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サステナビリティ対応と企業統治を有報で開示する義務

ディスクロージャーワーキング・グループ報告及び開示府令等の改正の概要

野澤 大和

野澤 大和(のざわ・やまと)
 2004年、東京大学法学部卒業。2006年、東京大学法科大学院修了。2014年、ノースウェスタン大学ロースクール卒業(LL.M.)。2012年~2013年、東京大学法科大学院 非常勤講師。2014年~2015年、シカゴのシドリーオースティン法律事務所。2015年~2017年、法務省民事局出向(会社法担当、商事課併任(~2016年))。

1  はじめに

 国内外における気候変動等サステナビリティに関する開示の充実に向けた取組みやコーポレート・ガバナンスに関する議論の進展を受けて、2022年6月13日、金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ(令和3年度)報告(以下「WG報告(令和3年度)」という)が公表され(注1)、「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」、「コーポレートガバナンスに関する開示」等に関して、制度整備を行うべきとの提言がされた。

 当該提言を踏まえた有価証券報告書の記載事項等の改正について、同年11月7日、「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下「開示府令」という)等の改正案が公表され(注2)、同年12月7日までパブリックコメントの手続に付されていたが、2023年1月31日、「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(令和5年内閣府令第11号)(以下「開示府令等の一部改正府令」といい、それによる改正を「開示府令等の一部改正」という)が公布・施行され、開示府令等の一部改正に伴い改正された企業内容等の開示に関する留意事項(以下「改正開示ガイドライン」という)及び「記述情報の開示に関する原則(別添)-サステナビリティ情報の開示について-」(以下「開示原則(別添)」という)が公表された(注3)。さらに、2022年12月27日、金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ(令和4年度)報告(以下「WG報告(令和4年度)」という)が公表され(注4)、四半期開示の四半期決算短信への「一本化」のための具体的取組みや日本におけるサステナビリティ基準委員会(SSBJ)及び今後策定されるサステナビリティ開示基準の法令上の枠組みの中の位置づけ等についても更なる提言がされている。

 そこで、本稿では、2023年3月期に係る有価証券報告書の提出の準備に向けて、WG報告(令和3年度・令和4年度)及び開示府令等の一部改正の概要についてそれぞれ紹介する。

2  サステナビリティ全般に関する開示

 WG報告(令和3年度)において、サステナビリティを巡る国内外の状況を踏まえて、日本におけるサステナビリティ開示に向けた検討が急務であるとして、有価証券報告書において、サステナビリティ情報を一体的に提供する枠組みとして、独立した「記載欄」を創設するとともに、有価証券報告書のサステナビリティ開示の「記載欄」は、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)等の国際的なフレームワークと整合的な「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標及び目標」の4つの構成要素に基づく開示とした上で、企業において、自社の業態や経営環境、企業価値への影響等を踏まえ、サステナビリティ情報を認識し、その重要性を判断する枠組みが必要となる観点から、「ガバナンス」と「リスク管理」はすべての企業が開示すること及び「戦略」と「指標及び目標」は、開示が望ましいものの、各企業が「ガバナンス」と「リスク管理」の枠組みを通じて重要性を判断して開示することが提言された。

 当該提言を受けて、開示府令等の一部改正では、有価証券報告書において、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄が新設され、事業年度末現在における(開示府令第三号様式記載上の注意(1)i)、「ガバナンス」及び「リスク管理」については、必須の記載事項とし、「戦略」及び「指標及び目標」については、重要性に応じて記載を求めることとされた。また、サステナビリティ情報を有価証券報告書の他の箇所に含めて記載した場合には、サステナビリティ情報の「記載欄」において当該他の箇所の記載を参照できることとされた(開示府令第二号様式記載上の注意(30-2)、第三号様式記載上の注意(10-2))。

 開示府令等の一部改正では、細かな記載事項は規定せず、各企業の現在の取組状況に応じて柔軟に記載できるような枠組みとされている。現時点において我が国におけるサステナビリティ開示基準は定められていないため、2023年3月期の有価証券報告書については、金融庁が公表する「記述情報の好事例集」(注5)を参照しながら、各企業の現在の取組状況に応じて記載を行い、その後、投資家との対話を踏まえ、自社のサステナビリティに関する開示の進展とともに、後述するサステナビリティ開示基準に関する内外の議論状況を注視しながら、有価証券報告書の開示を充実させていくことが想定されている(注6)。なお、国内における具体的な開示内容の設定が行われていないサステナビリティ情報の記載に当たって、例えば、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFD又はそれと同等の枠組みに基づく開示をした場合には、適用した枠組みの名称を記載することが考えられる(開示原則(別添))。

 WG報告(令和3年度)において検討課題とされていた、日本におけるSSBJ及び今後策定される開示基準の位置付けについて、WG報告(令和4年度)において、サステナビリティ情報についても、企業会計基準と同様に、その開示基準の設定主体と開示基準自体を金融商品取引法令の中で位置づけることが考えられると提言されており、財務会計基準機構(FASF)の下に設置されたSSBJは、開示基準設定主体の5つの要件(①独立性、②偏りのない多数の者からの継続的な資金提供、③高い専門性を備えた者による合議制の機関の存在、④基準設定における公正かつ誠実な業務運営、⑤経営環境及び会社実務の変化への対応並びに国際的な整合性の観点からの継続的な検討)を満たしうると考えられるとされている。

 また、同様にWG報告(令和3年度)において検討課題とされていた、サステナビリティ情報に対する保証のあり方について、WG報告(令和4年度)では、有価証券報告書において、日本の開示基準に基づくサステナビリティ情報が記載される場合には、法定開示において高い信頼性を確保することに対する投資家のニーズや、国際的に保証を求める流れであることを踏まえ、将来的に、サステナビリティ情報に対して保証を求めていくことが考えられるとした上で、どの範囲に対して保証を求めるかの検討の必要性、金融商品取引法において保証について規定する必要性、保証の担い手として財務諸表の監査業務を行っている公認会計士・監査法人が考えられること、保証基準や保証水準についても、開示基準と同様に、国際的な保証基準と整合的な形で行われることや比較可能性の確保に資すること等が提言されている。

 なお、現在でも、企業が、サステナビリティ情報について監査法人等から任意に保証を受ける動きが見られることを踏まえて、今後、有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の「記載欄」において、保証を受けている旨を記載する際には、投資家の投資判断を誤らせないよう、例えば、保証業務の提供者の名称、準拠した基準や枠組み、保証水準、保証業務の結果、保証業務の提供者の独立性等について明記することが重要であり、必要に応じてこのような取扱いを明確化することが考えられる旨のWG報告(令和4年度)提言については留意が必要である。

3  将来情報の記載と虚偽記載の責任及び他の公表書類の参照

 WG報告(令和3年度)において、サステナビリティ情報をはじめとした将来情報の記載について、投資家の投資判断にとって有用な情報を提供する観点では、事後に事情が変化した場合において虚偽記載の責任が問われることを懸念して企業の開示姿勢が萎縮することは好ましくないと提言された。

 当該提言を受けて、改正開示ガイドラインにおいて、①将来情報について、一般的に合理的と考えられる範囲で具体的な説明が記載されている場合には、有価証券報告書に記載した将来情報と実際に生じた結果が異なる場合であっても、直ちに虚偽記載等の責任を負うものではないことや、当該説明を記載するに当たっては、例えば、当該将来情報について社内で合理的な根拠に基づく適切な検討を経たものである場合には、その旨を、検討された内容(例えば、当該将来情報を記載するに当たり前提とされた事実、仮定及び推論過程)の概要とともに記載すること(改正開示ガイドライン5-16-2)、並びに②サステナビリティ情報や取締役会等の活動状況の記載については、有価証券報告書に記載すべき重要な事項を記載した上で、当該記載事項を補完する詳細な情報について、提出会社が公表した他の書類を参照する旨の記載を行うことができることや、参照先の書類に明らかに重要な虚偽があることを知りながら参照する等、当該書類を参照する旨を記載したこと自体が有価証券報告書の重要な虚偽記載等になり得る場合を除けば、単に参照先の書類の虚偽表示等をもって直ちに虚偽記載等の責任を問われるものではないこと(改正開示ガイドライン5-16-4)等が明確化された。

4  人的資本、多様性に関する開示

 WG報告(令和3年度)において、人的資本や多様性については、長期的に企業価値に関連する情報として、近年、機関投資家においても注目されており、企業価値との関係を示す研究結果も存在し、国際的に多様性に関する取組みを含めた人的資本の情報開示が進んでいるとして、中長期的な企業価値向上における人材戦略の重要性を踏まえた「人材育成方針」(多様性の確保を含む)や「社内環境整備方針」について、有価証券報告書のサステナビリティ情報の「記載欄」の「戦略」の枠の開示項目とすること及び女性管理職、男性の育児休業取得率、男女間賃金格差について、中長期的な企業価値判断に必要な項目として、有価証券報告書の「従業員の状況」の中の開示項目とすることが提言された。

 当該提言を受けて、開示府令等の一部改正では、有価証券報告書において、必須の記載事項として、人材の多様性の確保を含む人材育成の方針及び社内環境整備の方針(例えば、人材の採用及び維持並びに従業員の安全及び健康に関する方針等)をサステナビリティ情報の「記載欄」の「戦略」において記載すること、及び当該方針に関する指標の内容並びに当該指標を用いた目標及び実績をサステナビリティ情報の「記載欄」の「指標及び目標」において記載すること、並びに「従業員の状況」の中で、提出会社及びその連結子会社それぞれにおいて女性活躍推進法等に基づき「女性管理職比率」、「男性の育児休業取得率」及び「男女間賃金格差」を公表する場合には、公表するこれらの指標についても記載を求めることとされた(開示府令第二号様式記載上の注意(29)・(30-2)、第三号様式記載上の注意(9)・(10-2))。

 なお、改正開示ガイドラインにおいて、これらの指標を記載するに当たって、投資家の理解が容易となるように任意で追加的な情報を記載することが可能であることや、サステナビリティ記載欄の「指標及び目標」における実績値に「従業員の状況」において記載したこれらの指標の記載は不要であること、男性育児休業取得率及び男女間賃金格差を記載するに当たって注記すべき内容が明確化された(改正開示ガイドライン5-16-3、5-16-5)。

5  サステナビリティ情報の開示における考え方及び望ましい開示に向けた取組み

 WG報告(令和3年度)で提言されたサステナビリティ情報の開示についての期待等を踏まえて、開示府令等の一部改正に伴って「記述情報の開示に関する原則」において、新たに、以下を主な内容とするサステナビリティ情報の開示における考え方及び望ましい開示に向けた取組みをまとめた開示原則(別添)が公表された(開示原則(別添))

  • 「戦略」と「指標及び目標」について、各企業が重要性を判断した上で記載しないこととした場合でも、当該判断やその根拠の開示が期待されること
  • 気候変動対応が重要である場合、「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標及び目標」の枠で開示することとすべきであり、温室効果ガス(GHG)排出量について、各企業の業態や経営環境等を踏まえた重要性の判断を前提としつつ、Scope 1(事業者自らによるGHGの直接排出)・Scope 2(他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出)のGHG排出量については、積極的な開示が期待されること
  • 「女性管理職比率」等の多様性に関する指標について、連結グループにおける会社ごとの指標の記載に加えて、連結ベースの開示に努めるべきであること

 なお、サステナビリティ情報については、現在、国内外において、開示の基準策定やその活用の動きが急速に進んでいる状況であるため、サステナビリティ情報の開示における「重要性(マテリアリティ)」の考え方を含めて、今後、国内外の動向も踏まえつつ、記述情報の開示に関する原則の改訂を行うことが予定されている(注7)

6  コーポレートガバナンスに関する開示

(1) 取締役会、指名委員会・報酬委員会の活動状況

 WG報告(令和3年度)において、取締役会、指名委員会・報酬委員会の活動状況の開示については、コーポレートガバナンス報告書や任意開示書類において一定の進展が見られることや欧米等では法定書類で開示されていること等を踏まえ、個々の上場企業により取締役会と執行部門との関係や委員会等の役割や権限に幅があることに鑑み、監査役会等の活動状況の開示と同様、まずは、「開催頻度」、「主な検討事項」、「個々の構成員の出席状況」を記載項目とすべきであると提言された。

 当該提言を受けて、開示府令等の一部改正では、有価証券報告書の「コーポレート・ガバナンスの概要」において、取締役会や指名委員会・報酬委員会等の活動状況(開催頻度、具体的な検討内容、個々の取締役又は委員の出席状況等)を記載することとされた(開示府令第二号様式記載上の注意(54)i、第三号様式記載上の注意(35))。但し、企業統治に関して任意に設置する委員会その他これに類するもののうち、指名委員会等設置会社における指名委員会又は報酬委員会に相当するもの以外のものについては、記載を省略することができるとされているため(開示府令第二号様式記載上の注意(54)i)、例えば、リスクマネジメント委員会やコンプライアンス委員会等の活動状況については記載する必要はないと考えられる。なお、後記(2)のとおり、監査役及び監査役会の活動状況の記載項目の例示とされていた「主な検討事項」が「具体的な検討内容」に改正されたことと平仄を合わせて、取締役会や指名委員会・報酬委員会等の活動状況の記載項目の例示についてもWG報告(令和3年度)で提言された「主な検討事項」から「具体的な検討内容」に文言の見直しがされているが、単に規定された検討事項ではなく、実際に取締役会において検討された内容の開示を求める趣旨を明確化するものとされている(注8)

(2) 監査の信頼性確保に関する開示

 WG報告(令和3年度)において、内部監査体制の基本的な情報は投資家にとっても有用と考えられることから、有価証券報告書においてデュアルレポーティングラインの有無を含む内部監査の実効性の説明を開示項目とすべきであると提言された。

 当該提言を受けて、開示府令等の一部改正では、有価証券報告書の「監査の状況」において、内部監査の実効性を確保するための取組(デュアルレポーティング(「内部監査部門が代表取締役のみならず、取締役会並びに監査役及び監査役会に対しても直接報告を行う仕組み」と定義されている)の有無を含む)について具体的かつ分かりやすく記載することとされた(開示府令第二号様式記載上の注意(56)b(c)、第三号様式記載上の注意(37))。

 また、WG報告(令和3年度)において、監査役会等における実質的な活動状況の開示を求め、投資家と監査役等との対話を促進させていくことが重要であるため、現在の有価証券報告書の枠組みの中で監査役又は監査委員会、監査等委員会の委員長の視点による監査の状況の認識と監査役会等の活動状況等の説明及び監査上の主要な検討事項(KAM)についての監査役等の検討内容を開示することが望ましいと提言された。

 当該提言を受けて、開示府令等の一部改正では、有価証券報告書の「監査の状況」における監査役及び監査役会の活動状況の例示とされていた「主な検討事項」から「具体的な検討内容」の文言の見直しが行われたが(開示府令第二号様式記載上の注意(56)a(b)、第三号様式記載上の注意(37))、単に規定された検討事項ではなく、実際に監査役会において検討された内容の開示を求める趣旨を明確化するものであり、開示事項を実質的に変更するものではないとされている。そのため、「具体的な検討内容」については、WG報告(令和3年度)で提言された「監査役又は監査委員会、監査等委員会の委員長の視点による監査の状況の認識と監査役会等の活動状況等の説明」及び「KAMについての監査役等の検討内容」の記載を求める趣旨ではないが、WG報告(令和3年度)を踏まえ、企業において、投資家の投資判断や投資家との建設的な対話の観点から、このような情報を開示することが望ましいとされている(注9)

(3) 政策保有株式の発行会社との業務提携等の概要

 WG報告(令和3年度)において、政策保有株式については、その存在自体が、日本の企業統治上の問題であるとの指摘もあるところ、投資家と投資先企業との対話において、政策保有株式の保有の正当性について建設的に議論するための情報が提供されることが望ましいとされ、政策保有株式の発行会社と業務提携等を行っている場合の説明(「重要な契約」や「関連当事者情報等」とも関連付けて記載すべき)については、有価証券報告書の開示項目とすべきであると提言された。

 当該提言を受けて、開示府令等の一部改正では、有価証券報告書の「株式の状況」における政策保有株式の開示に関し、保有目的が政策保有株式の発行会社との営業上の取引、業務上の提携その他これらに類する事項を目的とするものである場合の当該事項の概要について記載を求めることとされた(開示府令第二号様式記載上の注意(58)d(e)、第三号様式記載上の注意(39))。

 政策保有株式の保有目的の開示に関して、「営業上の取引」又は「業務上の提携」といった定型的な記載にとどまるのではなく、今般の改正による記載事項も活用して、投資家と企業の対話に資する具体的な開示内容となるよう各企業において適切に検討することが期待されている(注10)。そして、保有目的が複数ある場合には、そのそれぞれについて、このような観点から具体的に説明する必要があるとされている(注11)

7  「重要な契約」の開示

 WG報告(令和3年度)において、企業と株主間のガバナンスに関する合意(役員候補者指名権等の合意、議決権行使内容を拘束する合意、事前承諾事項等に関する合意)は、一般に、当該企業のガバナンスや支配権への影響が大きく、投資判断に重要な影響を及ぼすことが見込まれ、適切な開示が求められるとして、契約の概要(締結日、契約当事者、契約の主要項目、当該合意の具体的内容等)、合意の目的、当該契約の締結に関する社内ガバナンス(特に、取締役会における検討内容)、企業のガバナンスに与える影響(影響を与えないと考える場合には、その理由)を開示項目とすべきであると提言された。

 また、企業と株主間の株主保有株式の処分や買増し等に関する合意(保有株式の譲渡等の禁止・制限の合意、保有株式の買増しの禁止に関する合意、株式の保有比率の維持の合意、契約解消時の保有株式の売渡請求の合意)は、その株式保有の規模や合意内容等に応じ、市場に影響を与え、投資判断に一定の影響を及ぼすことが見込まれることから、それを踏まえた適切な開示が求められるとして、契約の概要(締結日、契約当事者、契約の主要項目、当該合意の具体的内容等)、合意の目的、当該契約の締結に関する社内ガバナンス(特に、取締役会における検討内容)を開示項目とすべきであると提言された。

 さらに、財務上の特約(コベナンツ)の開示については、企業間に相当に幅が生じており、将来的には財務情報における前広な開示実務の定着が期待されるが、まずは、特に重要性が高いと見込まれる財務上の特約について、財務情報を補完する非財務情報(「重要な契約」)として開示されることが適切であるとして、ローンの契約額や社債の発行額が、自社の純資産額の一定比率以上である場合には臨時報告書において開示すること、及びローンの残高や社債の残高が自社の純資産額の一定比率(臨時報告書の提出に係る数値基準よりも高い数値基準を設定することも考えられる)以上である場合には有価証券報告書において開示すること、かかる臨時報告書・有価証券報告書における開示項目を融資借入契約又は社債等の概要及び財務上の特約の概要(トリガー基準、抵触時の効果、担保の内容等)すること、並びにこれら開示項目についての重要な変更・解約や基準への抵触があった場合には、その内容を臨時報告書において開示すべきことが提言された。

 もっとも、WG報告(令和3年度)においては、企業のガバナンス等に関する合意や財務上の特約の開示について、有価証券報告書等での開示対象等の明確化に当たっては、円滑な施行に向け、既契約の取扱い等、実務的な課題についても十分検討を行うべきとされたことから、「重要な契約」の開示については、開示府令等の一部改正では盛り込まれず、引き続き具体的な検討が必要なため、別途改正を行うこととされている(注12)。そのため、上場企業が株主との間で企業のガバナンスや株主保有株式の処分等に関する合意をしようとする場合は、今後、有価証券報告書において開示が必要になる可能性を踏まえて、その要否及び内容を検討しなければならないことに留意が必要である。

8  四半期開示

 WG報告(令和3年度)においては、四半期報告書と四半期決算短信の間の内容面での重複や開示タイミングの近接が指摘されており、エンフォースメント等の工夫をすることにより、両者の「一本化」を通じたコスト削減や開示の効率化が可能であるとして、上場企業についての法令上の四半期開示義務(第1・第3四半期)を廃止し、取引所の規則に基づく四半期決算短信に「一本化」することが適切と考えられると提言された。もっとも、WG報告(令和3年度)においては、四半期決算短への「一本化」の具体化に向けた検討課題があるとして、ディスクロージャーワーキング・グループにおいて引き続き議論を深めていくこととされた。

 それを受けて、WG報告(令和4年度)において、四半期決算短信への「一本化」の具体化について、以下の見直しの方向性が提言された。

  • 当面は、四半期決算短信を一律義務付けすること。今後、適時開示の充実の状況等を見ながら、任意化について継続的に検討すること
  • 開示内容については、四半期決算短信の開示事項をベースに、投資家からの要望が特に強い情報(セグメント情報等)を追加すること
  • 監査人によるレビューについては、任意とするが、会計不正等が発生した場合には一定期間義務付けすること
  • 虚偽記載に対しては、取引所のエンフォースメントをより適切に実施すること。但し、意図的で悪質な虚偽記載については、罰則の対象になり得ること
  • 半期報告書について、上場会社には、現行の第2四半期報告書と同程度の記載内容と監査人のレビューを求めることとし、提出期限は決算後45日以内とすること。非上場会社も上場会社と同じ枠組みを選択可能とすること
  • 半期報告書及び臨時報告書の金融商品取引法上の公衆縦覧期間(半期報告書は3年間、臨時報告書は1年間)を有価証券報告書の公衆縦覧期間及び課徴金の除斥期間である5年間へ延長すること

9  おわりに

 開示府令等の一部改正により、有価証券報告書においてサステナビリティ開示の「記載欄」が新設され、かかる改正は2023年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書から適用され(開示府令等の一部改正府令附則2条2項)、早期適用(施行日以後に提出される有価証券報告書から適用)も可能とされている(同項但書)。

 もっとも、サステナビリティ開示基準については国際的にも開発中であり、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)はサステナビリティ開示基準を2023年前半に最終化することを目指している。この点に関し、WG報告(令和4年度)で

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