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重要土地等調査法 全面施行に伴う区域指定と外国事業者への影響

桜田 雄紀、石戸 信平

拡大桜田 雄紀(さくらだ・ゆうき)
 2007年弁護士登録。2016年ニューヨーク州弁護士登録、2019年~22年財務省大臣官房企画官(国際局調査課)。在任中、外国投資家による対日投資規制強化等を内容とする外為法改正を含む2度の外為法改正(19年、22年)、ロシア向け新規投資禁止などの経済安全保障関連施策に携わる。主な著作に「詳解 外為法 対内直接投資等・特定取得編」(2021年、商事法務(共編著))、「経済安全保障推進法Q&A50問」(2022年、NBL)。
拡大石戸 信平(いしど・しんぺい)
 2009年弁護士登録。2012年~15年外務省国際法局経済条約課課長補佐。在任中、TPP、日EU・EPA、日ASEAN包括的経済連携協定、日豪経済連携協定、日モンゴル経済連携協定、日モザンビーク投資協定等、多数の投資関連協定の交渉・締結に携わる。本稿と関連する著作として、「Web解説TPP協定ー10 国境を越えるサービスの貿易ー10.1 本則」(2019年、経済産業研究所(共著))など。

1 はじめに

 一定の重要施設や国境離島の周辺区域の土地等を、「注視区域」として指定したうえで、政府が当該注視区域内にある土地等の利用状況についての調査を実施し、一定の場合に勧告・命令をすること等を可能とする、「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律」(令和3年法律第84号、以下「重要土地等調査法」という。)が、2021年6月に成立公布(6月23日公布)され、2022年9月20日より全面施行された。また、同法に基づいて策定することが求められている(同法4条)、「重要施設の施設機能及び国境離島等の離島機能を阻害する土地等の利用の防止に関する基本方針」(以下「基本方針」という。)(注1)が、パブリックコメントを経て、全面施行に先立つ2022年9月16日に閣議決定された。2022年内を目途に、内閣府に設置された土地等利用状況審議会の意見や関係地方公共団体の意見を聞いたうえで、初回の「注視区域」等が告示で指定されることが想定されており(同法5条2項、基本方針第2・1(2))、2023年以降、土地等の利用状況の調査や、特別注視区域内における届出の受付等の本格的な制度運用が開始されることが想定されている(注2)

 重要土地等調査法は、重要施設の周辺の区域内及び国境離島等の区域内にある土地等が重要施設の施設機能又は国境離島等の離島機能を阻害する行為の用に供されることを防止することを目的として、必要最小限度の規制を課する法律である(同法1条・3条)。近年、日本国内では外国人や外国企業により自由に行われてきた不動産の取得や利用について規制上の対応を求める論調もあるが、同法はそういった外国人や外国企業による土地取得のみを規制対象とするいわゆる外資規制ではない(注3)。また、運用上も「土地等の所有者の国籍のみをもって、法に基づく措置を差別的に適用することはしない」ことが想定されている(基本方針第1・2(3))。すなわち、重要土地等調査法は、国籍により適用を区別しない、いわゆる内外無差別の法律であり、今後の運用にあたっても、国籍等による差別的な国内法上の措置は制限されるなど、投資協定、サービス貿易協定等に配慮し、それに沿った形で運用がなされることが想定されている。もっとも、重要土地等調査法の成立に至る経緯は、もともとは、土地の外国資本による所有・利用をめぐる懸念に対応するためのものであったはずであり、かかる制度導入の背景・経緯もふまえると、政府による重要土地等調査法等の運用次第では、日本企業よりは外資系の事業者の土地取引や利用行為に影響を受ける可能性は否定できない。

 そこで、本稿では、重要土地等調査法等の本格施行及び初回の区域指定を契機として、その成立の経緯や概要についてあらためてふれるとともに、同法の外資系事業者への影響、とりわけ投資協定、サービス貿易協定等が適用されることの意味やこれらの協定等との関係について論じることとしたい。なお、以下で法令名を記載せずに条文番号を記載する場合は、重要土地等調査法の条文を指すものとする。

2 重要土地等調査法の概要

(1) 制度概要・導入に至る経緯

 重要施設周辺や国境離島における土地の外国資本による所有・利用をめぐっては、安全保障上の懸念が従来より指摘されてきたところ(注4)、政府は、「国家安全保障戦略」(2013年12月17日閣議決定)において、「国家安全保障の観点から国境離島、防衛施設周辺等における土地所有の状況把握に努め、土地利用等の在り方について検討する」との方針を示し、「海洋基本計画」(2020年5月15日閣議決定)においても、国境離島について、同様の方針を示した。

 これらを踏まえ、防衛省は、2013年から、約650の防衛施設の隣接地について調査を実施し、また、内閣府総合海洋政策推進事務局は、2017年から、国境離島の領海基線近傍の土地について、それぞれ所有状況等の調査を実施した。もっとも、これらの調査は登記記録をベースにしており、またいずれの調査も制度の裏付けがないものであったことから、所有・利用の実態は、必ずしも明らかにはならなかった。

 他方、例えば、米国では、外国人等による米国企業や事業への投資について安全保障の観点から審査を行うCFIUS(対米外国投資委員会)の機能が強化され、2020年2月から、軍事施設近くの不動産等の機微な不動産の取得をCFIUSによる審査の対象とするなど、諸外国では、安全保障をめぐる国際情勢が厳しくなる中、自国内の土地の所有・利用への関心が高まり、不動産取得への管理を強化する動きが活発化した(注6)

 こうした内外の動向を踏まえて、2020年の骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針2020)(2020年7月17日閣議決定)において、「安全保障等の観点から、関係府省による情報収集など土地所有の状況把握に努め、土地利用・管理等のあり方について検討し、所要の措置を講ずる」こととされた。その後、2020年10月に内閣官房に学識経験者等の有識者を構成員とする「国土利用の実態把握等に関する有識者会議」が設置され、その後3度にわたる有識者会議が開催され、2020年12月24日付けで提言(「国土利用の実態把握等のための新たな法制度の在り方について提言」(注7))が取りまとめられた。

 この提言では、土地の所有・利用を巡る安全保障上の政策対応の方向性に関し、特に内外無差別原則との関係についてふれ、「政策対応の目的は、安全保障の観点からの土地の不適切な利用の是正又は未然防止であり、土地の所有者の国籍のみをもって差別的な取扱いをすることは適切でな」く、また、「専ら外国資本等のみを対象とする制度を設ければ、内国民待遇を規定した、サービス取引に関する国際ルールであるGATS(General Agreement on Trade in Services)のルールにも抵触する」ことを理由として、立法措置を講ずる場合には、外国人等による土地の所有のみを規制対象とするものではなく、内外無差別を前提とすべきであるとされた(注8)

 その後、国会審議を経て、概要以下を内容とする、重要土地等調査法が成立した。

  • 重要施設(防衛関係施設(在日米軍施設を含む。)、海上保安庁の施設、生活関連施設(政令において、原子力関連施設、公共の用に供する空港(注9)を指定))や国境離島等の周辺区域で、重要施設等の機能を阻害する行為の用に供されることを特に防止する必要がある土地等を、「注視区域」として指定(5条1項、2条2項・3項)。
  • 政府が注視区域内にある土地等の利用状況について調査を実施することができ(6条)、当該土地等を重要施設等の機能を阻害する行為の用に供している場合等に、それらの行為に供しないことを勧告・命令をすることを可能とする(9条1項・2項)。また、勧告等に係る措置によって、土地等の利用に著しい支障をきたすこととなり、土地所有者からの申し出があった場合には、政府が土地等の買入れを行うことを可能とする(11条1項)。
  • 特に重要性が高い区域(特に重要な施設機能を有する重要施設の周辺区域や離島機能を有する国境離島等)を「特別注視区域」として個別に指定し(12条1項)、同区域内の土地等について所有権等の移転等をする契約を締結する場合に事前届出義務を求める(13条1項)。

(2) 注視区域内の調査

 重要土地等調査法に基づき、政府は注視区域内にある土地等の利用状況についての調査を実施することができる(6条)。この調査については、基本方針では、注視区域内にある土地等で機能阻害行為が行われることを防止するため、それらの土地等の利用の状況を把握するために行うものとされる(基本方針第3・1(1))。また、調査の方法としては、不動産登記簿、住民基本台帳、固定資産課税台帳、戸籍簿、商業登記簿、農地台帳、林地台帳、外為法に基づく報告、国土利用計画法に基づく届出等の公簿等の収集を基本とし、必要に応じて、現地・現況調査や重要土地等調査法等に基づく報告徴収等(注10)(8条)の方法を適切に組み合わせる形で、内閣府が一元的に実施することとされている(基本方針第3・1(2))。また、調査項目としては、土地等の所在、地目、建物の名称、種類、構造のほか、利用者その他の関係者の氏名又は名称、住所、本籍、国籍、生年月日及び性別を収集することも想定されている(基本方針第3・1(4))。

(3) 機能阻害行為

 政府による勧告及び命令の対象となる機能阻害行為については、基本方針では、対象となる施設等の種類、機能等に応じて様々な態様が考えられ、また、技術の進歩等によって、その態様が複雑化・巧妙化することも考えられることや、機能阻害行為が潜脱的に行われるリスクも考慮する必要があることを指摘しつつ、土地利用者の予見可能性を確保する観点から(注11)、以下の行為を例示している(基本方針第4・2(1))(注12)

  • 自衛隊等の航空機の離着陸の妨げとなる工作物の設置
  • 自衛隊等のレーダーの運用の妨げとなる工作物の設置
  • 施設機能に支障を来すレーザー光等の光の照射
  • 施設に物理的被害をもたらす物の投射装置を用いた物の投射
  • 施設に対する妨害電波の発射
  • 流出することにより係留施設の利用阻害につながる土砂の集積
  • 領海基線の近傍の土地で行う低潮線の保全に支障を及ぼすおそれのある形質変更

 基本方針でも指摘されているとおり、上記は例示であり、この類型に該当しない行為であっても、機能阻害行為として、勧告及び命令の対象となることはあることに留意する必要がある。

 また、その一方で、基本方針では、日常生活・事業活動として一般的な行為として、通常、該当するとは考えられない行為もあわせて列挙している(第4‐2(1)(2))。

  • 施設の敷地内を見ることが可能な住宅への居住
  • 施設周辺の住宅の庭地における住宅と同程度の高さの倉庫等の設置
  • 施設周辺の私有地における集会の開催
  • 施設周辺の商業ビル壁面に収まる範囲の看板の設置
  • 国境離島等の海浜で行う漁ろう 等

 加えて、国や地方公共団体が管理する公園や道路といった公共の土地をイベントのために一時的に使用する場合については、勧告及び命令の対象とはならないとされている。

(4) 注視区域と特別注視区域(区域指定の考え方)

 政府による利用状況等の調査の対象となる「注視区域」は、以下から前記2(1)のとおり、政府が指定することが想定されている(5条1項)。

  1. 重要施設(防衛関係施設、海上保安庁の施設、生活関連施設(原子力関連施設、自衛隊の施設が隣接し、かつ自衛隊も使用する空港(注13)))の敷地の周囲おおむね1,000メートルの区域内(注14)又は国境離島等の区域内の区域(注15)で、かつ、
  2. その区域内にある土地等が当該重要施設の施設機能又は当該国境離島等の離島機能を阻害する行為の用に供されることを特に防止する必要がある場合(5条1項)。

 基本方針では、この「注視区域」の指定に当たっては、重要施設の周辺に海、河川等が存在するといった地理的特性や、経済的社会的観点から留意すべき事項(例:国有地の有無、機能阻害行為の兆候の把握が容易であるかといった地域特性、注視区域の面積の大部分が人口集中地区であるか、多数の土地土地取引が行われている市町村又は特別区が存在するか等)を考慮することとしている。また、最終的な指定にあたっては、あらかじめ、関係地方公共団体の意見を聴取すること、関係行政機関の長に協議するとともに、土地等利用状況審議会の意見を聴いた上で、区域の外縁を明らかにする形で行うこととしている(基本方針第2・1(1))。

 また、「注視区域」のうち、特に重要度の高いものとして指定される「特別注視区域」については、以下の地域から政府が指定することが想定されている(12条1項、基本方針第2・1(2))。

  • 注視区域に係る重要施設が特に重要なもの又はその施設機能を阻害することが容易なものであって、他の重要施設によるその施設機能の代替が困難なもの
  • 国境離島等のうち、その離島機能が特に重要なもの又はその離島機能を阻害することが容易であるものであって、他の国境離島等によるその離島機能の代替が困難であるもの

 具体的にどのような地域を注視区域又は特別注視区域として政府が指定するかについては、基本方針において、概要、下表の方針が示されている(基本方針第2の2・3)。

拡大出典:内閣府資料「注視区域及び特別注視区域の指定について」(https://www.cao.go.jp/tochi-chosa/shingikai/doc/shiryou2.pdf)

 さらに、2022年10月11日付の第2回土地等利用状況審議会に示された政府の資料(注16)においては、注視区域及び特別注視区域の指定については、多数の指定が見込まれることから、①重要施設又は国境離島等の重要性、②現地状況の把握の困難性、③区域の外縁の線引き等の準備状況、④重要施設等を所管する関係機関の準備状況を総合的に勘案し、準備が整ったものから順次指定していくこととし、段階的に指定していく方針であるとされている。また、同資料においては、具体的な初回の指定の候補区域として、無人の国境離島を中心に、15自治体(5都道県、10市町)58箇所(特別注視区域29箇所、注視区域29箇所)が挙げられている。同資料においては、無人の国境離島については、①国境としての重要性が極めて高い、②無人のため人の目が行き届きにくく、現地現況の把握が困難、③全島指定のため区域の外縁が明確であるとの特性を挙げたうえで、初回の指定については、無人の国境離島とするとともに、指定を受ける関係地方公共団体への配慮等の観点から、当該離島と同一市町村に存する他の施設等について優先的に指定することとしている。そして、このように無人の国境離島が中心に指定されていることもあり、初回の区域指定の候補からは、国会審議で議論の対象となった、人口密集地区にある防衛省や自衛隊の施設、在日米軍施設に関する区域は除外されている。

 初回の区域指定は、関係地方公共団体の意見聴取を行ったうえで、2022年内にも、関係行政機関の長との協議、第3回土地等利用状況審議会の開催を経て、官報告示により行われることが想定されている(前掲資料14頁)。

拡大出典:内閣府第2回土地利用状況審議会資料「注視区域及び特別注視区域の指定について」(https://www.cao.go.jp/tochi-chosa/shingikai/doc/shiryou2.pdf)を本稿用に改訂

3 投資関連協定、サービス貿易協定等の国際協定との関係

 「2(1) 制度概要・導入に至る経緯」で述べたとおり、重要土地等調査法では、GATS等のサービス貿易協定及び投資関連協定との整合性を確保する観点から、国籍により適用を区別しない、いわゆる内外無差別の法制度が採用されることとなった。以下では、サービス貿易協定及び投資関連協定の関連する規律を概観した上で、重要土地等調査法の運用に、投資協定、サービス貿易協定等が適用されることの意味や、これらの協定に基づき、外国投資家が、内国民待遇、最恵国待遇違反を援用し得るかについて論じることとする。

(1) 投資関連協定

 投資関連協定とは、締約国間での投資の保護又は/及び自由化の促進のために締結される国際協定であり、2022年6月現在、日本は80の国・地域との間で二国間若しくは多数国間の投資協定又は投資章を含む経済連携協定が発効又は署名済みである(注17)。投資関連協定は、投資家による投資財産の設立、取得等の後の段階の内国民待遇等を規定するいわゆる投資保護協定と、それだけではなく、投資家による投資財産の設立、取得等の段階も含む内国民待遇、最恵国待遇等を規定するいわゆる投資自由化協定に分類される。

 よって、この投資自由化協定の下では、土地取得に関する外資規制を一般的に導入し、適用することは、内国民待遇に整合しない措置となる。ただし、日本が締結する投資自由化協定の大半は、土地取引に関する事項について内国民待遇義務及び最恵国待遇義務の適用を包括的に除外しており、「政令により日本国における外国人又は外国の法人による土地の取得又は賃貸借を禁止し、又は制限することができる。ただし、日本国の国民又は法人が、その外国において、同一又は類似の禁止又は制限を課されている場合に限る。」との例外が規定されている(注18)。これは、1925年に成立した外国人土地法(大正14年法律第42号)1条の規定を念頭に置いている適用除外である。しかし、同法に基づく政令(帝国憲法下では勅令)は、戦後に廃止されており(注19)、近年、同法に基づく政令の活用による土地取得の外資規制の導入の可能性に注目する向きもあったが(注20)、その可能性は、政府により明確に否定されていた(注21)。さらに、日本が締結している投資自由化協定の中には、土地取引に関する事項を内国民待遇義務及び最恵国待遇義務の適用から除外していないものも存在し(注22)、当該協定との関係では、外国人土地法の活用による土地取得に関する外資規制の導入は困難であったという事情があったものと推察される。

(2) サービス貿易協定

 サービス貿易協定とは、国家間でのサービス貿易の自由化等を定める国際協定である。日本は、1994年に作成されたWTO協定の一部を成すサービス貿易に関する一般協定(GATS)に加盟している他、これまで多数の国との間でサービス貿易章を有する経済連携協定を締結している。GATSでは、各締約国がその協定に附属する約束表に列挙したサービス分野において、他の加盟国のサービス及びサービス提供者に対して、内国民待遇等の待遇を与えることを約束し、さらに、一部の例外を除き加盟国のサービス及びサービス提供者に対して最恵国待遇を与えている。日本は、約束表において、内国民待遇を約束しているサービス分野に関し、当該サービスの提供に際して行われる土地取引についての何らの制限を定めていないため、これらのサービス分野に関し、土地取引に関する外資規制を導入する場合には、当該措置はGATSの内国民待遇に適合しないものとなる。よって、土地取引に関する一律の外資規制を導入することは、GATSの内国民待遇との関係で認められない(注23)

(3) 内外無差別の土地取引規制と運用上の留意点

 上述したとおり、外国人及び外国資本による土地取引等について国籍を理由とする制限を課することは、日本が締結している投資関連協定及びサービス貿易協定の内国民待遇義務に一般的には整合しないものであるため、安全保障等の理由で政府が土地取引を規制するためには、内外無差別の規制としなければならない(なお、後記のとおり、投資関連協定やサービス貿易協定においては、安全保障例外や一般的例外という内国民待遇の例外が定められている場合があるが、一般に外国人及び外国資本による土地取引等について国籍を理由とする制限を課することができるか否かは、援用される安全保障例外や一般的例外の文言に左右されるほか、当該条項に規定されている援用のための条件をクリアする必要がある。)。

 日本政府が、重要土地等調査法が内外無差別の規制を導入したのもおそらくこのためと思われるが、日本政府がこれらの国際協定との整合性を確保する上では、さらに、同法の運用の態様も重要である。

 すなわち、今後、注視区域内の調査及びそれに基づく勧告・命令が、外国人・外国法人又は外資企業が所有する土地を対象に偏って行われる場合には、事実上の内外差別があるとして、適用されるサービス貿易協定又は投資関連協定に基づく締約国間の紛争解決手続(SSDS)又は投資家と締約国との間の紛争解決手続(ISDS)において内国民待遇義務違反と判断される余地があり、また、上記調査及び勧告・命令が、特定の外国の国民・法人又は外資企業に所有する土地を対象に偏って行われる場合には、事実上の国籍に基づく差別があるとして、最恵国待遇義務違反であると判断される余地がある。

 この点、GATT又はGATSの最恵国待遇の解釈が問題となったWTO紛争解決手続の先例では、措置が、法律上は(de jure)又は措置自体は(as such)差別的ではない場合であっても、事実上(de facto)又は実際の適用場面において(as applied)有利な待遇が即時・無条件に付与されていない場合には、最恵国待遇違反を構成すると判断されており(注24)、また、一見中立的な基準であっても、実際の適用場面では、特定の地域のサービス提供者を優遇することになる場合には、最恵国待遇違反を構成すると判断されている(注25)。さらに、投資協定仲裁判断で内国民待遇違反が検討された事例を参照すると、実際の適用場面において外国投資家に対して不利な待遇を与えているか否かの判断においては、同様の状況の下で内国投資家に対して与えた待遇が外国投資家に対して与えられているか否かが検討され(注26)、同様の状況の有無の判断は、事例ごとの判断となる(注27)

 この点、基本方針では、運用上も「土地等の所有者の国籍のみをもって、法に基づく措置を差別的に適用することはしない」ことが想定されている(基本方針第1・2(3))が、仮に、調査対象の土地が、正当な理由なく特定の国の外国人や外資企業に偏っていると認められる場合には、内国民待遇違反や最恵国待遇違反を構成するものと判断され得る。

 なお、上記のとおり、仮に運用状況に照らして内国民待遇又は最恵国待遇の違反のおそれがある場合であっても、投資関連協定やサービス貿易協定には、安全保障例外や一般的例外が規定されている場合があり、日本政府としては、これらの例外規定に依拠し、違反はない旨主張することも考えられる。

 ただし、安全保障例外については、協定によって規定ぶりが異なり、政府による援用のしやすさが異なることに留意が必要である。まず、CPTPP協定29.2条(b)は、締約国が「自国の安全保障上の重大な利益の保護のために必要であると認める措置」をとることができる旨を規定している。よって、この規定の下では、安全保障上の重大な利益の保護のために必要な措置に該当すれば、正当化ができることとなる。他方で、GATS14条の2は、「加盟国が自国の安全保障上の重大な利益の保護のために必要であると認める」措置をとることを許容しつつも、その措置の内容を①軍事施設のため直接又は間接に行われるサービスの提供に関する措置、②核分裂性物質若しくは核融合性物質又はこれらの生産原料である物質に関する措置及び③戦時その他の国際関係の緊急時にとる措置に限定しており、安全保障上の重大な利益の保護のためというだけでは直ちに安全保障例外を援用することはできないと思われる(注28)。なお、日本が締結している投資関連協定、サービス貿易協定の大半はGATS類似の安全保障例外規定を採用している(注29)

 また、たとえば、GATSの一般的例外(14条)は、締約国が、公衆の道徳の保護又は公の秩序の維持のために必要な措置、人、動物又は植物の生命又は健康の保護のために必要な措置等の措置をとることを認めている。しかし、これらの措置に該当するか否かを判断においては必要性基準を充足する必要があること、また、柱書では、「ただし、それらの措置を同様の条件の下にある国の間において恣意的若しくは不当な差別の手段となるような態様で又はサービスの貿易に対する偽装した制限となるような態様で適用しないことを条件とする」との条件が付されているため、日本政府が、この例外規定を援用し、内国民待遇・最恵国待遇に不整合であるとされた措置を正当化することは必ずしも容易ではないだろう。

4 おわりに

 重要土地等調査法については、今後本格的な運用が行われていくことになるが、当初の指定区域としては、無人の国境離島が中心となることが想定されており、当面は、具体的な区域指定による商取引への影響は限定的であると思われる。もっとも、今後「注視区域」「特別注視区域」は、順次指定されていくことが想定される。また、重要インフラである「生活関連施設」についても、当初は、政令及び基本方針により、必要最小限のものとして、原子力関連施設及び自衛隊の施設が隣接し、かつ自衛隊も使用する空港のみが指定されているものの、今後、国際環境の変化等をふまえて政令の指定が拡大され、例えば、宇宙関連施設や通信インフラ等の安全保障上のチョークポイントとなり得る重要な施設も追加されていく可能性もある(注30)。このため、外資系事業者との関係でいえば、重要施設(防衛関係施設、海上保安庁の施設、生活関連施設)や国境離島等の周辺区域における、例えば、風力発電所や太陽光発電所の開発プロジェクトを実施し又は計画しているなど、当該区域内で土地の利用を行う可能性がある場合は、今後の区域指定の進捗及び運用状況の進展を見ていく必要がある。

 特に重要土地等調査法の適用を受けることとなる外資系の事業者としては、重要土地等調査法の運用にあたり、前記3で見てきた、投資協定、サービス貿易協定等の国際協定との関係をふまえ、今後内国民待遇又は最恵国待遇と整合しないような運用状況となっていないかについては注目していく必要があるだろう。

 ▽注:本論稿は2022年12月15日現在の情報に基づくものであり、具体的に指定される区域その他最新の情報については内閣府のHP(https://www.cao.go.jp/tochi-chosa/index.html)等を参照され

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