母国語が苦手、担当者の退職で業務停滞
2010年08月29日
▽筆者:奥山俊宏
▽本文中のリンクはすべて内閣府消費者委員会のウェブサイトへのものです。
それによると、2008年度、2009年度の2年間に国土交通省に届け出られた国産車のリコール416件のうち、メーカーがリコールを決定した日付が明確に届け出資料に記載されていた136件について、届け出までの期間を調べたところ、2か月以上かかっている事例が少なくとも34件あった。このうち4か月を超えるものが10件。中には8か月を超えるものもあった。34件のうち8件でリコールが決まってから届け出までの間に26件の不具合が新たに発生していた。ある大型特殊自動車については、メーカーがリコール実施を決めてからリコールが届けられるまで7か月余も経過しており、その間に8件の不具合が新たに発生していた。
同じ2年間に届けられた輸入車のリコール183件のうち、本国のメーカーから日本国内の輸入事業者に改善措置実施の通知があった日付が届け出資料に明示されていた149件について調べたところ、通知からリコール届け出まで4か月以上かかっている事例が少なくとも32件あった。うち3件でその間に新たな不具合の発生が6件あった。
このようにリコールを決めたのにリコールを届けない理由について、消費者委員会が調べたところ、「本来すみやかにリコールを届け出るはずであったが、担当者の退職や担当部署の移転により、案件の処理が滞ったため」「リコール以外の業務(予算計画立案等)が急務となり、届出準備が停滞したため」「リコールが必要となる不具合の内容が本国から通知されてきたが、当該通知が本国の言語によるものであったことから、詳細を把握できなかったため」などの理由が挙げられているケースがあった。消費者委員会の報告書はこれについて「期間を要したことについて、合理的な理由を欠いている事案もみられた」と指摘している。
リコール届け出は道路運送車両法に基づく制度。自動車メーカーは、自社製の車が保安基準に適合しなくなるおそれがある状態にあり、かつ、その原因が設計または製作の過程にあると認める場合には、速やかに必要な改善措置を講ずる義務があり、道路運送車両法で、この改善措置を事前に国土交通省に届け出ることが義務づけられている。つまり、リコールを決めたにもかかわらず、それを届けないということは、その間、保安基準不適合のおそれのある車をそうと知りながら公道に走らせることを放置する、ということを意味する。消費者委員会の報告書はリコール届け出の遅れについて「安全の確保に支障が生じるおそれがある」と指摘している。
リコール届け出までの期間について、日本では、法律に規定がなく、国土交通省の通達で「すみやかに」となっているに過ぎない。2009年度までの5年間に、リコール届け出が迅速に行われなかった5つの事例について国土交通省の行政指導がなされていたが、そのほかは「適切な対応がなされなくても特段のペナルティもない」という状況だった。
消費者委員会は国土交通相に渡す予定の建議の書面の中で、次のように指摘している。
「ユーザーに対する注意喚起情報のすみやかな提供という観点からも、届出までに長期間を要している事案について、リコール届出や立入検査等の機会において、長期化の要因を確認のうえ是正を促す等、より一層注視することが必要である。さらに、リコール届出のタイミングの考え方について、現行の通達よりも一層明確な基準・目標等を示すことの必要性について検討する等、早急な改善が必要である」
この建議を決めた27日の消費者委員会では一部の委員から「いつまでに届けるべきか、たとえば、5日とか1週間とか10日とか1か月とか、おそらく法改正が必要になるだろうが、具体的に検討すべきことを求めたい」との意見も出た。
消費者委員会は「消費者庁を含めた関係省庁の消費者行政全般に対して監視機能を有する独立した第三者機関」として昨年9月に発足し、今回、初めて建議を決定した。消費者委員会設置法では、「消費者の利益の擁護に関する基本的な政策に関する重要事項を調査審議し、必要と認められる事項を関係各大臣に建議すること」が消費者委の任務の冒頭に掲げられており、そのために資料提出など必要な協力を関係行政機関に求める権限も規定されている。消費者委員会はこの権限に基づき、今年5月にリコール関連資料の提出を国土交通省に求めていた。
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