老人ホームのおやつ提供で過失責任を問われた看護職員(20)
2023年04月21日
長野県安曇野市にある特別養護老人ホーム「あずみの里」で、利用者におやつのドーナツを提供し、のどに詰まらせて窒息死させたとして、ホームの職員である准看護師が業務上過失致死罪に問われた事件を検証する本シリーズの第20回では、取材を通して筆者が感じたこの事件の捜査と公判の問題点や無罪確定事件の検証について裁判所に取材した結果を報告する。
本シリーズの第17回で紹介したように、控訴審の主任弁護人、藤井篤弁護士の『逆転無罪 特養あずみの里刑事裁判の6年7カ月』(2021年7月発行)への寄稿によれば、2020年1月9日の東京高裁での三者打ち合わせの際、裁判長が「裁判所は因果関係について関心がない」と発言したとされる。このような発言をしたのであれば、その理由は何かなど、訴訟指揮や判決に関するいくつかの疑問点を尋ねるため、筆者は2021年8月、Yさんに無罪を言い渡した東京高裁の裁判長で、名古屋地裁所長になっていた大熊一之氏に書面で取材を申し入れた。しかし、取材には対応できないとする名古屋地裁事務局総務課名の文書(2021年9月14日付)が筆者のもとに届いた。。
前回紹介したように、最高検や警察庁は足利事件などの捜査、公判の問題点を検証し、その結果を公表しているが、冤罪事件の原因を検証しなければならないのは捜査当局だけではない。警察、検察による捜査、起訴の問題点を見抜けず、検察官の主張をしっかりチェックしないまま判決を下してしまった裁判所もまた、「誤判」の原因を検証する必要があるはずだ。
あずみの里事件では、一審長野地裁松本支部がYさんに有罪判決を言い渡し、全国の介護現場に衝撃を与えた。二審東京高裁は一審判決を破棄し、無罪を言い渡したものの、日本における救急医学や脳神経外科学、死亡時画像診断のトップレベルの医師たちが弁護側の依頼で死因を検討し、「脳梗塞による病死」と結論づける意見書を作成したにもかかわらず、弁護側によるそれら意見書の証拠請求をことごとく却下したうえ、判決でも死因を認定しなかった。筆者が取材した範囲でも、「あれは窒息事故だった」といまでも考えている医療、介護関係者がいる。高齢者介護はこの国に住むすべての人にとって避けては通れない課題である。その高齢者介護の現場は、人材難や低賃金に苦しみながらも、介護事業者や介護従事者の懸命の努力で支えられている。そうした介護事業者や介護従事者、ひいては介護サービスを利用する高齢者に深刻な影響を与えた「あずみの里事件」で、死因確認の手を尽くすこともなく起訴した検察官の責任は重大だが、それを認めて有罪判決を言い渡した裁判官にも相応の責任があると筆者は考える。裁判所にはこの事件の公判のあり方を検証する責任があるのではないか――。
1. 最高裁判所は、無罪判決確
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