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タックスヘイブン対策税制のハイブリッド化

所得の性質にも着目 課税所得の争奪戦の激化が背景に

伊藤 剛志

 カリブ海のケイマン諸島など税率の低い外国、いわゆる租税回避地に子会社をつくって所得をため、日本からの課税を避けるのを規制するタックスヘイブン対策税制が大きく変わってきているという。これまでは事務所や工場などの施設を持ち、事業を管理・運営するなど実態ある子会社(entity)であれば適用除外となっていたが、今年度の税制改正で、実態ある子会社であっても、所得(income)の性質に着目して場合によっては課税することになったという。西村あさひ法律事務所の伊藤剛志弁護士が最近の税制改正を解説し、制度の「変質」を追った。(ここまでの文責はAJ編集部)

転機をむかえつつあるタックス・ヘイブン対策税制

西村あさひ法律事務所
弁護士 伊藤 剛志

 1.はじめに

伊藤剛志弁護士拡大伊藤 剛志(いとう・つよし)
 弁護士。1999年東京大学法学部卒。司法修習(第53期)を経て、2000年に弁護士登録。2007年ニューヨーク大学ロースクール(LL.M.)修了(Arthur T. Vanderbilt奨学生)。2008年ニューヨーク州弁護士登録。現在、西村あさひ法律事務所・名古屋事務所代表。金融取引および税務を中心に担当。レポ取引に係る源泉徴収税を巡る税務訴訟を始め、様々な税務調査・税務争訟に関与・助言している。
 タックス・ヘイブン対策税制とは、法人の所得に対する税金がない又は著しく低い国・地域(以下「軽課税国」)に所在する外国法人で、日本の法人・居住者により株式等の保有を通じて支配されているものの所得を、持分割合に応じて日本の法人・居住者の所得に合算して課税する制度である。近年では、外国子会社合算税制とも呼ばれている。

 1978年にタックス・ヘイブン対策税制が導入された当初、その対象となる軽課税国はリスト化され、限定列挙されていたが、1992年の改正でこのような指定制度は廃止され、法人所得に対する税率が25%以下である外国法人がタックス・ヘイブン対策税制の対象とされた(このような、タックス・ヘイブン対策税制の適用要件とされる税率を「トリガー税率」という)。そして、近年、諸外国の法人実効税率が引き下げられる中で、いわゆる「タックス・ヘイブン」としてイメージされる国・地域にある外国法人のみならず、日本法人による進出が盛んなアジアの諸外国、例えば、中国(負担税率25%)、マレーシア(負担税率25%)、ベトナム(負担税率25%)、韓国(負担税率24.20%)に所在するわが国企業の子会社等も、その対象に含まれる状態となっていた。

 このような状況のもと、平成22年度税制改正では、近年の国外に進出するわが国企業の事業形態の変化や周辺諸外国における法人所得税等の負担水準の低下等に対応し、トリガー税率の引き下げ、持株要件の引き上げ、統括会社に関する例外的取り扱いの導入といった課税対象を合理化する改正を行うともに、租税回避行為を一層的確に防止する観点から、一定の資産運用的な所得(いわゆるポートフォリオ所得ないしパッシブ所得)を合算して課税する制度が導入されている。

 以下では、内国法人に係るタックス・ヘイブン対策税制の平成22年度税制改正における主要な改正点を概説するとともに、近年の一連の税制改正がもたらしたわが国タックス・ヘイブン対策税制の「変質」の姿を指摘したい。

 2.トリガー税率の引き下げ

 タックス・ヘイブン対策税制により所得合算の対象となる外国法人は、わが国の内国法人等が合わせて発行済株式等の50%を超える株式等を直接・間接に所有している外国法人(以下「外国関係会社」)のうち、本店所在地国においてその所得に対して課される税の負担がわが国と比べて著しく低い外国法人(以下「特定外国子会社等」)である。

 平成22年度税制改正では、特定外国子会社等の要件である「著しく低い」租税負担割合(いわゆるトリガー税率)が、25%から20%に引き下げられた。

 近年、わが国の企業の進出が盛んなアジア諸国においてもその法人実効税率の引き下げが行われて、タックス・ヘイブン対策税制の適用が問題となる外国関係会社の数が増える一方、例えば、わが国企業の主要な進出先である中国にある子会社のうち、そのほとんどが、後述の適用除外要件を充足したり、実質的な税負担が25%を超えていたりすることから、結果として所得合算の対象となっていない状況にあった。

 平成22年度税制改正で、トリガー税率が20%に引き下げられた結果、合算対象となる外国法人の数が少なくなるとともに、タックス・ヘイブン対策税制の適用が問題となる外国関係会社の数も少なくなることから、納税者の事務負担が軽減されることが期待される。

 3.海外統括会社に係る特例

 タックス・ヘイブン対策税制は、主として、わが国の法人が軽課税国にある子会社を利用した租税回避を防止することを目的とした制度であるため、軽課税国にある子会社であってもその地に所在することについての経済合理性が認められるような

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筆者

伊藤 剛志

伊藤 剛志(いとう・つよし) 

 弁護士。1999年東京大学法学部卒。司法修習(第53期)を経て、2000年に弁護士登録。2007年ニューヨーク大学ロースクール(LL.M.)修了(Arthur T. Vanderbilt奨学生)。2008年ニューヨーク州弁護士登録。現在、西村あさひ法律事務所・名古屋事務所代表。金融取引および税務を中心に担当。レポ取引に係る源泉徴収税を巡る税務訴訟を始め、様々な税務調査・税務争訟に関与・助言している。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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