2010年09月01日
日本経営倫理士協会専務理事
千賀 瑛一
■1千社以上が発行
企業の社会的責任(CSR)への取り組みは1990年代半ばから一段と活発化し、これに伴って、CSRに関する報告書を発行する企業が増えてきた。当初は環境対策に焦点を当てた報告書が中心だったが、それが環境社会報告書に進化し、やがてCSR報告書となってきている。会社案内、決算報告、株主通信、消費者向けレターなど企業発信情報はさまざまだが、CSR報告書は、これらを集約した内容となっている。
CSR報告書を発行している企業は、2001年度は579社、2005年度は933社(トーマツ環境品質研究所まとめ)。現在は1000社を超えているとみられ、いまや、企業情報発信の主役になろうとしている。
CSRに関する報告書にどのようなタイトル(表題)をつけるかは企業によってさまざまだ。標準的なものは「CSR報告書」(帝人グループ、グンゼグループなど)だが、そのほかに「CSRレポート」(サントリー、昭和電工など)、「環境・社会報告書」(イオンなど)、「グリーンレポート」(ダスキン)、「企業行動報告書」(パイオニアグループ)などがある。
多くの企業が、毎号の報告書で読者アンケートをとっており、次号制作に生かしている。さらに各報告書の巻末には「第三者意見」が、掲載されている。発言者は消費者団体代表、大学教員、シンクタンク研究員、ボランティア・グループ代表らで、それぞれの専門的分野からの視点でコメントしている。
■帝人CSR報告書・高見編集長に聞く
「毎年、12月にCSR報告書作成委員会(約20人)を開き、作業がスタートします。株主総会の開かれる6月発行を目指します。作成委で議論したテーマを、各セクションの担当者に割り振り、原稿を書いてもらう。毎号、大型特集を2本掲載します。2010年版では『よりよい在宅酸素療法をめざして』と『生物多様性の保全について』。その年度の重要な事業や、環境問題について踏み込んだ記事で構成されています」
帝人のCSR報告書2008年版は、環境省などが主催する「環境コミュニケーション大賞」の環境報告書部門で環境大臣賞を受賞し、さらに2009年版は、やはり同部門で優秀賞などを受けている。
同報告書2010年版は、A4判タテ、62ページフルカラー。日本語版8千部、英語版2千部を発行した。
■事故、不祥事の情報もオープン
各報告書の内容はコーポレートガバナンス、コンプライアンス、リスクマネジメント、品質保証、環境マネジメント、生物多様性の保全など様々。社会貢献活動や地域交流についても掲載している。財務情報については、決算発表時に出す細かいデータではなく、売上高、営業利益、経常利益、当期利益などについて「事業概要」の中で図解した例がある(サントリーグループ)。「業務ハイライト」として数字とグラフで解りやすく記載した例もある(大和ハウスグループ)。
労務情報開示に積極的なケースも目立つ。従業員の平均年令、採用者数、平均勤続年数はじめ身障者雇用や有給休暇取得状況を開示している例もある。さらに社内・社外からの相談・通報(ヘルプラインなど)について、総件数はじめ内容別に分類した数字を公表しているところもある。多くは5年分について推移を表示している。
企業不正・不祥事の記載状況に、透明性確保に対する企業の姿勢がみえてくる。裁判中などいろいろ記載しにくいケースもあるようだが、かなりオープンにしている報告書もある。
「残念なことに、2002年9月に公共事業の入札において日立製作所が競争入札妨害を働いたとして社員が刑事罰を受け、さらに2006年9月、2008年8月、2008年10月にも独占禁止法に抵触する行為を犯したとして行政処分を受けました。このような事態を引き起こしたことを深く反省し……、各種コンプライアンスの意識向上に取り組んできました」(日立グループCSR報告書2010、「独占禁止法違反の再発防止」の項)
また、「JAL CSR REPORT 2009」では、飛行中の揺れによる客室乗務員の負傷など2件の航空事故、2件の重大インシデントの計4件の発生状況と対策について踏み込んだ内容の記載がある。(2010年版は発行されていない)
帝人グループCSR報告書では、石川県・大聖寺工場(2005年封鎖)敷地一部汚染について記載している(環境保全の項)。また、三菱地所グループCSR報告書では、1997年の商法違反事件、2005年の大阪アメニティパークの土壌地下水問題に触れ、それぞれの反省に立った改革の取り組みを進めている、と記述している。
各社の報告書を読み込んでいくと、メディアに報道されていない小さな不祥事までも記載されている。
高見さんは「会社にとってマイナス情報であっても非公開というやり方は、企業情報の透明性確保の基本方針にそぐわない。企業そのもの、また報告書の信頼性を築くために情報公開は進むだろう。会社内でも、不祥事を風化させないで、大切な教訓として、改革に活かすべきだという考え方が浸透している」と強調している。
CSR報告書を発信媒体とする企業情報開示の流れはかなり定着し
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください