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(2) 証券取引所など自主規制機関とともに

 監視委職員の東証への出向も

 ■自主規制の重要性

佐々木清隆課長佐々木 清隆(ささき・きよたか)
 東京都出身。1983年、東大法学部卒業後、大蔵省(当時)に入省。金融監督庁(現金融庁)検査局、OECD(経済協力開発機構)、IMF(国際通貨基金)など海外勤務を経て、2005年に証券取引等監視委員会事務局特別調査課長。2007年7月より同総務課長。
 市場規律の担い手の中でも、特に重要な役割を果たしているのが、自主規制機関である。金融商品取引法は、証券取引所と証券業協会を自主規制機関として位置づけ、自主規制機関として果たすべき役割を規定している。

 なぜ自主規制が必要なのか?それは前回のこの場において、市場規律の重要性としてご紹介した、問題の未然予防、機動性、柔軟性、当事者意識(ownership)に基づく実効性のメリットが、まさに自主規制に当てはまるからである。すなわち、自主規制機関には、ルール・メーク、上場企業や会員証券会社等によるルール遵守の確保及びそのための検査や考査・監査、ルール違反に対する制裁、上場企業や一般投資家等に対する広報・啓蒙活動の各分野において、当局が対応するよりも効率的、効果的な対応を期待することができる。

 このような自主規制の重要性に関して、参考になる司法判断も出されている。ジャスダック証券取引所上場のP社が、同取引所が行った同社の上場廃止決定の無効の確認を求めた訴訟において、東京高裁は平成19年9月19日に請求を棄却する判決を出している。東京高裁の判決においては、「証券取引法が証券取引所の業務規程に有価証券の上場及び上場廃止の基準及び方法を定めることを求めているのは、市場において取引する適格のない有価証券を排除することで、公正な証券市場を維持し、投資家保護を図るためのもので、公益的理由に基づく」こと、「上場会社が上場廃止基準に該当する以上、一般投資家保護の責務を負う証券取引所として、上場を廃止すべき義務を負う」との判断を示している。公正な証券市場の確保、投資家の保護の上での自主規制の役割、重要性を適正に評価した判決であると考えている。

 ■自主規制機関と監視委の連携:「一方通行」から「双方向」へ

 このような自主規制機関の役割の重要性に鑑みて、監視委としては、自主規制機関との連携を強化してきているが、従来は、「監視委の監視活動を支える上での自主規制機関の重要性」という観点が中心であった。インサイダー取引に関する証券取引所による売買審査、不公正ファイナンス等に関する証券取引所上場管理部から監視委に提供される情報、日本証券業協会による会員証券会社に対する監査結果等は極めて有益なものであり、監視委の活動に大きく貢献してきている。しかしながら、情報の流れは、「自主規制機関から監視委」への一方向であることが多く、提供された情報を監視委として活用した結果等についての自主規制機関へのフィードバックは限定的であったのも事実である。
 自主規制機関の職員の間では、監視委員会に情報を提供しても、その後の状況について監視委からのフィードバックがないことから、監視委を「ブラック・ホール」と呼ぶこともあった。

 しかしながら、この1~2年、従来のような「一方通行での連携」ではなく、自主規制機関への監視委からの情報提供、自主規制機関と監視委の間の情報や認識の共有という「双方向での連携」を強化してきている点を強調しておきたい。例えば、証券取引所や証券業協会との間では、監視委の問題意識を定期的にお伝えする場を様々なレベルで設けてきているほか、自主規制機関から提供された情報等の活用状況等について、監視委から各自主規制機関にフィードバックさせていただいている。また監視委が年数回開催する監視委職員向けの研修には、平成21年暮れの研修以来、自主規制機関の職員の方にも参加いただいている。さらに、自主規制機関が主催されるセミナーや各種イベントにも、監視委から講師を派遣したりすることによって、サポートさせていただいている。

 人的な交流の面においても、従来の自主規制機関から監視委への出向に加え、この7月の人事異動により監視委職員2名を東京証券取引所に出向させ、東証の自主規制業務を中心に経験を積ませていただいている。

 このように現在では、情報、認識、ノウハウ、人材等の各面において、自主規制機関と監視委の間で、共有のレベルが向上してきていると考えている。当局による監視と自主規制が車の両輪としてバランスよく機能することで、「全体としての市場監視」がより実効性をあげることが可能になる。1+1が2ではなく、5あるいは10の成果を挙げるような、相乗効果を産むことが期待される。

 ■今後の課題:自主規制に関する市場参加者の意識改革

 このような自主規制の重要性については、わが国においては、欧米に比べても、市場参加者全体の認識が十分であるとは言えないと考えている。過去においては、自主規制が、「身内意識」、「かばい合い」との批判を受けることもあった。また、証券取引所の上場規則等の自主規制規則について、上場企業・証券会社と証券取引所の間の民間当事者同士の契約としてしか認識していない弁護士もおり、リーガル・オピニオン等における法律的な検討の対象として、自主規制が考慮されない問題も見られる。

 自主規制機能がその期待される役割を発揮するためには、自主規制機関自らによる努力に加えて、市場参加者も認識を改める必要があると考えている。自主規制機能の発揮を期待する監視委として、市場参加者の意識改革等のうえで、自主規制機関と連携してさらに取り組んでいくことが重要である。

 ▽文中、意見にわたる部分は筆者の個人的見解である。

 ▽市場の規律を求めて(1) 多様な担い手を結びつけるのも監視委の役割

 ▽証券取引等監視委員会のホームページ

 

 佐々木 清隆(ささき・きよたか)
 東京都出身。1983年、東大法学部卒業後、大蔵省(当時)に入省。金融監督庁(現金融庁)検査局、OECD(経済協力開発機構)、IMF(国際通貨基金)など海外勤務を経て、2005年に証券取引等監視委員会事務局特別調査課長。2007年7月より同委員会事務局総務課長。