茂木哲也・日本公認会計士協会会長インタビュー
2023年04月13日
公認会計士法に基づいて国内の公認会計士をまとめ、監督する日本公認会計士協会の会長、茂木哲也氏(55)が朝日新聞の加藤裕則記者と稲垣千駿記者のインタビューに応じた。公表される企業の有価証券報告書では今夏から、「非財務情報」の記載が大幅に拡充されるが、茂木氏はこれらの非財務情報について、会計士が「保証業務」を担うべきだとの考えを強調した。非財務情報は、気候変動への対応や人材育成方針など多岐にわたり、第三者による監査などが必要との機運が高まっている。3年目を迎える「KAM」(監査上の主要な検討事項)の記載の活用状況については「大きな課題がある」との認識を示した。茂木会長は昨年7月の就任で任期は3年。メディアを含む関係団体と対話を重ね、会計士の存在感を高める考えだ。
「『監査』という厳格なものかどうかは別にしても、非財務情報の『保証業務』は誰かがやっていくべきだと思います。いま、監査に関する国際団体がサステナビリティの保証に関する基準を策定中です。日本でも、それに従って保証業務を提供していくことになるでしょう」
――誰がその保証業務をやるのでしょうか。公認会計士ですか。
「公認会計士や監査法人がもっとも的確なサービスを提供できると考えています。欧州では、ビジネスの標準規格を認定する団体がやっているところもあります。しかし、会計士はすでに財務諸表の監査という切り口でその会社のことをかなり把握しています。サステナビリティは企業の活動の一つで、会計士はすでにその会社にどういう課題があるのか把握しているはずです。一番、効果的、効率的にできるのが会計士です。もちろん、会計士にまかせるのかどうか社会的な議論を踏まえる必要があります。金融庁でまもなく議論が始まるはずです」
「順調に導入されたと考えています。一定のレベルに達しています。もちろん、最初から100点とれたかというと、そうではないでしょう。これから、投資家など利用者の声を聞きながら、少しずつ改善していけばいいと思っています。まだ、生まれて育てている状態です」
――有価証券報告書についた各企業のKAMを見ると、繰り延べ税金資産や減損処理など専門性が高く、かなり難解です。
「会計士が重点を置くテーマなので、どうしても専門的な項目になってしまいます。例えば、経営者の見積もりが入ったり、会計処理が複雑になったり、もしくは新しい取引の仕組みなどが取り上げられます。それらを説明するとなると、どうしても難しくなってしまうのです」
――そのせいかもしれませんが、大学教授の調査で、KAMについてアナリストの6割が読んでいないという結果もあります。
「これは大きな課題です。原因分析が必要です。KAMのタイトルを見るだけでも意味はあると思うで、積極的に活用してほしいと思います」
――KAMについて、同じ表現を使い回す「ボイラープレート」もあったようです。
「ボイラープレートという言葉には注意が必要です。ボイラーに付いている銘板のように同じものを使い回すという否定的な言葉として使っていますが、一つの企業で、2年続けて同じような内容は十分にあり得ることだと思います。最初の年のKAMが本質を突いていて、ビジネス環境に大きな変化がなければ、2年目も同じKAMになるでしょう」
――一方、金融庁の分析で、一つの監査法人が複数の会社で同じような文章を使いまわしているのでは、という指摘もありました。
「同じ業種だと重視する部分が同じになることは理解できます。たとえば銀行で言えば、どうしても貸し倒れ引当金について会計士は注目します。できるかぎり、その会社の置かれている状況を踏まえながら、KAMを書いていくことが大切になります」
――2008年に始まった内部統制報告制度の形骸化が
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