メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

東京証券取引所市場再編の上場維持基準と「流通株式比率」改善手法

上田 真嗣

拡大上田 真嗣(うえだ・まさし)
 2006年、東京大学法学部卒。2008年、慶應義塾大学法科大学院修了(J.D.)。司法修習(62期)を経て2009年、弁護士登録(第二東京弁護士会)。2016~2018年、みずほ証券株式会社 プロダクツ本部 コーポレートファイナンス部 出向。2019年、Vanderbilt University Law School修了(LL.M.)。2022年1月、西村あさひ法律事務所パートナー就任。

1. はじめに

 2022年4月4日から、東京証券取引所は、市場第一部、市場第二部、マザーズ及びJASDAQ(スタンダード・グロース)の4つの市場区分(以下、「旧市場区分」という。)から、プライム市場、スタンダード市場及びグロース市場の3つの市場区分(以下、「新市場区分」という。)に再編された。

 東京証券取引所が公表している各市場のコンセプトは以下の通りであるが、かかるコンセプトに応じて各市場毎に具体的な上場基準が定められている。

 かかる新上場基準(上場維持基準)は、新市場区分において新規上場した会社だけではなく、異なる基準により運用されていた旧市場区分の下で上場を行っていた会社に対しても、一定の経過措置を伴うもののその適用があるため、各上場会社にとって、上場維持基準の充足が今後の課題となり得る。そこで、本稿では、新市場区分における上場維持基準の概要について説明するとともに、当該上場維持基準のうち、実務上その充足がしばしば課題となる流通株式比率の基準について、当該比率の改善手法を説明することとしたい。

プライム市場 多くの機関投資家の投資対象になりうる規模の時価総額(流動性)を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資者との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場
スタンダード市場 公開された市場における投資対象として一定の時価総額(流動性)を持ち、上場企業としての基本的なガバナンス水準を備えつつ、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場
グロース市場 高い成長可能性を実現するための事業計画及びその進捗の適時・適切な開示が行われ一定の市場評価が得られる一方、事業実績の観点から相対的にリスクが高い企業向けの市場

2. 東京証券取引所の各市場の上場維持基準

 プライム市場、スタンダード市場及びグロース市場の新市場区分への再編に伴い、各市場の上場維持基準(有価証券上場規程501条)は、上述した各市場区分のコンセプトに応じて、以下の通り定められている。

 各市場の上場維持基準の概要(有価証券上場規程501条1項及び3項、有価証券上場規程施行規則501条7項)

項目プライム市場スタンダード市場グロース市場
上場維持基準 改善期間 上場維持基準 改善期間 上場維持基準 改善期間
株主数 800人以上 1年 400人以上 1年 150人以上 1年
流通株式数 20,000単位以上 2,000単位以上 1,000単位以上
流通株式
時価総額
100億円以上 10億円以上 5億円以上
売買代金
/売買高
日次平均売買代金0.2億円以上 月平均売買高10単位以上 6か月 月平均売買高10単位以上 6か月
流通株式比率 35%以上 原則1年 25%以上 原則1年 25%以上 原則1年
純資産額 正であること 原則1年 正であること 原則1年 正であること 原則1年
時価総額 - - - - 上場から10年経過後40億円以上 1年

 上記のように、流通株式比率については、プライム市場では35%以上であるのに対して、スタンダード市場及びグロース市場ではそれよりも低い25%以上とされているのは、ガバナンスの観点から、プライム市場においては「投資家との建設的な対話の促進の観点から、いわゆる安定株主が株主総会における特別決議可決のために必要な水準(3分の2)を占めることのない公開性を求め」ているのに対して、スタンダード市場及びグロース市場においては「上場会社として最低限の公開性を求める(海外主要取引所と同程度の基準を採用)」ことによるものであると東京証券取引所は説明している。

 上場維持基準に適合しない状態となった場合には、原則として、当該状態となった時から起算して3か月以内に「上場維持基準への適合に向けた計画」の開示が必要になるとともに(有価証券上場規程501条3項、408条)、改善期間内に当該基準に適合しない場合には、上場廃止となる(有価証券上場規程601条1項1号)。

 もっとも、新市場移行日である2022年4月4日よりも前に上場していた会社(新市場移行日以後に市場区分の変更を行った会社等を除く。)については、上場維持基準への適合計画及びその進捗状況の開示を行い、改善に向けた取組を図ることで、当分の間、経過措置として緩和された上場維持基準が適用されることになる。

 2022年4月4日時点の上場会社数は、それぞれプライム市場が1839社、スタンダード市場が1466社、グロース市場が466社であるが、そのうち、上場維持基準への適合計画を開示している上場会社数は、プライム市場が295社、スタンダード市場が209社、グロース市場が45社となっている(東京証券取引所「各市場区分の上場会社数」)。

 かかる上場維持基準への適合計画において、基準に適合していない項目として、流通株式比率が挙げられている場合も多い。

 流通株式比率を改善させるための施策としては様々な手法が考えられるものの、主な手法の概要及び留意点を以下にまとめている。

3. 流通株式の内容とその比率を改善させるための手法について

(1) 流通株式の定義について

 流通株式とは、大要、上場株式から、以下の者等が所有する株式及び東京証券取引所が流通株式に含めることが適当でないと認める株式を除いたものである(有価証券上場規程2条96号、有価証券上場規程施行規則8条1項)。

  1.  上場株式の発行者
  2.  上場株式の発行者の役員及び役員の親族等
  3.  上場株式の発行者の関係会社及びその役員
  4.  上場株式の10%以上を所有する者
  5.  銀行(信託銀行を除く。)、保険会社、事業法人等

 もっとも、上場株式の10%以上を所有する者が所有する株式のうち、大要、以下の株式は流通株式に含まれるものとされている(有価証券上場規程施行規則8条2項)。

  1.  投資信託又は年金信託に組み入れられている株式
  2.  その他投資一任契約その他の契約又は法律の規定に基づき信託財産について投資をするのに必要な権限を有する投資顧問業者若しくは信託業務を営む銀行又はこれらに相当すると認められる者が当該権限に基づき投資として運用することを目的とする信託に組み入れられている株式
  3.  投資法人等の委託を受けてその資産の保管に係る業務を行う者が当該業務のため所有する株式
  4.  証券金融会社又は金融商品取引業者が所有する株式のうち信用取引に係る株式
  5.  株式数の10%以上を所有する者以外の者が実質的に所有している株式のうち、東京証券取引所が適当と認めるもの

 上記の定義によってカウントされた流通株式の数の、上場会社の事業年度の末日における上場株券等の数に対する割合が、上場維持基準に係る流通株式比率となる。具体的な流通株式の数は、上場会社から提出される「株券等の分布状況表」の記載に基づき算出されることになる(有価証券上場規程施行規則501条1項1号)。

(2) 既存の株主が保有株式を売却する類型

 上記の流通株式の定義の通り、発行会社の役員等や、銀行(信託銀行を除く。)、保険会社や事業法人等の保有株式、10%以上の保有者の保有株式については、原則として流通株式の数には含まれないことになる。

 このような流通株式に含まれない既存株主の保有分を、その保有株式が流通株式にカウントされる者(以下、「一般保有者」という。)に取得させることにより、流通株式比率の改善につながる場合がある。以下では、かかる類型として採り得るいくつかの手法を掲げている。

 (a) 証券会社による引受けを伴う売出し

 議決権ベースで10%以上保有している主要株主、発行会社の役員又は金融機関等の保有する株式の売却の場合には、証券会社が売却する株式を引受けた上で不特定多数の投資家に販売するという、(証券会社による引受けを伴う)売出し(金融商品取引法2条4項)の手法によることが考えられる。

 実務上、発行会社が、上記のような属性を含む(複数の)既存株主からまとまった数量の売却意向を受けた場合には、株価への影響の回避や株主層の拡大を企図して、証券会社による引受けを伴う売出しが検討されることがある。

 かかる場合、発行会社は、一般的には、その他の既存株主の売却手法と比較して、売却手続きに一定程度関与することになる。もっとも、これは発行会社の手続的負担が他の売却手法と比べて大きいことも意味し、引受証券会社から引受審査を受け、発行時の開示書類作成に責任を負うなど、発行会社の負担は小さくはない。

 また、年間を通して証券会社による引受けを伴う売出しを実施できる時期(ウインドウ)は、発行会社の決算発表のタイミングやマーケットの状況等によってある程度限定されてしまい、他の売却手法と比べて売却タイミングの柔軟性が低いと考えられる。

 (b) 証券取引所の立会内取引での売却

 既存株主が保有株式を証券取引所の立会内取引により売却し、売却された株式を一般保有者が取得した場合には、流通株式とカウントされることになる。
 売却を行う既存株主の手続的な負担は相対的に少ない。
 もっとも、大量の株式の売却が企図され、株式の流動性も低い場合には、売却の完了までに日数がかかる可能性があり、長期間に渡って株価下落圧力が働く可能性がある。また、そのような場合、発行会社にとって、売却後の株主層が見通せない点はデメリットともなり得る。

 (c) ブロックトレード

 既存株主が、まとまった数量の株式を証券会社を介して機関投資家等に売却する場合に使われる手法である。証券会社がこのようなブロックトレードを仲介する場合には、既存株主が保有株式をいったん証券会社に売却し、当該証券会社から機関投資家等に転売されることになる。
 もっとも、一般的には、転売先となるのは個人ではなく少数の機関投資家であり、大口の数量を一度に売却するため、一般保有者による取得につながらず、流通株式比率の改善に資さない場合もあり得る。

 (d) 立会外分売

 既存株主の株式を小口に分けて不特定多数に対して立会外取引で売却する手法である。立会外ではあるものの取引所金融商品市場における取引となるため、売出しに係る金融商品取引法上の規制は及ばない。証券会社による引受けを伴う売出しの場合よりも柔軟に実施可能であり、また、個人に小口に分けて販売することができるため、流通株式比率の改善という観点では有効な手法と考えられる。

(3) 上場会社が株式等の新規発行又は自己株式の処分を行う類型

 既存株主がその保有株式を売却しない場合でも、株式等の新規発行又は自己株式の処分をすることで、流通株式の数を増加させることができる。以下では、かかる類型として採り得るいくつかの手法について述べる。

 (a) 公募による株式の新規発行又は自己株式処分

 証券会社による引受けを伴う株式の新規発行又は自己株式処分については、上記(2)(a)に記載した証券会社による引受けを伴う売出しの場合と同様に、発行会社の手続的負担の相対的な大きさや実施タイミングの柔軟性という観点で、他の手法と比べて劣る面がある。
 また、新規株式発行又は自己株式処分の場合には、取引実施時に一度に株式の希薄化が生じる点も(後述する新株予約権の発行の場合と比較して)デメリットとして意識されやすいところである。
 さらに、開示書類において、資金使途や公募を実施する理由の説明が求められる中で、公募の規模に見合った資金ニーズが実際にはない場合や、他の手法でも流通株式比率の改善を十分達成できる場合には、この手法を用いて流通株式比率の改善を図る合理性が十分説明できないおそれがある。

 (b) 株式の第三者割当

 株式の第三者割当においては、比較的少数の事業会社やファンド等を割当先とすることが一般的ではあるが、発行規模は投資家の出資余力等に左右され、また、投資家の属性や保有目的によっては流通株式にカウントされる一般保有者に該当せず、流通株式比率の改善につながらない可能性がある。
 さらに、開示書類について管轄財務局及び証券取引所の事前相談を経る必要があるなど、発行会社が一定程度は手続的負担を負う点や、上記(a)に記載した公募による株式の新規発行又は自己株式処分の場合と同様に、取引実施時に一度に株式の希薄化が生じる点、資金使途や第三者割当を実施する理由の開示が必要となる点に留意が必要である。

 (c) 新株予約権又は新株予約権付社債の第三者割当

 新株予約権又は新株予約権付社債の第三者割当の割当先が、割当後の期中に新株予約権を行使し、取得した株式を市場で売却していくスキームである場合には、流通株式比率の改善に資すると考えられる。
 もっとも、発行会社が開示書類の作成等の手続的負担を負う点や、資金使途や第三者割当を実施する理由の開示が必要となる点は、上記(b)に記載した株式の第三者割当の場合と同様である。

 (d) ストックオプション制度や株式報酬制度に基づく役職員に対する割当

 上記の流通株式の定義の通り、発行会社の役員等がストックオプションの行使や株式報酬制度によって取得した株式を保有する場合は、流通株式には含まれない。もっとも、当該取得した株式を市場で売却することが期待できる場合には、流通株式比率の改善に一定程度資するものと考えられる。

(4) 自己株式の取得

 上記の流通株式の定義の通り、上場株式の発行者の自己株式は流通株式には含まれない。
 したがって、市場での自己株式取得や、特定の大株主からの自己株式取得のみでは流通株式比率は改善せず(むしろ流通株式数が減少し、当該比率が悪化する場合もある。)、取得した自己株式を消却することで上場株式の総数を減少させるか、取得した自己株式を新株予約権等の第三者割当における新株予約権行使時の交付株式として使用するなど、一般株主が取得するように建て付ける必要があると考えられる。
 また、自己株式の取得は会社法上の財源規制(会社法461条)に服するため、上場会社の財務状況によっては実施が難しい場合がある。

(5) 各手法の組み合わせ

 上記の各手法のうちの複数を、同時に又は異なるタイミングで実施することも考えられる。特に、ストックオプション制度や株式報酬制度に基づく役職員に対する割当は、他の手法の検討と並行して実施される場合も多いと思われる。
 また、実務上、①公募増資(上記(3)(a))及び証券会社による引受を伴う売出し(上記(2)(a))、②既存株主による証券取引所の立会内取引での売却(上記(2)(b))及び自己株式取得(及び消却)(上記(4))、③新株予約権等の第三者割当(上記(3)(c))及び自己株式取得(上記(4))といった組み合わせにより、一体のスキームとして実施されることもあり得る。

4. おわりに

 以上の通り、新市場

・・・ログインして読む
(残り:約275文字/本文:約6502文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

上田 真嗣

上田 真嗣(うえだ・まさし) 

 2006年、東京大学法学部卒。2008年、慶應義塾大学法科大学院修了(J.D.)。司法修習(62期)を経て2009年、弁護士登録(第二東京弁護士会)。2016~2018年、みずほ証券株式会社 プロダクツ本部 コーポレートファイナンス部 出向。2019年、Vanderbilt University Law School修了(LL.M.)。2022年1月、西村あさひ法律事務所パートナー就任。
 主な論文に「株式交付を利用した子会社化 - GMOインターネットがOMAKASEを子会社化した事例 -」(共著、旬刊商事法務No.2278、2021年11月15日号)などがある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

上田 真嗣の記事

もっと見る