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親会社からの事業切り離し「スピンオフ」の課税と制度の最新動向

中村 真由子

1. はじめに

 スピンオフとは、既存の子会社の株式又は切り出した事業を承継させた子会社の株式を、親会社の株主に対して、その保有株式数に応じて交付することにより、当該子会社又は事業を切り離し、経営を独立させる仕組みをいう。スピンオフによる効果として、経営の独立により中核事業への専念が可能となり、迅速・柔軟な意思決定が可能となることや、資本の独立により事業に即した資本構成が可能になること、コングロマリット・ディスカウントの解消等により、企業価値の向上が期待されるものと指摘されている。我が国においては長らく、税務上の影響によりスピンオフの利用が妨げられていると指摘されていたが、平成29年度税制改正によりスピンオフ税制が整備され、一定の要件を満たすスピンオフについては、譲渡損益課税の繰延・みなし配当課税の不適用により法人・株主共にスピンオフに伴う課税負担を生じさせることなく実施することが可能となった(注1)

 このような制度の整備にもかかわらず、我が国における上場会社によるスピンオフの実施例は1件(2020年の株式会社コシダカホールディングスによる株式会社カーブスホールディングスのスピンオフ)にとどまっているが、2021年には株式会社東芝によりスピンオフの計画が公表され、また、RMBキャピタルから株式会社フェイスに対して子会社である日本コロムビア株式会社のスピンオフが株主提案され、臨時株主総会の招集請求がなされる等、スピンオフの実施に向けた動きが注目を集めている(但し、いずれのスピンオフ提案についても、株主意思を確認するための株主総会において否決されている)。そこで、本稿では、我が国におけるスピンオフに関する制度の概要と今後の課題を紹介したい。

2. 我が国におけるスピンオフの制度の概要

 我が国においてスピンオフ税制により税制適格要件を満たすスピンオフは、大要、①自社内のスピンオフ事業を新設分割により切り出し、新設会社の株式を株主に交付する分割型分割(人的分割)型か、②スピンオフ対象となる100%子会社の株式を株主に対して現物配当する株式分配型の2つの類型が存在する(注2)。それぞれの税制適格要件の概要は以下のとおりである。

 ①適格分割型分割(法人税法2条12号の11 ニ、同法施行令4条の3第9項)

(i) 株式のみ按分交付要件:分割により分割法人が交付を受ける分割承継法人の株式の全てが分割法人の株主に交付されるもので、分割法人の株主の持株数に応じて分割承継法人の株式のみが交付されること
(ii) 非支配要件:分割法人が分割の直前に他の者による支配関係がない法人であり、かつ、分割承継法人が分割後に他の者による支配関係があることとなることが見込まれていないこと
(iii) 役員継続要件:役員又は分割事業に従事している重要な使用人のいずれかが分割承継法人の特定役員となることが見込まれること
(iv) 主要資産等移転要件:分割事業に係る主要な資産・負債が分割承継法人に移転すること
(v) 従業員継続要件:分割事業に係る80%以上の従業者が分割後に分割承継法人の業務に従事することが見込まれること
(vi) 事業継続要件:分割事業が分割承継法人において分割後も引き続き行われることが見込まれること

②適格現物分配(法人税法2条12号の15の3、同法施行令4条の3第16項)

(i) 株式のみ按分交付要件:完全子法人株式の全てが移転するもので、分配法人の株主の持株数に応じて完全子法人の株式のみが交付されること
(ii) 非支配要件:現物分配法人が分配の直前に他の者による支配関係がない法人であり、かつ完全子法人が株式分配後に他の者による支配関係があることとなることが見込まれていないこと
(iii) 役員継続要件:特定役員の全てが株式分配に伴い退任するものでないこと
(iv) 従業員継続要件:80%以上の従業者が完全子法人の業務に引き続き従事することが見込まれること
(v) 事業継続要件:完全子法人の主要な事業が完全子法人において、株式分配後も引き続き行われることが見込まれること

 税制適格要件を満たしたスピンオフは、スピンオフを実施する会社において(①分割型分割については移転資産についての、②株式分配についてはスピンオフ対象子会社株式についての)譲渡損益課税が繰り延べられ(法人税法62条の2、61条の2第8項)、また株主においても、スピンオフ対象株式の現物配当についてみなし配当課税を受けないこととなる(法人税法24条1項2号及び3号括弧書、所得税法25条1項2号及び3号括弧書)。
 但し、①の分割型分割については新設分割でなければならず、②の株式分配については100%子会社について、その全ての株式を分配しなければならない(したがって、100%未満の子会社や親会社に一部持分を残したスピンオフは基本的に現行税制の下では適格要件を満たさない)点に留意が必要となる。なお、①については新設分割でなければならないため、事業を切り出す前に許認可取得等のための準備期間がとれない点がネックであったが、平成30年度税制改正によりスピンオフ準備のための組織再編も適格要件を満たすこととなったため、スピンオフ対象事業を吸収分割により準備会社に一旦承継させた上で、②株式分配によりスピンオフを実施することも可能となった。

 スピンオフに関する会社法上の手続としては、①の分割型分割については、会社分割について、簡易要件(注3)を満たさない限り株主総会の特別決議が必要となり(会社法804条1項、309条2項12号)、また、分割対価を株主に交付するための配当について、税制適格要件のうちの株式のみ按分交付要件を満たすため、株主に対して金銭分配請求権を与えない現物配当として、株主総会の特別決議が必要となる(会社法309条2項10号)。分割型分割については、分配可能額規制は適用されないものの(会社法812条)、株主に分割対価を交付する会社分割であるため、全ての債権者を対象とする債権者異議手続が必要となる(会社法810条1項2号)ほか、簡易要件を満たさない場合は反対株主に買取請求権も認められる(会社法806条)。

 ②現物分配型においても、上記と同様、株主に対して金銭分配請求権を与えない現物配当として、株主総会の特別決議が必要となる。通常の配当と同様、債権者異議手続は不要であり、反対株主買取請求権も認められないが、分配可能額規制が適用されるため、スピンオフ対象の子会社株式の帳簿価額に相当する分配可能額が必要となる(会社法461条1項8号)。

 従って、スピンオフの実施には基本的に株主総会の特別決議が必要となることとなるが、産業競争力強化法の事業再編計画の認定を受けることで、簡易要件を満たさない①分割型分割の場合を除き、剰余金配当等を取締役会が決定する旨の定款の定め(会社法459条1項)がある会社は取締役会決議、その他の会社は株主総会の普通決議で実施可能となる(産業競争力強化法31条)(注4)

 上場会社によるスピンオフの場合は、スピンオフにより株主に対する悪影響が及ぶことを避ける観点から、税制適格要件を満たすほか、スピンオフ対象の株式について証券取引所の上場承認が得られることを条件とすることになるものと思われる。また、金融商品取引法や米国証券法上の開示義務についての検討や、外為法上の事前届出業種に該当する事業をスピンオフする場合は、外国株主による事前届出の対応について検討が必要となる場合もあり、実務上の対応として検討すべき事項は多岐に亘る。この点、経済産業省産業組織課が作成した『「スピンオフ」活用の手引き』は、実例の少ないスピンオフの利用を促進する観点からスピンオフに伴う手続や実務的な論点についてのガイダンスを提供しており、参考になる。

3. スピンオフ利用促進のための課題

 このように、平成29年度・平成30年度税制改正によりスピンオフに関する税制上の障害が取り除かれ、産業競争力強化法による特例が整備されたが、上記のとおり、我が国における上場会社のスピンオフ実施例としては1件にとどまっている。

 この点、経済産業省により立ち上げられた事業再編研究会による2020年7月31付『事業再編研究会報告書』(注5)では、日本においてスピンオフが活用されない理由としては、事業売却と異なり、会社にキャッシュが入ってこないため、経営者にとってメリットが感じられにくいとの指摘が紹介され、米国等では、最初に子会社上場により親会社が当該子会社の株式の一部を売却して現金を受け取った後に、100%未満の子会社となった当該子会社の残りの株式についてスピンオフを行う事例があることから、今後の検討課題として、100%未満の子会社のスピンオフの活用に向けた制度整備が挙げられている。

 上記のとおり、我が国においては100%未満の子会社は税制適格要件を満たさないところ、100%未満の子会社のスピンオフについてスピンオフ税制の適用が認められれば、親会社が新規上場により投資回収の機会を得つつ二段階目でスピンオフを行うことが可能となるほか、親子上場解消の手段としての活用や経営陣等の少数株主が存在する子会社のスピンオフも可能となる。なお、コシダカホールディングスによるスピンオフの実例では、スピンオフ対象の子会社に少数株主が存在したものの、新株予約権を利用してスピンオフ直前に一旦100%子会社とする(少数株主はスピンオフ後に新株予約権を行使する)ことにより、税制適格要件を満たすものとの整理がなされたようである(注6)

 また、親会社に一部持分を残したスピンオフについても現行税制の下では適格要件が認められないこととなるが、税制適格要件を満たすためにはスピンオフ対象の子会社と完全に資本関係を解消することが必要となるため、子会社株式の一部売却や子会社上場のように段階的な資本関係の解消が認められる事業再編手段と比べて、企業にとっても抵抗感があるものと推察される。親会社に一部持分を残したスピンオフについても、新株予約権を用いるといったスキーム上の工夫で税制適格要件を満たす可能性も一応は考えられるが、スピンオフも組織再編成の一環として法人税法132条の2の組織再編成に係る行為計算否認規定の適用対象となるため、正面から税制措置が認められることが望ましいように思われる。

 経済産業省による令和4年度税制改正要望では、この事業再編研究会報告書を受けて、段階的に事業を切り出そうとする企業がスピンオフを活用できるよう、一部持分を残したスピンオフや完全子会社以外のスピンオフについても税制措置を拡充するよう求めている。この点、スピンオフ税制が整備された平成29年度税制改正においては、スピンオフについて適格性を認める根拠として、支配株主のいない法人の実質的な支配者はその法人自身であり、単にその法人が2つに分かれるようなスピンオフであれば、移転資産に対する支配が継続していると考えられるものと説明されているところ(注7)、このような考え方の下でも、100%未満子会社のスピンオフや親会社に少数持分を残すスピンオフについて移転資産に対する支配の継続を認められないとは必ずしも言えないように思われる。
 この税制改正要望は、令和4年度税制改正においては実現していないものの、経済産業省による令和5年度税制改正要望において一部持分を残すスピンオフについての税制措置は引き続き要望されているところ、スピンオフの活用に向けて今後も引き続き検討が進むことが期待される(注8)

4. おわりに

 スピンオフの実施に向けた制度の拡充が進むにつれ、スピンオフの実施を求める株主提案の数も増えてきたように見受けられるが、現

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筆者

中村 真由子

中村 真由子(なかむら・まゆこ) 

 2006年、東京大学法学部卒。2008年、東京大学法科大学院修了(J.D.)。2009年、司法修習(62期)を経て第二東京弁護士会登録。2016年、New York University School of Law修了(LL.M. in Corporation Law)。2017年、New York University School of Law修了(LL.M. in International Taxation)。2017年、ニューヨーク州弁護士登録。2017~2019年、外務省 国際法局 経済条約課勤務。2022年1月、西村あさひ法律事務所パートナー就任。
 主な論考に「座談会 - M&Aの現状とグローバルの潮流 - 株式交付制度導入の意義と税制上の措置等の影響」(共著、国税速報6684号、6685号)、「デジタルエコノミーと課税のフロンティア」(共著、有斐閣、2020年12月)などがある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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