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(3) 社長夫人への手紙と政治結社塾頭 背後にいると疑われ

奥山 俊宏

 ■弁護士

 解雇予告通知書を受け取った大石は知人に相談した。

 「いい弁護士がいる。労働法に詳しい。それを頼りに行ってみろ」

 そう紹介されて訪ねたのが東京法律事務所の弁護士・小林譲二だった。

 東京法律事務所は四谷にあって、20人以上の弁護士が在籍している。「国や大企業の不正に対して毅然と取り組む」「『弱者』の権利を守るために活動してきた」と自負する有力な事務所で、小林も労働法の専門家として、主に労働組合や労働者の側に立って活動してきた。

 大石の話を聞いて小林がまず考えたのは、大石と会社の契約が「期間の定めのある有期雇用」なのか、それとも、「期間の定めのない雇用」なのか、という問題だった。

 2002年1月12日に解雇を通告されたとき、大石は66歳。多くの会社では定年は60歳だが、それを超えている。一般的には、定年後は、嘱託など、「期間の定めのある有期雇用」、すなわち、非正規雇用とされることが多い。

 一方で、大石の場合は、56歳でその会社に入り、10年近く勤めている。「期間の定めのない雇用」、つまり、正規雇用であると考えることもできる。つまり、「正社員」ということだ。そして、もし正規雇用だとすれば、解雇権濫用の法理で闘うことができる。「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と法に定められているのだ。

 小林がもう一つ気にかかったのは、残業代不払いの問題について、大石が労政事務所や労働基準監督署だけでなく、監査法人にまで足を運んで改善を訴えた点だった。しかも、東京証券取引所2部上場を控えた、会社にとっては非常に微妙な時期に、だ。その目的や内容は正当だが、手段としては「ややウイングを広げ過ぎ」というふうに感じられた。

 大石はかつて岩手県内の市役所で部長クラスの役職を務めた。その割には、「大人の対応」というよりも、「猪突猛進の熱血漢」として行動してきた。

 「行為態様の相当性が問題になりうる」と小林は考えた。「これをどうやって防御したらいいか」

 まずは1月30日、解雇予告通知書の発信人となっていた会社側の弁護士に通知書を送った。

 「本件解雇には全く正当な理由がなく無効のものです。従って、当職らは現在法的手続を準備中ですが、通知人(大石)の今後の生活のことを考え、本件の早期の円満な解決のために、貴職との協議を行いたいと思います」

 しかし、弁護士同士の話し合いはまとまらなかった。

 ■塾頭

 2002年2月21日、政治結社の「塾頭」を名乗る男が会社を訪れた。応対した総務部長と総務課長に、「労基法違反の改善実施について」と題する文書を見せた。

 「行政機関の指導があっても会社の法的認識は甘い考え方であり、改善の姿勢は全くなく 証拠隠蔽の気運がある」

 文面の末尾に大石の名前と押印があった。

 「塾頭」を名乗る男は総務部長らに言った。

 「大石の件は、問題を大きくする前に当事者間で十分に話し合って穏便に解決した方がよいのではないか」

 「大石には、話合いの席につくよう言っている」

 「社長との話し合いの機会を設けてもらいたい」

 のちの法廷での会社の主張によれば、男は、社長名義の部店長あて文書や人事部長名義の回覧文書のコピーも手にしていたという。

 男は「株主だ」と自称した上で言ったという。

 「代表訴訟は費用のわりにはメリットがない」

 株主代表訴訟を起こす理由となるような事実をつかんでいるものの、現段階では提訴を控えている――、そうほのめかしているように会社側の目には映った。

 後日、会社ではその男の名前が株主名簿にあるかどうかを調べた。しかし、確認できなかった。

 その「塾頭」の背後に大石がいるのは間違いない、会社側はそうにらんだ。

 「頼まれもしないで大石名義の文書を持ってわざわざ訪問するはずがない。2通の社内文書のコピーを持っていたということは、依頼人である大石から入手したものとしか考えることができない。大石ならば、社内のだれかからこの文書を入手することは可能である」(のちの法廷での会社側の主張)

 大石は当時、時間外手当の未払いがあったとして、その支払いを会社に求めていた。会社側の弁護士は、「塾頭」の言葉と大石の請求を結びつけて、「恐喝未遂にあたるのではないか」と考えた。

 ■2ちゃんねる

 3月18日、社長の「御夫人様」にあてて、その自宅に、「社員有志一同」を差出人とする封書が送りつけられ

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