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改ざん(下) 謎の「最終更新者」 FD解析結果…「そこまでやるか」

 大手情報セキュリティー会社から今月19日、朝日新聞社に届いた「フロッピーディスク(FD)調査報告書」。そこに記された内容が、改ざん疑惑を解き明かす決め手となった。

  ▽この記事は2010年9月25日の朝日新聞に掲載されたものです。

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 ●不自然なASUS

 FDには、元厚生労働省係長の上村勉被告(41)=虚偽有印公文書作成・同行使罪で公判中=が、自称障害者団体向けに発行した偽の証明書が登録されていた。

 全15ページの報告書は、次のような文章を記していた。

 「文書ファイルの作成者 厚生労働省本省。最終更新者 “ASUS”」

 証明書の作成元は厚労省のパソコンだが、最終更新日の部分は使用者不明のパソコンで書き換えられていると指摘していた。最終更新日は、特捜部の捜査の構図に合うように、「2004年6月8日」となっていた。

 FDへの最終アクセス日は、「2009年7月13日」。その日は、大阪地検から上村被告側に証拠品のFDが返却される3日前で、事件の主任を務めた大阪地検特捜部検事の前田恒彦容疑者(43)=証拠隠滅容疑で逮捕=の手元にあった時期だった。

 「そこまでやるのか」。朝日新聞の調査に協力した上村被告の弁護人は声をあげた。

 ●疑惑「封印」二度

 大阪地検がFDの書き換え問題を自ら公表する機会はこれまで2回あった。1回目は、前田検事が同僚検事に「データを書き換えた」と打ち明け、同僚検事が上司に報告した今年1~2月。2回目は、上村被告の共犯の罪に問われた厚労省元局長の村木厚子氏(54)=無罪確定=の大阪地裁公判で、上村被告らの供述調書の大半を証拠採用しないことが決まった5月末だ。

 決定の2日後、最高検は大阪地検側にメールを送信。裁判の重要なポイントとなっていた証明書の最終更新日について質問していた。「特捜部長や主任検事はいつ把握したのか」「どのように事件の筋を組み立てたのか」。9項目の質問で厳しく問いただす内容だった。

 しかし、このときも疑惑は「封印」された。

 朝日新聞の記者が情報を入手したのは、村木氏の無罪判決が近づく今年7月だった。検察捜査の検証取材を続けるなかで、検察関係者が重い口を開いた。

 「客観証拠のFDに手が加えられていたという話が出ている」

 さらに取材を進めると、前田検事が最終更新日を改ざんした、という疑惑が浮かび上がってきた。FDは上村被告の弁護人のもとにあることもつかんだ。弁護人が朝日新聞記者とともに東京の情報セキュリティー会社を訪ね、解析依頼に立ち会ったのは今月15日。調査報告書は4日後に朝日新聞に届いた。

 ●取材と報道

 解析結果をもとに、その日のうちに検察側を取材した。前田検事は大阪地検の聞き取りに、「私用のパソコンにダウンロードしたソフトを使って被告がデータを改ざんしていないか確認しているときに、最終更新日を遊びでいじった。意図的ではない」と語った。しかし、朝日新聞がそのソフトを調べると、FDの更新日の書き換えはできるが、データ改ざんの有無を確認する機能は備わっていなかった。朝日新聞は21日以降、検事が押収資料を改ざんした疑いがあると報道した。

 最高検は21日に前田検事を逮捕した。データを書き換えた動機や、改ざん疑惑が検察内でどこまで把握されていたかの解明はこれからだ。

 村木氏の主任弁護人を務める弘中惇一郎弁護士は語る。「証拠物への認識がこれほど甘いならば、改ざんは他にもあるのではないか。独自捜査の特権を与えられてきた特捜部にゆがみが生じているのは明らか。組織的関与がないかも含め徹底捜査してほしい」