2022年08月04日
東芝の混迷など改めて日本のコーポレート・ガバナンス(企業統治)が問われている。会社の監査役や監査等委員は経営者を監査・監督する大切な役目を担っているが、十分に機能しているのか。監査役らの意識改革は進んでいるのか。監査役に代えて、監査等委員や監査委員を置くことができる制度になり、その一長一短も議論されている。昨年11月に日本監査役協会の会長に就いた日本製鉄の松野正人・監査等委員(65)にインタビューした。松野会長は日本製鉄の取締役であり、監査等委員でもある。この監査等委員について「監査活動の充実にとっていいことだ」と語った。
――昨年11月の就任から半年がたちました。監査役等の制度について、どのような課題を感じていますか。
「従前から言われていることですが、(監査委員や監査等委員を含む)監査役等に対し、社会の認知度や評価がまだまだ十分ではないと思っています。その役割、責任の重さから言って、もっと高める必要があります」
「気候変動への対応などサステナビリティといった新たな分野も監査の対象となっています。日本監査役協会は、会員にとってシンクタンク的な役割を果たしたいと考えています。一般的に、監査の専門家が監査役に就任するわけではありません。求められるスキルや知見について、相互研鑽を重ね、自己啓発を促すよう、支援をしていきたい」
――女性の登用が社会的な課題になっています。政府は管理職の比率などを開示させる意向です。こういう課題に監査役等が積極的に関わっていくべきですか。
――適法性監査だけでなく、監査役は業務の妥当性に踏み込むべきだ、という意見もあります。
「コーポレートガバナンス・コードの中にも、そのような趣旨が盛り込まれています。社会的にも、そういう理解になりつつあると思います。決して悪いことではありません。ただ、会員のみなさんのことを考えると、ソフトローにおける明確化や社会的コンセンサスの醸成などでもいいのですが、あと1歩踏み込んだモノができるといいなと思っています」
「品質不正などの企業不祥事が続き、監査役等の責任も取りざたされています。不正や不祥事防止に向けた監査活動では、業務の相当性の監査も重要になります。今の制度は、適法性監査があってそれとの関連性の妥当性監査であるという理解をされることが多いのが実情です。監査役が動きやすく、やりやすい環境作りを議論していきたいと思っています」
――2021年6月にコーポレートガバナンス・コードが改定され、監査役が次の監査役を決めることに一定の役割と責務を果たすことになりました。
「協会の取り組みの成果の一つだと思います。監査役の力になります。ただ、監査役が次の監査役について、人事権を持つということではないと思っております。監査役側には、人材に関するデータやネットワークがあるわけではなく人事機能を持っていないのが事実です。選任案を策定するのは執行側ですが、事前に監査役側のニーズや意向を踏まえて案をつくってほしい、ということだと思います。経営側が独自に決めて、監査役側の同意を求めるのではなく、必要なスキルや知見について議論を重ね、それに合う人材を提示してもらい、よりよい監査役の体制構築になればいい。コミュニケーションが大切なのです」
――会計監査人(監査法人など)がどんなことに重点を置いたかを公表するKAM( Key Audit Matters=監査上の主要な検討事項)の強制適用制度が2年目となります。監査役等と会計監査人との関係は変わりましたか。日本監査役協会が2021年12月にまとめた監査役等を対象にしたアンケートでは、会計監査人とのコミュニケーションに変化はなかったという回答も一定数ありました。
「監査役等、会計監査人、経営者の連携は確実に
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