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逆流(3) 「民主党代表ではなく個人として」……鳩山氏がついに記者会見

松田 史朗

 

松田 史朗(まつだ・しろう)松田 史朗(まつだ・しろう)
 朝日新聞記者。1964年生まれ。信州大学卒。重化学工業通信社、週刊ポスト、週刊文春などを経て、2003年秋、朝日新聞社に入社。政治部、社会部、特別報道チームを経て、現在、文化グループ。「週刊ポスト」時代に永田町の取材を始め、政界の汚職事件も担当。著書に『田中真紀子研究』(2002年、幻冬舎)など。共著に『偽装請負』(2007年、朝日新聞社)。
 2009年6月30日――。じりじりとした暑い夏の太陽に照らされ、私は昼過ぎ、マクドナルド永田町店に“避難”していた。アイスコーヒーを前に涼んでいたとき、携帯電話に同僚から連絡が入った。

 「鳩山代表が献金問題で記者会見する」

 私たちが「鳩山故人献金」の初報を出してから2週間。いつかは行われなければならないはずの釈明記者会見が行われないままずるずると時が経過していたから、突然の知らせにも、私は「やっとか」と思った。と同時に、鳩山由紀夫・民主党代表は果たしてどう説明するのかとも考えた。

 ■青白い顔で疲れた様子

 夕刻、記者会見の開始予定時間より20分前に永田町の議員会館入り口の受け付けで、「鳩山代表の会見で来ました」と用件を告げると、「もうメディアの方はいっぱいでこれ以上、入れません」と断られた。自分が火をつけた問題について、あちこちのメディアに関心を持ってもらえたのは嬉しかったが、会見場に入れないというのは、ちょっと困った事態だ。

 事前に会見への参加を申し込んでいたつもりだったので、そのことをあれこれ説明しているうちに「それではどうぞ」。会見の開かれる会議室に入ると、そこはすでに200人近くの新聞、テレビ、雑誌の記者、カメラマンたちの熱気があふれかえっていた。

 時間が来た。五百蔵洋一(いおろい・よういち)弁護士を伴い、鳩山氏が部屋に入ってきた。その顔色は青白く、体はやや前のめりで疲れている様子に見えた。司会の平野博文衆院議員に「それでは、鳩山代議士、よろしくお願いします」と促されると、鳩山氏は話し始めた。

 ■「鳩山氏も芳賀秘書は知らなかった」

謝罪する民主党の鳩山代表=2009年6月30日夕、衆院第1議員会館、河合博司撮影謝罪する民主党の鳩山代表=2009年6月30日夕、衆院第1議員会館、河合博司撮影
 鳩山氏は冒頭、「私の資金管理団体のことに関しまして、国民の皆さまにご心配とご迷惑をおかけしていること心よりお詫び申し上げます」とわびた上で、「本日は鳩山由紀夫個人として、民主党代表という形ではなく個人として申し上げたいと思います」と切り出し、腰を下ろした。

 この問題が間近に迫る総選挙にマイナスとなる可能性を意識した発言だった。「民主党代表」としての問題ではないと強調するところに、苦しい胸の内がうかがえた。

 大勢の記者団が静まる中、鳩山氏は今回の問題に対する見解を述べ始めた。会場には「調査報告書」と題する紙2枚が配られた。

 「時間はかかってしまったが、現段階での正確な事実が示されている。報道の指摘は、基本的に事実だった」

 鳩山氏はそのうえで、隣の五百蔵弁護士に調査内容の説明をうながした。「調査報告書」にその作成者として記名があり、押印もあるのが五百蔵弁護士だ。その五百蔵弁護士は次のように切り出した。

 「会計実務の担当者が収支報告書に事実でない献金の記載をしたと判明した。当該秘書は残念ながら、その事実を鳩山氏にも会計責任者にも打ち明けていない。つまり、自分で行ったということだ」

 会計実務を担当した「当該秘書」とは、のちに政治資金規正法違反の罪で起訴された勝場啓二秘書のことである。「会計責任者」とは、同じく政治資金規正法違反の罪で略式起訴された芳賀大輔秘書のこと。つまり、五百蔵弁護士は、鳩山氏と芳賀秘書は、この問題を全く承知していない、勝場秘書の単独犯であるーーと説明した。この連載の第1回で書いたが、私は、その点に最初から疑問を持っている。

 そして、政治資金規正法違反の内容について五百蔵弁護士は次のように述べた。

 「客観的資料を一つ一つ点検していく確認調査を行っている。数字としては、(平成17年から20年までの4年間で)193件、人数は90人、2177万8千円。(偽装献金の)原資は鳩山氏個人のお金だ」

調査報告書の一部調査報告書の一部

 原資については、次のように説明した。

 「鳩山氏は代議士なので、当然、自分で出すべきお金とかその他いろんなものがある。そういうものを本当に信頼のおける実務担当者に任せていたというか、預けていた」

 これは、代議士個人で支払う私的なカネも含めて、勝場秘書に預けていたが、それを秘書が勝手に偽装献金にあてたという意味だ。そして、こう締めくくった。「結局、鳩山さんが預けたお金は事実ではない献金よりずっと多い額だ。したがって原資は信頼できる」

 鳩山氏に代わって秘書に事情を聴いたという五百蔵弁護士は偽装の動機について「秘書の保身」と説明した。

 「秘書が言っているのは、『直接、(偽装した)方々に寄付のお願いをすれば、おそらく相当な方はして頂けた方である。そのような仕事を怠っていた』と。『それを隠す』と言ったら言い過ぎかもしれないが、そのことが原因であると」

調査報告書の一部調査報告書の一部

 この時の鳩山氏側の主張を簡単にまとめると次の3点に集約できる。

 「収支報告書の虚偽記載は、会計実務を担当する秘書が、鳩山が余分に預けていたお金から独断でカネを流用して、偽装資金にあてた」

 「鳩山本人は全然知らない」

 「動機は個人献金が集まらないのを隠すための秘書の保身」

 結局のところ、「鳩山氏は全く関与していない」というのが説明の核心である。私には、それをわざわざ証明せんがために、秘書の動機と原資のありかを説明し、根拠付けしているように思えた。

 ■「動機」に関する疑問

 しかし、鳩山氏側の説明には、すぐに大きな疑問が湧いた。まずは、勝場秘書がそれを行った動機について、だ。

 秘書がプレッシャーを感じるような集金の目標額が定められていたか、秘書に心理的圧力があったのか、という記者の質問に対して、鳩山氏は「基本的に全くノータッチであった。事務所ごとに目標額みたいなものは一切設けていない。会計を担当している男にすべて経理を任せていたので、彼の判断ですべて行っていることだ」と説明した。

 鳩山氏のように、その家柄と資産から、多くの支援を受けられる国会議員が、企業献金を無理に集めなくても政治活動を続けていけそうなことはなんとなくわかる。それは鳩山家という大きなバックアップがあるからだ。しかし、それであれば、無理に集める必要がないのは、個人献金についても言えることだ。勝場氏はいくら企業献金が少なくても、無理に企業献金を集める必要はなかったし、個人献金についても同じだったはずだ。したがって、「個人献金が集まらないのを隠す」という「動機」は筋が通らず、不自然だ。しかも、鳩山氏は「基本的にノータッチ」と言っているのだから、秘書もプレッシャーを感じようがないではないか。

 だとすれば、勝場秘書が献金を偽装した動機は別にある。私はそう考えた。

 ■調査の方法への疑問

 もう一つの疑問は、秘書に偽装の動機を尋ねたのが

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