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企業法務のOJTとは? 実務経験とフィードバックから学ぶ

中島 真嗣

拡大中島 真嗣(なかじま・まさつぐ)
 2006年3月、東京大学法学部卒。2009年3月、早稲田大学大学院法務研究科修了(法務博士(専門職))。司法修習(63期)を経て、2011年1月、アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所。2016年8月~2017年5月、米国University of California, Los Angeles School of Law修了(LL.M.)。2017年9月~2018年8月、豪州ブリスベンの法律事務所勤務。2022年1月、事務所パートナー就任。

 私は6年ほど前にアメリカのロースクールに留学し、翌年オーストラリアの大手法律事務所で研修する機会を得た。研修後、日本に戻ってから5年ほど経ち、アメリカのロースクールやNY Bar(ニューヨーク司法試験)の準備の過程で覚えた細かい法的理論に関する記憶はかなり薄くなってきているが、その2年間で実際に見聞きしたアメリカやオーストラリアの街並みや人々の様子、オーストラリアの研修中に担当した案件などは比較的鮮明に覚えている。

 10年以上前に日本のロースクールで学んでいた頃を思い出しても、アウトプット中心の授業、とりわけ実務経験を体験する授業の記憶はかなり残っている。当時のロースクールでは、一般の市民の方から実際に相談を受けて、弁護士資格を持つ教授の指導のもと学生が協力して案件を解決する授業が存在したが、そこで出会った人たちや事実関係、取り扱った民法、借地借家法、行政法等の論点は今でもよく覚えていて、実務で役に立つことがある。

 弁護士は依頼者の役に立つために学び続けることが一つの課題であるが、私自身の経験を振り返って、企業法務の実務家として成長する方法を考えてみた。

法律事務所の研修

 私が所属する法律事務所では、新人弁護士は、入所後1か月ほど研修を受けてから、執務を開始することが一般的である。研修の講師は、事務所の顧問やパートナー等の弁護士が務めるほか、一部、外部からも招かれている。

 私自身、入所した際にこのような研修を受けたが、入所時に受けた研修を通して、弁護士としての執務を開始する準備になったという感覚が残っている。

 まず、そもそもなぜ1か月もの研修を行うかというと、弁護士となる者は、大学やロースクールの授業、司法試験のための勉強や司法試験合格後の司法修習を通じて、法律家としての基礎的な知識・素養(リーガルマインドなど)を身につける一方、これらで取り扱われる法分野は限定されており、また、実務的な勘所は必ずしも学べないからである。例えば、企業法務でも重要な民法や会社法は司法試験の科目に含まれているが、それ以外は憲法、行政法、刑法、刑事訴訟法、民事訴訟法といったいわゆる刑事事件や一般民事の実務を行うために必要な科目が中心である。また、司法修習中に裁判所、検察庁、弁護士事務所で目にするのは多くが一般民事の案件であり、企業法務を専門とする弁護士になる準備としては不十分な場合が多い。なお、早いうちに企業法務の道に進むことを決めている志の高い学生は、学校や司法修習で用意された企業法務に関連する授業やプログラムを受講し、また、独学で企業法務に関する知識を学ぶ場合もあるが、そのような学生は限られている。

 そのため、新人弁護士は、入所後、1か月間程度の研修を通して、企業法務の基礎的な知識や実務慣行を学んで、執務を開始する準備をするのである。

 私も、今年は、講師の立場で研修の講座(デュー・ディリジェンス:DD)を1つ担当したが、その際、新人弁護士に演習課題を出し、これに回答してもらう機会を作った。限られた時間の中で色々調べて深く考えていると感心させられた一方、実務上はワークしない回答も散見された。やはり、当たり前ではあるが書籍に基づき論理で導ける回答には限界があるようである。

 研修の多くは、経験豊富な弁護士が担当し、書籍に記載されていないような実務感覚や勘所も伝えるため、座学よりは学ぶことも多く、執務の開始の準備になる。

 ただ、研修で一定のインプットをしたとしても(ほとんどの)新人弁護士は、直ちに一人で様々な企業法務の複雑な実務ができるわけではない。研修後、年次が上の弁護士の監督の下、比較的難易度の低い役割を担うことから開始し、実務を通じて、依頼者とのコミュニケーション、成果物の作成、ストラクチャリング、関係者との交渉、案件の管理等の経験を積んで成長していき、より難易度の高い役割を担うようになるのが普通である。

 このように、研修は実務に入る準備という位置づけで、また、知識を詰め込んでも限界があるため、今年の研修では、基礎的な知識にとどまらず、デュー・ディリジェンスの心構えや、デュー・ディリジェンスを通じて何を学ぶことができるかを伝えることにも力点を置いた。

法律事務所のOJT

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 研修を担当する過程で、座学の限界を再認識したのだが、それは、研修後の実務で学べるものはなにかを考えるきっかけともなった。実務の中でも案件への関与の仕方で学べる量に大きな差異が生ずるように思う。

 企業法務においては、書籍を読んで勉強するだけでは、実務で必要な能力はなかなか身につかないであろうことは上記の通りである。また、依頼者から、書籍等に出てこない経験を聞かれることも多い。

 そうすると、重要なのは(書籍も参照しながら)経験を積むことであるが、どのような経験を積むのがよいのだろうか。

 例えば、単純に仕事量を増やせば経験は増えるため、仕事量が多い弁護士の実務能力が高い傾向にあるのは否定できないが、ただ仕事量を増やすという解決法では夢がない。

 実務は、勉強というより、スポーツと似ているように思うことがある。スポーツにも理論があり、スポーツ理論も重要とは思うが、いくら雑誌や本で理論を学んでも、実際に身体を動かしてみなければ技術は身につかないだろう。また、身体を動かすといっても練習だけではなく、試合において実践できるか試してみる必要がある。

 企業法務の実務では、依頼者のために、口頭又は書面で助言をしたり、書面を作成したり、相手方と交渉をするなど、必ず何らかの行動を伴う。

 このように実務経験は行動を伴うため、座学に比べると、記憶に残りやすいように感じる。

 もっとも、実務経験を通じて成長するにあたって大事なのは、提供したリーガルサービスが適切であったかを知ることではないかと思う。助言しっぱなしで、フィードバックを得ることができなければ、次回に活かすことに繋がらないし、また、記憶にも残りづらい。

 そういう意味では、他の弁護士のレビューを受ける機会も極めて重要である。年次が若い弁護士にとっては、先輩弁護士から助言を受けることにより、自分では気づかないポイントや勘所を知ることができ、効率的に成長できるように思う。また、年次に拘わらず、自分の専門外の分野を専門とする弁護士の助言を得ることで、学べることは非常に多い。この点では、大規模事務所では、様々な法的分野を扱う弁護士とチームを組むことが多く、弁護士として効率的に成長するには良い環境が整っているように思う。

 当事務所では、案件等を通じて付き合いのある海外の法律事務所の弁護士の訪問を受けることがよくあるが、これらの弁護士が、いわゆるリモートワークが拡大してからは、新人弁護士のOJTが難しくなったと、口を揃えて述べていた。教えなくても周りの先輩弁護士の仕事ぶりを見て、また、気軽に雑談することを通じて学ぶことができていたのが、リモートワークでは、情報収集が難しくなったとのことである。

 先輩弁護士の助言を受け、その仕事ぶりを見て得られる学びに加えて、依頼者の反応や本音を知ることも極めて重要となる。依頼者がどの程度満足しているかどうかは、提供したリーガルサービスが適切だったかの主要な指標であるからである。弁護士は、テクニカルな法律論に力点を置いてしまう傾向にあるが、依頼者は、法律論に限定せず、様々なファクターを考慮して判断している。そのため、法律論の正確性のみならず、タイミングや伝え方も重要であり、また、法律論に限らず、解決策を一緒に考えることが大事であったりする。このあたりは、依頼者からのフィードバックこそが「答え」であり、内部の弁護士の助言では代替できない。依頼者の中には、時折、本音や裏話を教えてくれることがあるが、案件を遂行するにあたって参考になることはもちろん、学びの観点からもありがたいことである。

 さらに、依頼者の反応のみならず、結局、関与した案件がどのように進んでいったか、成り行きを気にかけることも重要であろう。そういう意味では、案件の過程で発生する問題を、依頼者と一緒に解決するという形で関与すると、その過程で案件の状況を正確に知ることができる点でも成長の糧になる。他方で、少し離れた立場において受け身で質問を受けて助言をすることが中心となる業務もあり、そのような業務の場合は、なるべく依頼者から結果を教えてもらえるようにするなど工夫が必要であろう。また、このような業務が多い分野を専門とする場合、どうしても、肌感覚として、体験できることが少ないため、いかにして、自分の知識・経験をブラッシュアップし続けるかが、長期的な課題になると思う。例えば、事務所内外の勉強会に参加し、また、関連する業界の関係者に会って意見交換すること等を通じて、知識を補うことになろう。

 私が専門とするM&Aでは、弁護士は、ストラクチャーから、DD、契約書の作成・交渉及びクロージングまで(場合によってはPMIも)一気通貫でサポートすることが多く、その過程でどんな問題が発生し、どのように対処し、また、結果としてどのようになったかが弁護士からも比較的よくわかる。このような分野では、個々の理論ではなく、有機的に関連した知識として蓄積されるため、学べる事が非常に多いと感じる。M&Aに限らず、ファイナンスなど取引をサポートする専門領域は、このような傾向があると思う。

 以上は、専ら私の個人的な感覚に基づく話だが、この機会に実務を通じて感じた企業法務の「学び方」を振り返ってみた。冒頭に述べたように弁護士は学び続けることが課題であるが、座学にとどまらず、専門とする業務の特性なども踏まえて、広く実務経験を積むとともに、多方面からのフィードバックを得られるように工夫を凝らすことが大事であろう。

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筆者

中島 真嗣

中島 真嗣(なかじま・まさつぐ) 

 2006年3月、東京大学法学部卒。2009年3月、早稲田大学大学院法務研究科修了(法務博士(専門職))。司法修習(63期)を経て、2011年1月、アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所。2012年4月~2017年3月、早稲田大学大学院法務研究科(法科大学院)アカデミック・アドバイザー。2014年4月~2015年3月、国内大手証券会社M&Aアドバイザリー部門勤務。2016年8月~2017年5月、米国University of California, Los Angeles School of Law修了(LL.M.)。2017年9月~2018年8月、豪州ブリスベンのClayton Utz法律事務所勤務。2018年11月、事務所復帰。2022年1月、事務所パートナー就任。
 主な論考に「豪州M&A表明保証保険(W&I Insurance)の実務」(国際商事法務、Vol.47 No.3、2019年3月)、「問屋(コミッショネア)の税務問題(上))(NBL、 No.1029 、2014年7月15日号)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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