▽この記事は2010年10月2日の朝日新聞朝刊に掲載されたものです。
▽緊急連載:緊急連載・大阪地検特捜部証拠品書き換え事件
▽関連資料:前大阪地検特捜部長ら逮捕の被疑事実要旨
▽関連資料:最高検次長検事コメント全文
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記者会見は午後10時半、東京・霞が関の法務・検察が入る合同庁舎の地下1階の部屋で始まった。詰めかけた記者約50人を前に、検事総長に次ぐナンバー2の伊藤鉄男次長検事が疲れた表情で2人の逮捕を発表し、「幹部検察官の逮捕という事態に至ったことは、誠に遺憾であり、国民の皆様に深くおわび申し上げます」と一気に読み上げた。
2人の認否について、伊藤次長は「言えない」と明らかにせず、「普通の被疑者と同じ。彼らの人権があることを理解頂きたい」と話した。その後も「証拠隠滅の具体的な経緯は」「前田検事への具体的な指示内容は」などと記者からは矢継ぎ早に質問が飛んだが、「言えない」「答えられない」と繰り返した。
ただ、特別公務員職権乱用罪などの容疑にも広がらないか問われると、「検証の過程で別の嫌疑が出てくれば、当然ながら徹底的にやる」と語気を強めた。
会見には伊藤次長のほか、刑事部の池上政幸部長、八木宏幸検事も出席。退出時に軽く頭を下げた。
先月21日の会見では映像や写真の撮影を認めていたが、この日は一切認めなかった。理由については「逮捕後、速やかに発表することを優先した。前回は(逮捕から会見までの)時間があったので」と釈明した。
郵便不正事件で大阪地検特捜部が押収した証拠のフロッピーディスク(FD)を、当時の主任検事だった前田恒彦容疑者(43)が改ざんしたとされる捜査資料改ざん事件は、先月21日に朝日新聞の報道で発覚。前田検事は「遊んでいて、誤って書き換えてしまった」などと弁解していたが、最高検はその日のうちに証拠隠滅容疑で逮捕に踏み切った。
伊藤次長は、前田検事の逮捕時の会見では「徹底的に捜査し、厳正に対処する」と強調。改ざん事件の組織的な関与についても、最高検検事らによる検証チームで、厳しく調べると発表していた。
午後10時半に始まった記者会見は午後11時4分に終わった。
質疑の主なやりとりの概略は次の通り。
■大阪高検庁舎内で逮捕状執行
――会見にカメラを入れない理由は?
東京地検と記者クラブの約束事にあるように、逮捕後、速やかに発表するということで入れないことにした。前田検事の逮捕の時は、逮捕前から呼び込みをして、2時間以上かかっている。今日も実際は逮捕してから1時間以内。つまり、早くやるのが大事か、カメラを入れるのが大事か分からないが、また今後、地検と皆さんで話を。
――今回は犯人隠避だが、裁判を続行して村木さんを被告人席に縛り続けた。特別公務員職権乱用罪も検討するのか。
今は取り急ぎ、一つずつ証拠で分かった事実を進めている。検証の過程で別の嫌疑が出てくれば、当然ながら徹底的にやる。どういう犯罪ならやるやらないと想定しているわけではない。
――逮捕時間、場所は?
令状は大阪地裁で発布。執行時間は大坪被疑者が21時47分。佐賀被疑者は21時46分。執行場所は大阪高検庁舎内の取り調べ室内。
■捜査の内容はすべて「ノーコメント」
――犯人隠避の認否は? 物証少ないが客観的な裏付けはあるのか?
認否は言わない。ノーコメント。どういう証拠があるかについても、これから捜査を進める過程では言えない。刑事訴訟法の段階に入った。被疑者は我々の組織にいる者だが、秘密を守る義務がある。普通の被疑者と同じように、彼らの人権があることを理解頂きたい。
――「証拠隠滅罪を犯した者だと知りながら」とあるが、どういう経緯で知ったのか。
捜査の中身は言えない。
――2月上旬とはいつで、大坪、佐賀のどちらが電話したのか。
その種の質問は全部ノーコメント。
――「過失でいく」という指示の具体的な文言は。
処理の段階で。
――「上申書案の修正」とは、具体的にどの点をどう修正させたのか。
ノーコメント。
――被疑事実に、前田検事に過失によるものであるとして以後説明するよう「指示」とあるが、前田検事の意思ではないことを言えということか。
前田の意思は別にして、被疑事実としてはそういうふうに指示したことが犯罪。仮に前田がそう思っていても、犯罪になる。
――検事正、次席、高検幹部は、意図的改ざんをどの程度把握していたか。
これまでの捜査で「具体的に把握していた」とは把握していないが、その辺も十分捜査は進める。少なくとも今の段階でその人たちが認識していたとは把握していない。
――電話による指示は1回? 複数回? 上申書の最終的な提出先はだれ?
書いてあること以上のことは、捜査進める立場では言えないとしか言えない。通常の捜査と同じように申し上げられない。
――上申書案は、案ということは部長、副部長あてではないということ?
捜査を進めているが、文書のうえで、だれにあててというのは特定されていない。
――勾留場所は。弁護人はついているか、ついていたらだれか。認否を教えてもらえないということは、弁護人から確認するのが筋なので。
弁護人の選任権の告知は逮捕状執行の時にしているが、だれか選任したか否かは認識していないので答えられない。勾留場所は、勾留請求がまだなのであれだが、留置は大阪拘置所を予定している。
――肩書きが2人とも大阪高検検事になってるが、それぞれ京都地検次席、神戸地検特刑部長ではなかったか。
本日付、夜8時30分ごろ、両名とも大阪高検総務部付とした。これは処分ではなくて、重要な役職ということで、身柄になったので。早急に後任を探してやる。
――前田検事(の肩書き)は?
彼はヒラなので、そのまま。
■我々もプロの捜査官「身内だから厳しくやれる」との考え方も
――前田検事を逮捕して以降、捜査態勢は。
捜査態勢は拡充している。現在、私(池上刑事部長)以下、検事18人、事務官40数名で捜査。
――2人の調べ官は?
最高検検事の肩書き。執行したのは部長クラスだが、そのまま身柄の取り調べを継続するかは検討中。早晩、変更する可能性も大。
――20日後、立証できると? 起訴の確証は?
当然、立証できる認識のもとに逮捕している。
――前田容疑者個人だけでなく、組織ぐるみが明らかになりつつあり、上がどこまで知っていたのかが問題になる。最高検が捜査しているが、最高検自体が捜査対象になるかもしれないものを捜査しているということについて。
いろいろ疑われても仕方ないかもしれないが、最高検がFD改ざんの可能性を知ったのは9月20日夕刻。それまで