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拡大松本 拓(まつもと・たく)
 2005年3月、東京大学教育学部卒。2008年3月、早稲田大学法科大学院修了(法務博士(専門職))。司法修習(62期)を経て2010年1月、当事務所入所。2012年2~11月、インドネシア ジャカルタの法律事務所に勤務。2016年5月、米国Columbia University School of Law (LL.M.)。2017年2月、ニューヨーク州弁護士登録。2020年1月、当事務所パートナー就任。
 普段の業務、採用活動、大学講師などの様々な場面で、なぜ弁護士?なぜ企業法務?なぜこの分野?といったキャリアに関する質問を受けることがある。まだまだ若輩者と自認しているものの、企業法務弁護士としてのキャリアが長くなってくる中で、そうした質問に端的に答えるのは意外と難しくなってきた。例えば、事務所のウェブサイト(松本 拓 - アンダーソン・毛利・友常法律事務所 (amt-law.com))を見ると業務分野は分かるが、その背景が分からないのでキャリアの説明としては不十分であろう。

 振り返れば、十数年のキャリア、必ずしも順風満帆とはいかず、関心の幅が広い性格もあり、2、3年ごとに寄り道しながら今に至っている。これからも迷いながら、キャリアの螺旋階段を上り下りして歩いていくのだろう。そんなキャリアではあるが、いつも縁と運に導かれてきた気がする。そのおかげで、今、一応の居場所は見つけられたように感じる。そこで、本稿では、縁と運に導かれた、私の道半ばの企業法務弁護士としてのキャリアについてご紹介してみたい。

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 私が弁護士を志したのは、ニュージーランドにいたときだった。教育学部に在学中、漠然と国際的な仕事ができる事業会社に就職しようと考えていた私は、夏休みに当時米国ワシントン州に留学していた幼馴染を訪ねて現地の雰囲気や生活に大いに刺激を受けた。そこで、大学の指導担当教官に頼み込んで1年間休学してニュージーランドに滞在し、学校で学び、農場で働き、国中を旅した。その際、偶々滞在した牧場のオーナー夫人が腕利きの弁護士で、法律事務所や裁判所を案内してもらい、初めて裁判を傍聴してその緊張感に触れた。海外で英語もろくに話せない大学生にはできないことが多く忸怩たる思いをしていた私は、手に職を得て、国境を越えて言葉の力で仕事ができる弁護士に魅力を感じ、帰国後志すこととなった。

 数年の試験勉強の末、運よく弁護士となった後は、インターンで縁があり、国際案件の機会が豊富な今の事務所に入所し、最初の1、2年は、国内外のM&A・投資・コーポレート・競争法・ファイナンス・訴訟など様々な業務の機会を得た。その中で、M&Aや投資案件は、クライアント・各種アドバイザー、場合によっては相手方も含めて、様々な関係者が一つや複数のチームとなり、短期間で様々な問題を乗り越えながら取引を実現していく。(誤解を恐れずに言えば)プロフェッショナルによる「学園祭」のようなプロセスが肌に合い、自然と力が入った。契約締結時や取引実行時に、案件の大小を問わず、関係者一同が苦労と喜びを分かち合う瞬間が大きなやりがいの一つである。

 当時、日本の大手事務所は東南アジアへの業務拡大の黎明期で、3年目で志願して成長市場のひとつ、インドネシアの法律事務所への出向の機会を得た。右も左も分からない中、インドネシア語を学びながら現地弁護士と信頼関係を構築し、連携して日本企業向けに現地の各種法務についてアドバイスする日々は刺激的で学びが多かった。一方、日本法や実務に関する経験不足を痛感し、帰国後は、アジアを中心とするクロスボーダーの案件に取り組みつつ、再度、国内のM&Aや投資業務にも打ち込んだ。

 その後、2年間の米国留学・研修を間に挟み、M&A・投資・コーポレート分野を中心に取り組んでいるが、ここ数年は、自らの関心・経験・知見を活かせる業務分野として、①スタートアップ投資・法務、②経済安全保障、③ウェルス・マネジメントなどの開拓を進めている。また、学生時代からの強い関心から、インダストリーでは、④スポーツ、⑤教育に注目している。

 ①スタートアップ投資・法務は、2015年前後からの市場の拡大に合わせて集中して案件を担当したことがきっかけで取り組むようになり、時代を反映して周囲の知人・友人に起業家・投資家(の担当者)が多く、スタートアップ側、投資家側、双方で関与する機会が増えている。従来からの大企業を依頼者とする企業法務の知見を有効に活用できる領域で、スタートアップ特有の事情を踏まえ、時に常識や過去の先例を取り払って、迅速かつチャレンジングなビジネスについて起業家や投資家と議論するスタイルが面白い。

 ②経済安全保障分野は、M&A・投資の文脈で投資規制、またコーポレートの文脈で輸出入規制を従前から取り扱っていたが、それらの規制を含む外為法の書籍を執筆したこと、数年来の米中貿易紛争などを背景に「経済安全保障」が一層注目され、2022年5月に経済安全保障推進法が成立したこともあり、益々相談が増えている。国内外の規制が頻繁にアップデートされる中、専門性を有する企業法務弁護士が少なく、頼りにされるのでやりがいが大きい。また、企業においては、法務・コンプライアンスだけでなく、経営企画、財務、総務、輸出管理、調達、商品企画、資産管理、知的財産、情報セキュリティ等の各部門が横串で連携し、グローバルでの対応を求められることに難しさがあり、また、面白さもある。

 ③ウェルス・マネジメントは、一般には富裕層向けの資産管理・運用のサービスであるが、富裕層には企業オーナーや関係者が多く、その資産管理・運用が、強く会社の事業や資本政策に結び付いている。そのため、実は企業法務弁護士の出番が多い分野であるが、大手事務所で積極的に取り組んでいる者は多くない。そんなことを考えていたところ、偶々、税務・オーナー企業案件・個人事件の経験が豊富な弁護士が所属事務所に加入したことをきっかけに、信託銀行などとも連携して取り組むようになった。この分野では、「ビジネス」としての企業だけでなく、人が「繋がる場」としての企業で、どう縁を調整し繋いでいくか、考えさせられることが多い。

 ④スポーツ分野は、学生時代に取り組んだハンドボールや、趣味の野球・サッカー・ラグビー・オリンピックなどの観戦の延長線上で関心が強かったところ、学生時代の知人・友人の縁で、東京オリンピック、プロサッカーチーム、フェンシング競技団体、スポーツジムなどのサポートをする機会を得ている。スポーツビジネスは人気があり常に競争は激しいが、これからも地道にかかわっていきたい。

 ⑤教育分野は、学生時代に教育関係のボランティアサークルに加入していたこと、教育社会学を学んだことをきっかけに関心が強く、ご縁があって大学法学部の講師を担当させてもらったが、業務分野としてはまだまだ発展途上ではある。どの時代でも変わらぬ重要性があり、これからテクノロジーが益々浸透していき、また、学校などの統廃合も進む分野であることから、新たな法令や実務を学びつつ、執筆やセミナーなどで情報発信に努めている。

 こうして書いてみると、自分でも、よくもまあ、様々なことをやっているなと感じるが、それぞれ、ご縁や運に導かれていることが分かる。私としては、導かれたもののうち、続ける理由を見いだせたものを粛々と続けているだけである(ここでは割愛するが、取り組んでみたものの形にならずに霧散したことは数知れない。)。

 新しいことに取り組むご縁を頂くため、仕事に限らず事務所内外での様々な依頼については、自身に余力があり、お役にたてそうであれば、できるだけお引き受けするようにしている。例えば、最近は、量子技術に関する一般社団法人の監事を担当しており、外部アドバイザーとは異なる立場は新鮮だし、普段の業務とは異なる様々な方々との交流に繋がっていてありがたい。

 以上のように、私の企業法務弁護士としてのキャリアは広がりがあるので、5年、10年後、何をやっているかあまり想像ができないが、それでいいのだろうと思っている。これからも、縁と運に導かれて、迷いながら、キャリアの螺旋階段を上り下りして歩いていきたい。最後に、とりとめのない本稿を最後まで読んでくださった方に、心から感謝しつつ、筆をおくことにする。ありがとうございました。

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筆者

松本 拓

松本 拓(まつもと・たく) 

 2005年3月、東京大学教育学部卒。2008年3月、早稲田大学法科大学院修了(法務博士(専門職))。司法修習(62期)を経て2010年1月、当事務所入所。2012年2~11月、インドネシア ジャカルタのSoewito Suhardiman Eddymurthy Kardono (SSEK) 法律事務所勤務。2015年7月~2016年5月、米国Columbia University School of Law (LL.M.)。2016年9月~2017年7月、ニューヨークおよびワシントンD.C.のSeward & Kissel法律事務所勤務。2017年2月、ニューヨーク州弁護士登録。2020年1月、当事務所パートナー就任。2020年4月から東京大学法学部非常勤講師(民法基礎演習担当)。2021年9月、量子技術による新産業創出協議会監事就任。
 著書・論文に「特許非公開制度の実務対応」(ビジネス法務2022年9月号)、「M&A・投資における外為法の実務」(中央経済社、2020年)、「EdTech(教育×テクノロジー)活用時の法的論点」(ビジネス法務2021年11月号)などがある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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