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不動産流動化スキームを用いた森林ファンドの組成とJクレジット制度の活用

山本 直人

拡大山本 直人(やまもと・なおと)
 2006年、大阪大学工学部卒。2009年、早稲田大学法科大学院修了(J.D.)。司法修習(63期)を経て、2010年、弁護士登録(第二東京弁護士会)。2016年、Queen Mary, University of London修了 (LL.M.)。2016~2017年、みずほ銀行(ロンドン支店)勤務。2022年1月、西村あさひ法律事務所パートナー就任。

1. はじめに

 本稿では、基本的な不動産の流動化スキームを用いた森林を対象資産とするファンド(以下「森林ファンド」という。)の組成について考察したい。
 現在、不動産を投資対象資産とする私募ファンドは、24兆円と推計される程度にまで拡大している一方で(注1)、森林(森林も、土地であり、民法上、物権の対象となる不動産である。)を対象とした森林ファンドの組成事例は極めて限定的と思われる。林業の採算性が低く、投資期間が長期となること等が森林を投資対象資産とするファンドの導入の阻害要因と分析されているが(注2)、他方で、カーボンニュートラルの実現を目指す上で、低コスト化、生産性の向上等林業生産活動の収支の改善に向けた取組を進めることに加え、ファンド等の民間資金の力を借りた森林整備の促進を検討することが必要と指摘されている(注3)。この点、情報通信技術の活用(注4)、CO2等の温室効果ガスの排出権に係る取引、バイオマスによる余剰木材の活用等により、採算性及びカーボンニュートラルを目的とするインパクト投資の観点から、投資家の目線に合致する森林ファンドの組成の可能性が高まっているように思われることから、本稿では、既存の不動産の流動化スキームを用いた森林ファンドの組成について考察してみることにしたい。また、森林ファンドの組成にあたり、CO2等の温室効果ガスの排出権に係る取引の1つであるJ-クレジット制度の活用についても言及したい。

2. 不動産の流動化スキームの活用について

 不動産の流動化とは、一般的に、不動産が生み出す収益及び価値に着目し、当該収益及び価値に対応する不動産のリスク・リターンを投資商品に紐づけることにより、不動産をより流動性の高い投資商品に組み替えることをいう。日本における主な不動産の流動化スキームとして、二重課税の回避が可能であり、かつ、いわゆる倒産隔離性を備えることが可能な、①会社法に基づき設立される合同会社(以下「GK」という。)及び商法に基づく匿名組合契約を用いたスキーム(以下「GK-TKスキーム」という。)、並びに②資産の流動化に関する法律(以下「資産流動化法」という。)に基づき設立される特定目的会社(以下「TMK」といい、GKと併せて以下「SPC」という。)を用いたスキーム(以下「TMKスキーム」といい、GK-TKスキームと併せて以下「不動産流動化スキーム」という。)が主に用いられているところである(注5)

 主な投資対象資産を森林として、不動産流動化スキームを用いた森林ファンドを組成する場合、まず、その前提として、投資対象資産となる森林に関する権利関係を整理する必要があるように思われる。森林は、森林に係る土地及び当該土地上の立木から構成される。この点、土地の定着物は不動産とされ(民法第86条第1項)、土地上の立木も、伐採され木材となるまでの間、原則として、土地の定着物として土地に係る所有権の対象に含まれることになる。もっとも、立木は、特別法である立木ニ関スル法律(以下「立木法」という。)により、不動産である土地から独立した所有権の対象として登記することが認められており(立木法第1条第1項)(注6)、立木法に基づき登記された立木は、不動産とみなされ(立木法第2条第1項)、土地に定着した状態で、独立して所有権や抵当権の対象となり(立木法第2条第2項)、土地の所有者による当該土地の処分の効力は登記された立木には及ばないとされている(立木法第2条第3項)。そのため、投資対象資産の観点から森林ファンドの組成方法としては、森林に係る土地(定着物としての立木を含む。)を投資対象資産として流動化する方法と、当該土地上の立木のみを投資対象資産として流動化する方法が考えられることになる(注7)

 加えて、不動産流動化スキームの利用に際して、SPCが、不動産自体を保有する場合と、当該不動産を信託受託者に信託したうえ、当該信託に係る信託受益権を保有するスキームが存在する。この点、土地を信託する不動産流動化は一般的であるが、土地から分離された立木のみを投資対象資産とすることはあまり一般的ではないと思われる。土地から分離された立木も信託法上の信託可能な財産として、信託法に基づき信託受託者に信託することも可能と思われるが、信託の登記を含め、立木に関する信託の取扱を整理する必要があるように思われる。

3. 各不動産流動化スキームの利用に関する留意点

 不動産流動化スキームの利用に際し、当該スキームに適用される法令及び規制を整理する必要がある。前提として、森林又は立木は、前述の通り不動産に該当するものの、「建物」ではなく、また、森林に係る土地は、宅地建物取引業法(以下「宅建業法」という。)に定める「宅地」には該当しないため、当該土地の売買、賃貸又はそれらの媒介業務に宅建業法は適用されないと思われる。そして、通常のGK-TKスキームにおいて、GKが現物の不動産を保有する場合、不動産特定共同事業法(以下「不特法」という。)の適用が問題となるが、不特法の適用される不動産も、宅建業法に定める宅地及び建物とされていることから(不特法第2条第1項)、森林に係る土地を投資対象資産とするGK-TKスキームについては、基本的に不特法も適用されないように思われる(注8)。他方、GKが、森林又は立木を信託財産とする信託受益権を保有する場合、金融商品取引法上の金融商品取引業(投資運用業)規制の適用関係が論点となるが、通常のGK-TKスキームと同様に、適格機関投資家等特例業務(金融商品取引法第63条第2項)や、いわゆる一任運用特例(金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令第16条第1項第10号)を利用して、GKが金融商品取引業の登録を受ける必要なしに森林ファンドの組成が可能と思われる。また、TMKスキームの場合、TMKが保有できる不動産(信託受益権を保有する場合には信託財産としての不動産)の種類に特段の制限は定められておらず、資産流動化法に従う限り、森林ファンドの組成も可能と思われるが、TMKの業務は、資産の流動化に関する業務及びその附帯業務に限定されており(資産流動化法第195条)、後述のJ-クレジットに係る取引を行うことが、そのような他業禁止の規制に抵触しないか等、資産流動化法に関する特有の問題点を検討する必要があると思われる(注9)

 次に、通常の不動産流動化スキームにおいて、当該不動産の維持・管理(以下「PM業務」という。)をプロパティマネージャーに委託して行っているところ、PM業務に、森林管理業務が含まれることになる。森林法上の森林所有者等には、権原に基づき森林の立木竹の使用又は収益する者が含まれるため(森林法第10条の7)、いずれの不動産流動化スキームを採用する場合でも、森林法に基づく報告等、森林に係る法令上の義務を踏まえ、PM業務の内容を整理する必要があると思われる。また、信託を利用する場合、当該信託に係る信託業務に、森林管理業務が含まれることになるため、信託業務の委託に関する業務受託者の的確性(信託業法第22条第1項第2号)も含めて、信託業務の委託先及び委託の内容を整理する必要もあるように思われる。

 加えて、不動産の流動化において、レバレッジの観点から金融機関等によるファイナンスを活用することが必須であり、ノンリコースファイナンスとするか、スポンサーの与信をある程度活用するリミテッドリコースファイナンスとするかは別途当該案件のリスク分析に応じて整理する必要があると思われるが、いずれの場面でも、ファイナンスを提供する金融機関等による担保権の設定が必要と思われる。森林ファンドについては、土地に抵当権を設定する方法に加え、立木法に基づき所有権の保存登記のなされた立木については、抵当権を設定することが認められる(立木法第2条第2項)(注10)ところ、具体的な案件毎に適切な担保設定の方法を検討する必要があると思われる。

4. J-クレジット制度の活用について

 次に、森林ファンドの採算性及びカーボンニュートラルの観点から、CO2等の温室効果ガスの排出権に係る取引の1つであるJ-クレジット制度の活用についても言及したい。J-クレジット制度とは、国が、温室効果ガスの排出削減量や吸収量をクレジットとして認証する制度とされ、同制度において、森林管理によるCO2等の温室効果ガスの排出削減量や吸収量を「クレジット」(注11)として認証することが可能とされている。基本的な仕組は、森林を保有又は管理する事業者が森林管理プロジェクトを登録し、モニタリングを経たうえ、J-クレジットの認証を受けることで、当該事業者がJ-クレジットを取得することができ、その後、認証されたJ-クレジットを第三者に売却することで、森林管理の採算性を補完することになる。そうすると、森林ファンドにおいても、SPC(注12)がプロジェクトを登録し、当該SPCが取得したJ-クレジットを売却し、森林ファンドの収益性を補完することが考えられる。

 もっとも、J-クレジットの活用については、森林ファンドの組成との関係で、追加性について検討を要するように思われる。追加性とは、J-クレジットの認証の要件として、「J-クレジット制度がない場合に、排出削減・吸収活動が実施されないこと」と定義(注13)されており、具体的には、経済的・経営的な合理性を超えてあえて取り組む場合に認められるとされ、「収益+補助金 < 森林経営に要する経費+銀行等借入利子」の場合(いわゆる「経営が赤字である」場合)に、森林経営活動が、このような「あえて取り組んでいる」活動に該当すると説明されている(注14)。仮に、J-クレジットが、森林管理事業の収益性が赤字である場合に限り利用できるとすると、森林管理事業自体で採算性が取れている場合(これだけでは投資家の収益性の目線に合致するものではない。)に活用できないため、森林ファンドの組成のための+αの収益の源泉としての利用には限界があるように思われ、追加性の観点から森林ファンドにおいてJ-クレジットをどの程度活用できるか、具体的な案件において検討する必要(注15)があるように思われる。

5. おわりに

 法的な観点からは、森林も不動産であり、整理が必要な問題点は多いものの、不動産流動化スキームの活用が妨げられるものではないと思われる。実務及び経済上の問題は多分にあるように思われるが、情報通信技術の活用、CO2等の温室効果ガスの排出権に係る取引、バイオマスによる余剰木材の活用等により、どの程度それらの問題を克服していけるかが鍵となるように思われる。これらの問題が克服され、私募の森林ファンドの組成が進み、流

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筆者

山本 直人

山本 直人(やまもと・なおと) 

 2006年、大阪大学工学部卒。2009年、早稲田大学法科大学院修了(J.D.)。司法修習(63期)を経て、2010年、弁護士登録(第二東京弁護士会)。2016年、Queen Mary, University of London修了 (LL.M.)。2016~2017年、みずほ銀行(ロンドン支店)勤務。2022年1月、西村あさひ法律事務所パートナー就任。
 主な論考に「Chambers Global Practice Guide - Real Estate 2021: Japan」(共著)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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