メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

メキシコでの人材派遣の規制最新動向 労働法改正で登録必須に

梅田 賢

メキシコにおける人材派遣に関する近時の留意点
  - REPSE登録の対応状況を踏まえて -

拡大梅田 賢(うめだ・まさる)
 2004年、慶應義塾大学法学部卒。2007年、司法修習(60期)を経て、弁護士登録(第一東京弁護士会)。2015年、Duke University School of Law 修了(LL.M.)。2016年、ニューヨーク州弁護士登録。ニューヨーク、メキシコシティの法律事務所での勤務を経て2019年、西村あさひ法律事務所ニューヨーク事務所。2022年1月、同事務所パートナー。

1. はじめに

 自動車関連産業を中心として多くの日本企業が進出してきたメキシコでは(注1)、2018年12月に左派政権であるアンドレ・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)大統領が就任して以後、自国保護を目的とした多くの法改正が行われてきた。2021年には、AMLOは、電力の再国有化を目的とする憲法改正案を国会に提出し、メキシコ国内外を含め多くの批判がされていたところであったが、2022年4月18日、当該憲法改正案は下院において否決された。一方で、当該憲法改正案にはリチウムの国有化に関する規定が含まれていたところ、AMLOは当該憲法改正案の否決に備え、2022年4月18日にリチウムの国有化を含む内容の鉱業法改正案を提出し、同日に成立に至っている。

 このように、AMLO政権の発足以後、メキシコに進出している日本企業の事業活動にも影響のある法改正が多く行われてきたところであるが、特に注目を集めたのは、2021年4月23日に公布され、翌24日に施行された連邦労働法改正である(以下「2021年連邦労働法改正」という。)。同改正によって、メキシコにおける人材派遣は原則として禁止され、労働者の派遣を行う場合にはその事業者に一定の登録が義務づけられることになった。そのため、2021年連邦労働法改正により、メキシコに進出している日本企業も、組織体制の見直しや人材派遣を伴う取引関係の確認、当該登録の要否に関する検討を含む対応に迫られた。

 そこで、本稿では、2021年連邦労働法改正の概要について紹介すると共に(注2)、その後のメキシコにおける事業者の登録状況を含む2021年連邦労働法改正に対する対応状況を踏まえ、メキシコにおいて人材派遣を伴う取引を行う場合の留意点についてご紹介したい。

2. 人材派遣禁止及びPTUに関する改正の概要

(1) 人材派遣禁止の概要

 メキシコでは、従業員を正規に雇用せず、労働者派遣を通じて労働力を確保することで、正規雇用であれば支払われるべき給与や、提供されるべき社会保障・福利厚生の提供を免れる事例が問題視されていた。このような状況を受けて、2021年連邦労働法改正は、自然人又は法人が、第三者の便益のために自己の従業員を提供又は利用させることを「人材派遣」(subcontratación)と定義づけた上で、人材派遣を原則として禁止した(注3)

 一方、人材派遣会社を含む労働者の派遣を行う事業者が、①受益者(派遣先企業)の事業目的・主要な経済活動に含まれない専門サービス又は専門業務を提供する場合で、②当該事業者が、労働社会保障省(Secretaria del Trabajo y Previsión Social)(以下「STPS」という。)に登録を行っている場合には、例外的に人材派遣を行うことが可能となった(以下、かかる事業者を「専門業者」という。)。

 なお、グループ企業間で補完的又は共用のサービスを融通する目的で行われる場合であっても、上記①の業務を提供する限りはSTPSへの登録が必要となる。

(2) PTUに関する改正の概要

 2021年連邦労働法改正に際しては、人材派遣の禁止と併せて、労働者利益分配金(Participación de los trabajadores en las utilidades de las empresas。)(以下「PTU」という。)に関する改正も行われた。

 メキシコでは、企業の課税所得の10%に一定の調整を加えた金額を従業員に対して分配するPTUの支払が企業に対して義務づけられているところ、当該PTUの支払はメキシコの企業にとって重い負担となっていた。そこで、事業会社が直接雇用する従業員の数を減らし、グループ内又はグループ外の別会社から労働者の派遣を受けることで、事業会社におけるPTUの負担を軽減させる事例が一定数存在していた(注4)。しかし、2021年連邦労働法改正によって、PTUの負担軽減を目的とした人材派遣も禁じられることとなった。

 一方で、使用者側団体等からの人材派遣禁止に対する強い反発に配慮し、2021年連邦労働法改正では、労働者に対するPTUの支払額に上限が設定され、当該労働者の月額給与の3倍又は過去3年間のPTU受給額の平均のいずれか高い方を上限とすることが許容されることとなった(注5)

3. 専門業者による登録の開始とメキシコ進出企業の留意点

(1) 専門業者による登録の状況

 2021年連邦労働法改正によって定められた人材派遣を行う専門業者が行うべきSTPSに対する登録に関しては、2021年5月24日、連邦労働法第15条に定める専門業者としての登録に関する細則(以下「本細則」という。)が官報に公示され、翌25日から施行されている。

 本細則では、連邦労働法第15条で定められた、前記2.(1)②の登録方法が具体的に規定され、人材派遣を行う専門業者は、STPSが設置するプラットフォーム(注6))(以下「REPSE」という。)を通じて登録(以下「REPSE登録」という。)を行う旨が定められた(注7)。2021年の本細則公表後から多くのREPSE登録が行われ、2022年6月時点で11万件以上のメキシコ企業又は個人がREPSE登録を完了している。

(2) メキシコ進出企業の留意点

 既に多くの企業がREPSE登録を行っている現状において、2021年連邦労働法改正を踏まえた初期的な対応を完了しているメキシコの企業は多いものと考えられる。一方で、人材派遣を受け入れる際に、人材派遣を行う派遣元事業者が専門業者としてREPSE登録を行っていることのみをもって、派遣先企業の一切の責任が免除されるものではなく、派遣元事業者がその労働者に対する義務を含む専門業者に課せられた義務を履行しない場合にも、派遣先企業が連帯責任を負う可能性がある(注8)。したがって、人材派遣を受け入れる場合、派遣元企業となる人材派遣会社・サービス会社等の法令遵守の状況については継続的に確認することが必要となる。

 そして、2021年連邦労働法改正の施行後1年を経過した現状を踏まえて、メキシコに進出している企業が、人材派遣会社・サービス会社等から労働者の派遣を受け入れる場合に留意すべきと考えられる点は以下のとおりである。

  ① REPSE登録状況の事前確認

 まず、メキシコの企業が人材派遣を伴う取引を検討する場合、派遣を受け入れる派遣先企業は、派遣元である人材派遣会社が当該派遣の対象となる事業に関し、専門業者としてREPSE登録を完了しているか否かを確認することが必要となる。この点、REPSE登録の状況は、前記のREPSEのWebsiteにおいて公表されており、また、登録対象となっている事業内容も記載されている。したがって、人材派遣会社のREPSE登録状況は容易に確認することが可能である(注9)

  ② 人材派遣に関する契約締結時の留意点

 専門業者である人材派遣会社との間で人材派遣等に関する契約を締結する場合、当該契約は書面によることが必要とされ、また、契約書には、提供するサービスの目的又は内容、当該契約に基づいて業務に携わる労働者数の概算、REPSE登録番号、及び、事業活動に対応する番号(folio)(以下「本法定記載事項」という。)を明記することが必要となる。

 実務上、労働者派遣を伴う契約に関して、専門業者としてREPSE登録を完了している相手方との取引であっても、本法定記載事項が記載されていないまま専門業者との間の契約が継続している事例も散見される。したがって、既に人材派遣に関する契約を締結している場合には、当該契約の内容を見直し、また、今後新たに人材派遣を伴う契約を締結又は更新する場合には、当該契約に本法定記載事項が記載されていることを確認していくことが必要となる。

  ③ 専門業者の継続的な法令遵守状況の確認

 専門業者は、そのサービス・業務に係る契約に関し、契約当事者の情報、契約の対象となるサービス等の情報を年に3回(報告月は1月、5月及び9月であり、遅くとも各報告月の1月17日、5月17日、9月17日まで)、社会保険庁(IMSS)及び労働者住宅基金庁(INFONAVIT)に対して提出することが必要となる。

 派遣先企業との契約に関する情報開示の可否等については、人材派遣会社から、派遣先企業に対して予め承認を求められる場合もあるものの、当局への報告義務が適切に遵守されているか否か、また、報告されている内容の正確性については派遣先企業においても人材派遣会社に対して継続的に確認をすることが必要と考えられる。

 なお、REPSE登録の有効期間は3年間である。2022年時点においては、更新状況に関する懸念は生じないものの、2024年以降はREPSE登録の更新状況についても確認が必要となる。

  ④ 労働者を受入れる際の留意点

 専門業者は、その派遣に際して、写真、氏名、バッジ又は身分証明書によって当該労働者が専門業者の従業員であることを識別できることが求められる。

 そのため、派遣を受け入れる際には、派遣先企業においても、人材派遣会社から派遣される労働者がこれらの義務を充足していることを確認することが必要となる。

4. おわりに

 2021年連邦労働法改正に伴ってメキシコの企業に与えた影響は大きく、当該改正に対応するための組織再編やREPSE登録など、メキシコの企業は多くの対応が迫られ、これに対して短期間に迅速に対応することが求められた。もっとも、2021年連邦労働法改正と併せて

・・・ログインして読む
(残り:約1243文字/本文:約5373文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

梅田 賢

梅田 賢(うめだ・まさる) 

 2004年、慶應義塾大学法学部卒。2007年、司法修習(60期)を経て、弁護士登録(第一東京弁護士会)。2015年、Duke University School of Law 修了(LL.M.)。2016年、ニューヨーク州弁護士登録。2015~2016年、Debevoise & Plimpton LLP (ニューヨーク)勤務。2016~2018年、Basham, Ringe y Correa S.C. 法律事務所(メキシコシティ) 出向。2019年、西村あさひ法律事務所ニューヨーク事務所。2022年1月、同事務所パートナー。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

梅田 賢の記事

もっと見る