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他社の不適切会計に関与した外部協力者に対する課徴金

虚偽開示書類等の提出等に対する特定関与行為

美﨑 貴子

拡大美﨑 貴子(みさき・たかこ)
 2007年、神戸大学法学部卒。2008年、弁護士登録(第一東京弁護士会)。2012年、東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)協力調査員。2014~2017年、証券取引等監視委員会(総務課、取引調査課、開示検査課)出向。2022年1月、西村あさひ法律事務所パートナー就任。

1  開示書類の虚偽記載等に対する課徴金納付命令事例

 金融商品取引法(以下「金商法」という。)は、重要な事項につき虚偽の記載があり、若しくは記載すべき重要な事項の記載が欠けている有価証券届出書、有価証券報告書若しくは四半期・半期・臨時報告書を提出した場合、及び重要な事項につき虚偽の表示があり、若しくは表示すべき重要な事項の表示が欠けている公開買付届出書等を提出した場合(以下「虚偽開示書類の提出」という。)は、その開示書類の提出者に課徴金納付を命じることを定めている(金商法172条の4等)(以下、提出者を「虚偽開示書類の提出者」という。)。

 上記のような虚偽開示書類の提出者に対する課徴金納付命令に加え、上記虚偽開示書類の提出者が虚偽開示書類を提出し、提供し若しくは公表することを容易にすべき一定の行為(以下「特定関与行為」という。)を行った者(以下「特定関与者」という。)についても、課徴金納付を命じることを定めている(金商法172条の12)。

 特定関与者に対して課徴金納付命令が発出された実例は、2022年12月24日時点においてまだ確認されていない。もっとも、証券取引等監視委員会は、最近の開示検査の取組みの1つに「特定関与行為に関する積極的な検査」を挙げており(注1)、いつ特定関与行為についての摘発が行われたとしても不思議ではない。

 本稿では、摘発事例がないために、具体的なリスクとして把握しづらい特定関与行為について、金商法上の定めを整理するとともに、現に問題となり得る場面について検討する。

2  特定関与行為が課徴金納付命令の対象となった背景

 特定関与行為は、2012年9月6日に成立した金融商品取引法等の一部を改正する法律(平成24年法律第86号。以下「改正法」という。)によって、新たに課徴金納付命令の対象となった。特定関与行為に関連する定めは、2013年9月6日から施行されている。

 特定関与行為が課徴金納付命令の対象となった背景は以下のとおりである。

 2011年に、上場会社が長期間にわたり有価証券報告書等の虚偽記載を行っていた案件において、長期間にわたって「飛ばし」と呼ばれる損失計上の先送りが行われていたところ、金融に関する専門知識に基づいて、上記損失計上の先送りのためのスキームを立案したり、スキームを構成する個々の取引行為の実行等に加担したりした外部協力者の存在が指摘されていた。もっとも、改正法施行前の金商法では、このような外部協力者が報酬を得ている場合であっても、その加担行為は、刑事罰の共犯とはなり得るものの、課徴金納付命令の対象とする規定が存在しないため、課徴金を課すことができなかった。

 そこで、改正法は、外部協力者による虚偽開示書類の提出を容易にすべき一定の行為又は唆す行為が課徴金納付命令の対象となることを定めた。

3  特定関与行為について

(1) 行為者

 特定関与行為による課徴金納付命令の対象者は、自然人だけでなく法人も対象となり得るため、法人の役職員が法人の業務として特定関与行為を行い、当該法人が報酬を得た場合には、当該法人が特定関与者として課徴金納付命令の対象となり得る。

 なお、開示書類の提出者の役職員が、虚偽開示書類の作成に関与したとしても、これは、開示書類の提出者による虚偽開示書類の提出として課徴金納付命令の対象となるため、特定関与行為の対象からは除外されている。ただし、外部協力者が、虚偽開示書類の提出者との間で形式的に雇用契約を締結した上で特定関与行為を行った場合には、当該特定関与行為は、開示書類の提出者の従業者の職務と評価できないとも解されており(注2)、特定関与行為がどのような立場で行われたかは、実質的に判断されるようである。

(2) 要件

 改正法は、刑法上の共同正犯・教唆犯・幇助犯の対象となり得る行為の中でも、金商法上の開示規制の実効性を確保する観点から、特に抑止を図る必要性が高いと考えられる類型を課徴金の適用対象としたとされている。

 具体的には、以下の行為が対象となる。

①虚偽開示書類の提出を容易にすべき行為であって
当該虚偽開示書類の作成に必要な会計処理の基礎となるべき事実の全部若しくは一部を隠ぺいし、又は仮装するための一連の行為を行い、当該虚偽開示書類を作成することに関し、助言を行うこと(金商法172条の12第2項第1号)
上記アの隠ぺい又は仮装するための一連の行為の全部又は一部であることを知りながら、当該隠ぺい又は仮装するための一連の行為の全部又は一部を行うこと(金商法193条の2第1項の監査証明を行う行為は除かれる。)(金商法172条の12第2項第2号)
②虚偽開示書類の提出を唆す行為(金商法172条の12第2項柱書)

 ①アは、会計処理の基礎となるべき事実を隠ぺい又は仮装して虚偽開示書類を作成することに関する助言行為を特定関与行為として規定したものであり、具体的には会計処理の基礎となる取引等に関する事実を隠ぺい・仮装するスキームや、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に違反した会計処理の基礎となる事実を隠ぺい・仮装するスキームを立案・提供することなどがこれに該当する。「会計処理の基礎となるべき事実」について助言することが要件とされているため、会計処理とは無関係な非財務情報の虚偽記載に関 する助言行為は、特定関与行為には該当しないと解されている(注3)。ただし、「会計処理」には、財務諸表本体だけでなく、財務諸表の注記の対象となる事項が含まれるため、財務諸表の注記の対象となるような事項の虚偽記載に関する助言行為は特定関与行為に該当し得る。

 ①イは、①アのようなスキームを構成する個々の取引行為等を行うことそのものを規定したものである。過去に問題となった案件においては、スキームを立案するだけでなく、スキームを構成する個々の取引行為の実行等に加担していたことも踏まえて、個々の取引行為等を行うことも特定関与行為とされた。具体的には、虚偽開示書類等の提出者の作成名義の領収証を自ら偽装する行為や、虚偽開示書類の提出者との仮装売買契約の相手方となるような行為、虚偽開示書類の提出者の会計処理の基礎となるべき事実を隠ぺい・仮装するためにペーパー・カンパニーを設立するような行為が含まれ、虚偽開示書類の提出者に代わって行う行為、その取引の相手方、第三者としての行為などが幅広く含まれ得る。

 ②は、上記①ア及び①イのような虚偽開示書類の提出を容易にすべき一定の行為だけでなく、虚偽開示書類の提出を「唆す」行為そのものを特定関与行為として定めている(金商法172条の12第2項)。「唆す」行為とは、開示書類の提出者に、虚偽開示書類の提出を行うことを決定させる行為と解されている(注4)。そのため、提出者が意図せず会計処理を誤ったことにより結果として虚偽開示書類を提出したような事案ではなく、意図的に虚偽開示書類の提出を行った事案について、「唆す」行為の有無が問題となると解される。

(3) 故意・認識

 虚偽開示書類の提出が行われると、資本市場の公正性・透明性が損なわれることから、開示書類の提出等の故意の有無にかかわらず、虚偽開示書類の提出は課徴金納付命令の対象となり得るとされている。そのため、虚偽開示書類の提出者が、故意なく虚偽開示書類の提出を行った場合においても、特定関与行為が問題となり得る。

 ただし、特定関与行為については、上記(2)①イが「隠ぺい又は仮装するための一連の行為の全部又は一部であることを知りながら」など、条文上、特定関与者について一定の認識が要件として定められている場合がある。

 この点、特定関与行為のうち、上記(2)①アについては、条文上、特定関与者の故意は明示的に規定されていないものの(金商法172条の12第2項第1号)、会計処理の基礎となるべき事実を隠ぺい又は仮装して虚偽開示書類等を作成することに関する「助言」を行うという性質上、特定関与者が、助言がいかなる意味を持つものであるかを認識していることが必要と解されている。具体的には、(i)自らの助言行為が虚偽開示書類の作成に必要なものであること、及び(ⅱ)自らの助言行為が会計処理の基礎となるべき事実の全部または一部を隠ぺい・仮装するための一連の行為を内容とするものであることを認識していることが必要と解されている。

 また、特定関与行為のうち、上記(2)①イについては、条文上、「隠ぺい又は仮装するための一連の行為の全部又は一部であることを知」っていることが、要件とされている(金商法172条の12第2項第2号)。これは、隠ぺい又は仮装するための一連の行為の全部又は一部は、外見上その内容が正常な取引と異ならない形をとっている場合もあり、知らないうちに隠ぺい又は仮装するための一連の行為又は一部を行うこともあり得ることから、正常な経済取引に対して過度な萎縮効果を及ぼすことのないよう、上記要件が明示的に定められた。そのため、特定関与者が、(i)自らの行為が虚偽開示書類の作成に必要なものであること、及び(ⅱ)自らの行為が会計処理の基礎となるべき事実の全部または一部を隠ぺい・仮装するための一連の行為の一環であることを認識していることが必要と解されている(注5)

 以上に加え、特定関与行為のうち、上記(2)②についても、条文上、特定関与者の故意は明示的に規定されていないものの(金商法172条の12第2項柱書)、上記(2)①アと同様に、「唆す」という行為が、開示書類の提出者に虚偽開示書類の提出を行うことを決定させるという性質上、特定関与者が、自らが唆したことがいかなる意味を持つことかを認識している必要があると解されている。

 ただし、上記いずれの行為についても、行為時点では、まだ開示書類が作成されていない場合も多いため、具体的な虚偽記載の内容まで認識していることは不要と解されている(注6)

4  課徴金額の算定方法

 特定関与行為を行った場合、特定関与者又はその密接関係者(金融商品取引法第六章の二の規定による課徴金に関する内閣府令(以下「課徴金府令」という。)1条の8の2第2項)に対して、特定関与行為及び特定関与行為が開始された以後に、特定関与者が虚偽開示書類の提出者のために行った密接関連行為の手数料、報酬その他の対価として支払われ、又は支払われるべき金銭その他の財産の価額の「総額」について課徴金納付を命じるとされている(金商法172条の12、課徴金府令1条の8の2)。

 課徴金の水準は、違反行為ごとに一般的・抽象的に想定しうる違反者の経済的利得相当額を基礎とすると解されており、たとえば、虚偽開示書類の提出者に対する課徴金は、発行する株式等の市場価額の総額等の10万分の6又は600万円など、法令でその計算方法が定められている(金商法172条の4)。これに対して、特定関与行為については、当該行為そのものに対する報酬等が、違反行為によって想定される経済的利得相当額そのものであるため、報酬等の「総額」について課徴金納付を命じることとされている。

 また、特定関与行為そのものだけでなく、特定関与行為と密接な関連性を認めることができる行為についての対価も含まれている点にも特徴がある。これらの行為の対価を明確に切り分けることが事実上困難な場合も多い上、特定関与者は、特定関与行為によって、虚偽開示書類の提出者との関係を深め、それ以外の行為を提供する機会を得ることが可能になったと考えることもできるため、密接関連行為への対価も、特定関与行為による経済的利得と評価し得ると解されている(注7)。どのような行為が密接関連行為に含まれるかについては、個別判断となるものの、たとえば、特定関与行為に付随する行為のほか、特定関与行為を行うことによって虚偽開示書類の提出者と一心同体の関係を構築したり、評価を高めたことなどを背景として、他の業務を受注した場合のように、特定関与行為により形成された人的関係等に基づいて受注した行為なども「特定関与行為に密接に関連するもの」に含まれ得ると解されている(注8)

5  適用場面

 特定関与行為に関連する定めは、2013年9月6日から施行されており、2013年9月以降の事業年度の有価証券報告書等の虚偽記載について課徴金納付命令が発出された事案は約45件あるが(提出者数ベース)、特定関与行為が課徴金納付命令の対象として定められたが、実際に摘発された事例は不見当である。

 これまでに虚偽開示書類の提出が認定された課徴金事案の内容としては、売上の過大計上、貸倒引当金の過少計上(不計上)、売上原価の過少計上等が複数の事例で確認されている。これらの会計処理を、すべて開示書類の提出者内だけで行うことは可能であろうと思われる。もっとも、企業の中には、社外の会計アドバイザーに対して会計処理方法を相談する場合もあろうと思われる。仮に、社外の会計アドバイザーが、ある特定の期末において、貸倒引当金の計上を減少させるために、監査手続の際、会計監査人には、監査手続上不利となる一部の事実を伝えないよう助言したような場合には、当該会計アドバイザーについて、特定関与行為が問題となる可能性があるため、注意が必要である。

 また、架空売上の計上などでは、社外に協力者が存在する場合もある。開示書類の提出者が、社外の協力者との間で、虚偽の取引書類を作成・取り交わすなどして、取引の外観を作出したような場合には、架空取引であることを認識していた社外の協力者について特定関与行為が問題となる可能性もある。このような社外の協力者については、た

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筆者

美﨑 貴子

美﨑 貴子(みさき・たかこ) 

 2007年、神戸大学法学部卒。2008年、弁護士登録(第一東京弁護士会)。2012年、東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)協力調査員。2014~2017年、証券取引等監視委員会(総務課、取引調査課、開示検査課)出向。2022年1月、西村あさひ法律事務所パートナー就任。
 主な論考に「証券取引等監視委員会等の当局の立入調査への対応」(有斐閣Onlineロージャーナル、2022年11月)、「事後的な検討等の観点からどう考えるべきか 「会計上の見積り」における法的留意点」(共著、旬刊経理情報No.1583、2020年7月)などがある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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