の導入により、金融グループ内での上場会社等の非公開情報等の共有が進むことが予想される一方、それに比例して、共有された法人関係情報を利用した不公正取引が行われることを防止する必要性も高まっている。そこで、 上場会社等の非公開情報等に関する情報授受規制の緩和と同時に、銀行にも証券会社と同等の法人関係情報に係る規制を適用する金商業等府令の改正や、法人関係情報のより実効的な管理のため、金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針等の改正も行われている。
このように、上場会社等の非公開情報等に関する情報授受規制の緩和の反面として、法人関係情報管理の実効性向上に焦点が当てられるようになっている一方、「法人関係情報」は、インサイダー取引規制の対象となる「重要事実」及び「公開買付け等事実」(以下、併せて「重要事実等」という。)よりも広範な概念であり、個別具体的な類型や数値基準も設けられていないことから、その外延が必ずしも明確ではない。本稿では、この「法人関係情報」概念について、改めて検討・整理を試みることとしたい。
銀証ファイアーウォール規制としての情報授受規制の対象となる非公開情報等とは、具体的には、非公開情報、非公開融資等情報及び特別情報である。
非公開情報とは、次の1、2をいう(金商業等府令1条4項12号)。
非公開融資等情報とは、次の1、2をいう(金商業等府令1条4項13号)。
特別情報とは、顧客の財産に関する公表されていない情報その他の特別な情報をいう(金商業等府令123条2項)。
上場会社等に関して言えば、要するに、その運営・業務・財産に関する公表されていない重要な情報であって、顧客の投資判断に影響を及ぼすと認められるもののほか、有価証券の売買その他の取引等に係る注文の動向等、銀行・証券会社等の役職員が職務上知り得た特別な情報が、非公開情報等に含まれる。
金商法38条9号の委任を受けた金商業等府令117条1項14号~16号において、金融商品取引業者等(注4)とその役職員は、次の1~4を禁止されている(注5)。
また、金商法40条2号の委任を受けた金商業等府令123条1項5号において、金融商品取引業者等は、法人関係情報に関する管理又は顧客の有価証券の売買その他の取引等に関する管理について法人関係情報に係る不公正な取引の防止を図るために必要かつ適切な措置を講じることが求められている。
ここで、法人関係情報とは、次の1、2をいう(金商業等府令1条4項14号)。
業務等に関する法人関係情報は、インサイダー取引規制における「業務等に関する重要事実」(金商法166条1項)と対応し、公開買付け等に関する法人関係情報は、インサイダー取引規制における「公開買付け等事実」(同法167条3項)と対応している。法人関係情報に係る規制は、昭和63年の証券取引法改正によるインサイダー取引規制の導入と併せて設けられたという経緯からも明らかなとおり、インサイダー取引の未然防止を趣旨とする規制である。インサイダー取引規制は、市場の公正性と健全性に対する投資家の信頼を確保することを趣旨とする規制であるところ、金融商品取引業者等とその役職員は、市場の仲介者として、市場の公正性と健全性の確保において重要な役割を担っていることから、特に法人関係情報に係る規制の対象とされている。
以上のとおり、銀証ファイアーウォール規制としての情報授受規制と、法人関係情報に係る規制は、その沿革や趣旨が異なるものの、情報授受規制の対象となる非公開情報等のうち、上場会社等の運営・業務・財産に関する公表されていない重要な情報であって、顧客の投資判断に影響を及ぼすと認められるものについては、その定義上、業務等に関する法人関係情報にも該当し、それ以外の銀行・証券会社等の役職員が職務上知り得た特別な情報についても、上場会社等に対する公開買付け等に関するものは、公開買付け等に関する法人関係情報に該当することになる。このように、上場会社等の非公開情報等については、その多くが「法人関係情報」に該当すると考えられる。
第二次報告26頁においても、上場会社等の非公開情報等に関する情報授受規制の緩和に伴い、登録金融機関としての銀行に対しても証券会社と同様の法人関係情報に係る規制を課すことが適当であると提言され、また、法人関係情報管理におけるプライベート部門(注6)とパブリック部門(注7)との間のチャイニーズウォール(注8)構築やその具体的な方法、ウォールクロス(注9)を行う際の体制整備のあり方のほか、法人関係情報以外の顧客情報も含めたNeed to know原則(注10)に基づく情報管理の徹底の必要性等、監督指針等において具体的に示していくことが適当であると提言された。
従前、法人関係情報に係る規制のうち、自己勘定取引規制(金商業等府令117条1項16号)については、登録金融機関が名宛人から除かれていたが、上記提言を受けて、同号の改正により、登録金融機関としての銀行も名宛人として追加された。また、金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針等の改正により、プライベート部門とパブリック部門との間のチャイニーズウォールの設置、ウォールクロスを行う場合の手続、グローバルのグループベースでの法人関係情報管理等について、監督上の指針がより具体的に示された。なお、これらの改正と併せて、日本証券業協会「『協会員における法人関係情報の管理態勢の整備に関する規則』に関する考え方」も改正され、「協会員が金融グループ内の他社から顧客に関する非公開情報を取得した場合において、当該情報が上場会社等の運営、業務又は財産に関する公表されていない重要な情報であって顧客の投資判断に影響を及ぼすと考えられるときは、協会員は当該情報を法人関係情報として管理する必要があることに留意する。」旨等が示された(2022年6月22日施行)。
このように、上場会社等の非公開情報等に関する情報授受規制の緩和の反面として、法人関係情報管理の実効性向上に焦点が当てられるようになっており、どのような情報をどの時点で法人関係情報として捉え、管理していくべきか、「法人関係情報」概念を改めて検討・整理することが有益である。
インサイダー取引規制の対象となる「重要事実」は、決定事実(金商法166条2項1号・5号・9号・12号)、発生事実(同項2号・6号・10号・13号)、決算情報(同項3号・7号・11号)及びバスケット条項(同項4号・8号・14号)の4類型に大別されるところ、決定事実、発生事実及び決算情報については、その内容が個別具体的に規定された上、数値基準(決定事実・発生事実に係る軽微基準、決算情報に係る重要基準)が定められている一方、投資者の投資判断に対する影響が要件として規定されておらず、形式的に重要事実該当性が判断されることとなる。これに対し、バスケット条項は、投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすという実質に着目した規定となっている(注11)。
法人関係情報については、決定事実、発生事実及び決算情報のような個別具体的な規定がなく、数値基準も定められていない。バスケット条項のように、投資者の投資判断に影響を及ぼすという実質に着目して、法人関係情報該当性が判断されることとなる。
重要事実のうちバスケット条項が、「上場会社等の運営、業務又は財産に関する重要な事実であつて投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの」(金商法166条2項4号)と規定されていることと比較すれば明らかなとおり、重要事実は「事実」であって、投資者の投資判断に「著しい影響を及ぼす」ものであるのに対し、法人関係情報は「情報」であって、投資者の投資判断に「影響を及ぼす」と認められるものであるという2点において、重要事実よりも広範な概念となっている。
すなわち、「情報」は「事実」を包含し、「事実」よりも広範な概念であると考えられる。推測によって得られた確定的でない情報であっても、その確度ないし信憑性の程度によって顧客の投資判断に影響を及ぼすと認められる重要な情報と言える場合には、法人関係情報に該当し得る(注12)。
また、投資者の投資判断に「著しい」影響を及ぼすものである必要はなく、単に影響を及ぼすものであれば足りる。バスケット条項の「投資者の投資判断に著しい影響を及ぼす」とは、通常の投資者が当該事実を知った場合に、当該上場株券について当然に「売り」又は「買い」の判断を行うと認められることであるのに対し(注13)、法人関係情報の「投資者の投資判断に影響を及ぼす」とは、投資者の投資判断について結論を左右する蓋然性があれば足りると考えられる(注14)。
この2点の違いを踏まえれば、重要事実のうち決定事実については、「業務執行を決定する機関」による、法令に列挙された事項を「行うことについての決定」が要件となるのに対し、未だ「業務執行を決定する機関」による「行うことについての決定」に至らない段階であっても(投資判断に「著しい影響を及ぼす」「事実」には至らない段階であっても)、法人関係情報に該当する可能性があると考えられる。例えば、業務執行を決定する機関による決定には至っていないと考えられるものの、担当部門において具体的な検討を進めている場合のように、将来的に重要事実となる相当の可能性がある場合には、投資判断に「影響を及ぼす」情報に該当し、法人関係情報となると考えられる(注15)。
これと同様に、重要事実のうち発生事実については、実際に「事実」が「発生したこと」が要件となるのに対し、未だ事実の発生に至らない段階であっても、法人関係情報となる可能性がある。例えば、「主要株主の異動」は発生事実とされているが(金商法166条2項2号ロ)、その発生に至らない段階であっても、主要株主が、主要株主の異動を伴う株式の売却を行う意思を有しているという情報は、法人関係情報に該当する可能性がある(注16)。
また、重要事実のうち決算情報については、年度(通期)ベースの情報に限られると解されており、かつ、前述のとおり、重要基準に該当するものに限られる(注17)。これに対し、フェア・ディスクロージャー・ルール(注18)(以下「FDルール」という。)の対象となる「重要情報」については、インサイダー取引規制の対象となる情報、及び決算情報(年度又は四半期の決算に係る確定的な財務情報)であって、有価証券の価額に重要な影響を与える情報が、最低限の情報管理の範囲とされており、何が有価証券の価額に重要な影響を与えるのか判断が難しい場合には、公表前の確定的な決算情報(年度又は四半期の決算に係る確定的な財務情報)を全てFDルールの対象として管理することが考えられるとされている(注19)。また、決算に関する定量的な情報のみならず、増収見込みである旨などの定性的な情報も、「決算情報」に該当すると考えられている(注20)。
そして、FDルールにおける「重要情報」とは、上場会社等の運営・業務・財産に関する公表されていない重要な情報であって、投資者の投資判断に重要な影響を及ぼすものをいい(金商法27条の36第1項)、その定義上、投資者の投資判断に「重要な影響」を及ぼすものであることが要件とされていることから、法人関係情報に包含される概念であると考えられる。
このようなFDルールの考え方を踏まえれば、公表前の確定的な決算情報(年度又は四半期の決算に係る確定的な財務情報)については、定量的な情報か定性的な情報かにかかわらず、基本的に法人関係情報に該当し得ると考えられる。行政処分事例(注21)においても、公表前の四半期の業績に関する情報や、公表前の半期の連結業績予想(営業利益)に関する情報が、法人関係情報に該当するとされており、法人関係情報の範囲は、重要事実のように年度(通期)ベースの情報に限られるものではないことが示されている。
日本証券業協会は、法人関係情報の管理について、自主規制規則として「協会員における法人関係情報の管理態勢の整備に関する規則」を制定し、同規則8条に基づき、「『協会員における法人関係情報の管理態勢の整備に関する規則』に関する考え方」を定めている。そこでは、法人関係情報のほか、
についても管理対象とするとの考え方が示されている。
高蓋然性情報の例としては、具体的方法の決定には至っていないが、一定の時期や規模が想定される資本調達ニーズに関する情報等が挙げられている。
また、示唆情報等の例としては、次の1、2が挙げられている。
このように、日本証券業協会は、法令上の法人関係情報に係る規制を超えて、高蓋然性情報及び示唆情報等についても、法人関係情報と同等の管理対象とすることを志向しており、これを受けて、実務的には、顧客情報についてかなり早期の段階から幅広く、法人関係情報、高蓋然性情報又は示唆情報等として管理されているのが実情である。なお、証券会社のみならず、登録金融機関である銀行も、日本証券業協会の協会員(特別会員)として、同様の管理が求められる。
前述のとおり、法人関係情報は、重要事実よりも広範な概念であり、かつ、個別具体的な類型や数値基準も設けられていないため、証券会社や銀行としては、インサイダー取引の未然防止あるいは市場の公正性と健全性の確保という趣旨を踏まえつつ、情報の入手先、情報の内容の具体性・進捗程度・規模等を勘案して、法人関係情報該当性を判断する必要がある。また、高蓋然性情報や示唆情報等についても、実務上、法人関係情報と同様の管理対象とすることが求められている。こうして、証券会社や銀行が管理すべき情報の外延は、非常に不明確なものとなっている。現実には、どのような情報がどの時点で法人関係情報に該当するかの判断をすることは難しいケースも多く、どうしても管理対象を保守的に、広めに捉える方向に流れてしまいがちであることは否めない。しかし、法人関係情報を過度に広範に解することにより、内部での円滑な情報共有が進まず証券会社や銀行が市場の仲介者としての役割を十分に発揮できなくなると、投資者の利便性を損なうことにも繋がりかねない。
この点、日本証券業協会が、「協会員における法人関係情報の管理態勢の整備に関する規則」4条において、各協会員に対し、法人関係情報の管理に関する社内規則を定めることを義務付けるとともに、標準的な社内規程モデルを作成しており、実務的には、その別表「上場会社等及びその子会社並びに上場投資法人等及びその資産管理会社の運営、業務、財産に係る重要な情報等」に列挙された項目が、法人関係情報に該当するものとして参照されている。
同別表は、インサイダー取引規制における重要事実及び上場会社が金融商品取引所から開示を義務付けられている適時開示情報を基本としつつ、法人関係情報として扱う必要がないと考えられるものを除外する一方、重要事実及び適時開示情報以外にも法人関係情報として扱うべきものを追加して構成されている。ただし、同別表の冒頭にも記載されているとおり、同別表に列挙された項目に該当する事象であっても、軽微基準等により、個別具体的には、投資判断に影響を及ぼす可能性のない事象もあると考えられる。また、列挙されていない項目であっても、個別具体的には、投資判断に影響を及ぼす可能性のある事象もあると考えられる。法人関係情報該当性は、飽くまでも投資者の投資判断に影響を及ぼすという実質に着目して個別に判断される。
とはいえ、決定事実・発生事実の軽微基準に該当する場合や決算情報の重要基準に該当しない場合でも全て法人関係情報に該当すると捉えるのもまた、行き過ぎではないかと考えられる。例えば、法定の重要事実の数値基準の更に10分の1の水準(重要事実において「純資産額の30%未満」、「売上高の10%未満」といった軽微基準が設けられている項目については、「純資産額の3%未満」、「売上高の1%未満」といった水準)をも下回る非常に軽微な場合には、類型的に見て、投資者の投資判断に影響を及ぼすような情報ではなく、特段の事情がない限りは法人関係情報に該当しないと評価することも、実務的な目安として合理的ではないかと考えられる。
インサイダー取引規制においては、「職務に関し知った」等、金商法166条1項各号又は167条1項各号に定める態様により重要事実等を知った会社関係者等又は当該会社関係者等から重要事実等の伝達を受けたいわゆる第一次情報受領者のみが、規制対象とされる。
一方、法人関係情報に係る規制においては情報の入手態様・経路が限定されておらず、金商法166条1項各号又は167条1項各号に定められていない態様により法人関係情報を取得したり、会社関係者等以外の情報源から法人関係情報を取得したりした場合であっても、規制対象とされる。
例えば、東京高判平成29年6月29日判時2369号41頁は、上場会社等に由来しない法人内部の事実や、重要事実とは関係がないような事実も含み得る複数の断片的な情報を組み合わせることによって重要事実を認識するという考え方は、証券会社営業員個人の資質に左右される主観的な推測との区別を曖昧なものとすること等から採用できないとして、証券会社営業員が、重要事実(公募増資を行うことについての決定)を「職務に関し知った」(金商法166条1項5号)ということはできない旨を判示した。他方、同一事案に関し、前掲東京地判平成29年4月21日は、推測によって得られた確定的でない情報であっても、その確度ないし信憑性の程度によって顧客の投資判断に影響を及ぼすと認められる重要な情報と言える場合には法人関係情報に該当し得るとして、証券会社営業員が法人関係情報(公募増資の実施の公表が2010年9月29日らしいとの趣旨の情報)を取得した旨を判示した。このように、同一事案であっても、重要事実か法人関係情報かによって結論が分かれ得る。
また、第二次以下の情報受領者であっても、法人関係情報に係る規制の対象とされることとなるが、情報伝達経路が長ければ、それに応じて情報の確度も下がり、確度の低い情報は「重要性」の要件を満たさず、投資判断に影響を及ぼすこともないため、法人関係情報に当たらなくなると考えられる(注22)。更に、市場に流れる噂や憶測といった不確実な情報については、基本的に法人関係情報に該当しないと考えられる。このことは、前掲東京地判平成29年4月21日が、推測情報であってもその確度・信憑性の程度によっては法人関係情報に該当し得る旨を判示したことと同様であり、情報の確度・信憑性の程度も勘案して、法人関係情報該当性が判断されることとなる。
法人関係情報は、その定義上、「公表されていない」情報とされていることから(金商業等府令1条4項14号)、公表されれば法人関係情報に該当しないこととなる。
この点、インサイダー取引規制の対象となる重要事実等の「公表」の方法は、大要次の1~4に限定されている(金商法166条4項、167条4項、金融商品取引法施行令30条)。
法人関係情報の「公表」の意義について、金融庁はインサイダー取引規制における重要事実等の「公表」と同一に解しているようであるとの指摘も見られるが(注24)、株主が提出した大量保有報告書の変更報告書の公衆縦覧をもって法人関係情報の公表とされたと見られる行政処分事例もある(注25)。そして、重要事実等の「公表」とは異なり、法人関係情報の「公表」については、定義が設けられていない。重要事実等の「公表」の方法が限定列挙され、詳細な規定が設けられているのは、犯罪として処罰される行為であるか否かを区別する極めて重要な基準であるからであり(注26)、法人関係情報の「公表」をこれと同義に解すべき必然性はない。
むしろ、前述のとおり、法人関係情報は重要事実等よりも広範な概念であり、重要事実等に該当しない法人関係情報があり得るところ、実務上、そのような法人関係情報については、必ずしも重要事実等の「公表」の方法がとられるとは限らない。仮に、重要事実等の「公表」の方法がとられない限り、法人関係情報が残り続けることとなると、証券会社や銀行は、いつまでも勧誘や取引に制約を受け続けることになりかねず、投資者にとっての利便性も損なわれかねない。
以上を踏まえれば、重要事実等の「公表」に該当しない場合でも、情報の正確性が確保される方法により、法人関係情報が一般に入手可能となった場合には、法人関係情報の「公表」に該当すると考えられる(注27)。
この点、FDルールにおいては、自社ウェブサイトに重要情報を掲載する方法についても、重要情報を集約して掲載し、1年以上投資者が無償でかつ容易に閲覧することができるようにすれば、重要情報の「公表」に該当するとされており(金商法27条の36第4項、金融商品取引法第二章の六の規定による重要情報の公表に関する内閣府令10条)、このような自社ウェブサイト上でのプレスリリースは、法人関係情報の「公表」にも該当すると考えられる。
「法人関係情報」の外延
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