2010年07月27日
(釆沢嘉高)
この投資家については証券取引等監視委員会が今年5月、金融商品取引法違反の疑いがあるとして課徴金95万円の納付命令を出すよう金融庁に勧告。その後、同庁が納付命令を出した。ただし、投資家が証券会社を通じ不正な株取引をしても、罰則対象は投資家だけ。不正行為に積極的に加担した場合などを除き証券会社は対象にならない。
証券監視委によると、この投資家は2008年、東証マザーズ上場の広告会社「バリューコマース」(東京都港区)の株価を「対当売買」という手法で操縦した。この手法は、同一の人物が株の売りと買いの注文を同時に出して株取引の成立を装うもの。ほかの投資家による売買を誘発し、株価の上昇・下落につなげる狙いがあり、金融商品取引法で禁止されている。投資家は同年10月2~6日、この対当売買を約80回して株価を1万2040円から25%安い9120円に下落させた。また、同月7~22日には約240回の対当売買で8300円から5割以上高い1万2700円に上昇させたとされる。
監視委は投資家がどの証券会社を通じ取引していたか公表していないが、市場関係者によると、注文を取り次いでいたのはすべてSBI証券。SBIは08年10月21日に電話で投資家に注意をしていたが、不正な注文が始まってから19日後。すでに約320回の対当売買が行われていたという。
SBI証券は「個別の顧客の取引に関することなので、守秘義務の観点から事実関係の有無も含め答えられない」としている。また、「当社の売買審査体制は08年当時と比べ強化された。担当者が倍増されて、対当売買など個別の不正取引について複数の目でチェックすることもできるようになった。取引所や証券監視委とも連絡を密に取っており、不正の未然防止に努めている」と説明している。
■他社は防止措置
株式市場のインターネット取引はここ数年、活況を呈している。日本証券業協会によると、口座数は2010年3月末で1574万口座。5年前の約2.2倍だ。
その中で、SBI証券が多数回にわたる不正取引の「対当売買」を見過ごした点について、東京都内のネット証券会社員は「あり得ない。そもそも対当売買ができるようなシステムにしていることが疑問だ」。この会社では、自分が売った株を自分で買う注文を同時に受け付けないシステム。2台のパソコンを使って同時に注文しても、数千分の1秒単位まで注文の前後を識別し、後から入った注文をはじくという。
また、システム上は対当売買の受注ができるという別のネット証券会社では、対当売買が1回でもあれば当日、電話で客に注意を促すという。「電話で聞いたら『間違え
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