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国際的な市場規律の強化:海外当局との連携 [1]

 ■金融のグローバル化への対応

佐々木課長佐々木 清隆(ささき・きよたか)
金融庁検査局総務課長
 東京都出身。1983年、東大法学部卒業後、大蔵省(当時)に入省。金融監督庁(現金融庁)検査局、OECD(経済協力開発機構)、IMF(国際通貨基金)など海外勤務を経て、2005年に証券取引等監視委員会事務局特別調査課長、2007年同総務課長。2010年7月30日より現職。
 これまで金融・証券市場に関連する様々な当事者による市場規律についてご紹介してきたが、いずれも国内の当事者に関するものであった。今回は、海外の金融監督当局、証券市場の監視当局の役割についてご紹介したい。

 リーマン・ショックに代表される先般の金融危機が示している通り、金融のグローバル化が著しい。金融証券市場でのプレーヤーである金融機関・証券会社はもちろん、上場企業等の事業法人、ヘッジファンド等の投資家においてもグローバルな活動が当たり前になっている。さらに外国為替管理等の規制の緩和やインターネット等のIT技術の発展を背景に、個人投資家のレベルにおいても海外投資へのアクセスが容易になっており、例えばFX取引や新興市場国向けの証券投資がポピュラーになっている。

 このような金融取引のグローバル化に対応して、当局としても海外当局との連携をはじめグローバル化を進めている。その中には、バーゼル銀行監督委員会等の国際的なルール作りの上での共同作業もある。それらの対応ももちろん重要であるが、同時に金融監督・市場監視の執行面での国際的な連携・協調も不可欠である。中でもオフショア金融市場あるいはタックス・へイブンと言われる金融規制・監督の不十分な地域に設立された金融機関やSPC(特別目的会社)の悪用、海外の金融機関に開設された口座、特にプライベートバンク口座の悪用等の不公正取引が目立っている。それに加え、海外に所在するヘッジファンドによる投資やCDS(credit default swap)の取引に見られるとおり、投資家、金融機関・証券会社、証券取引所、SPC等のvehicle、 custody業務等の事務処理を行う会社等が多くの国・地域に分散し、金融証券取引の全貌を把握するためには、ひとつの当局では手に負えない事例が急増している。その観点からは、この連載のテーマである「市場規律」の強化の上でも、日本国内の関係者だけではなく、海外にも目を向ける必要がある。

 ■我が国金融機関の国際業務、海外拠点の監督・検査

 このような金融のグローバル化への対応として、まずは金融機関の監督・検査の上での海外当局との連携が重要である。我が国金融機関も、欧米に加えアジア地域への業務の拡大を積極化しており、海外拠点の開設、海外金融機関の買収等を進めている。金融庁検査局としても、進出先の海外監督当局との間で日本の金融機関の活動に関して密接に情報交換をしているほか、これら海外拠点のリスク管理態勢や内部管理態勢の実態把握のために、金融庁検査局から出張訪問している。筆者も日本の銀行の不良債権問題が深刻だった1998年から2001年にかけて金融庁検査局に勤務していた当時、1年に4~5回程度、ニューヨーク、ロンドン、香港、シンガポール等の日本の金融機関の支店等を訪問し、その結果を現地の米国、英国等の当局との間で共有するとともに、金融庁としての検査の計画の立案の中で活用した。現在ではこのような海外当局との連携がより日常化しており、情報交換の内容も海外拠点の個別取引、幹部等に関する詳細なものとなっている。

 ■外国金融機関の在日拠点の監督・検査

 このような海外当局との連携は日本の金融機関の海外拠点についてだけではなく、日本に進出している外国金融機関の在日拠点の監督・検査の上でも同様に行われている。これら外国金融機関の本店の所在する本国監督当局との間で緊密な情報交換が行われているだけでなく、本国が米国や欧州にある場合でも日本を含むアジア地域の統括本部が所在する香港やシンガポールの監督当局との間でも情報交換が行われている。

 特に外国金融機関の場合、本店幹部は日本の拠点での収益を重視するあまり、日本におけるリスク管理態勢や法令遵守がないがしろにされるケースも少なくない。また在日拠点の問題が本店による内部管理、リスク管理の問題と関連することもある。このような場合には、日本の当局としても、海外本店等の幹部、特にリスク管理やコンプライアンス、内部監査のグローバルな責任者が来日する際には、在日拠点に関する懸念を伝え改善を求めているほか、検査の期間中に本店幹部の来日を要請することもある。日本の金融庁としては、在日拠点の監督検査を行う立場であり、外国金融機関の本店の監督の責任を持つものではないが(これは本国当局の責任である)、在日拠点における問題を解決する上で、組織、人事、予算等に関して本店幹部の理解とサポートが不可欠であることから、このような対応をとっているところである。また、本国当局に対し当該外国金融機関の在日拠点に関する情報を提供することによって、本国当局から本店に対する監督を通じて、本店幹部による在日拠点の問題の改善に繋げることも行っている。

 ■Multilateral(多国間)での連携

 先般の金融危機を契機に、このような監督当局間の国際的な連携がさらに強化されており、特に、グローバルに活動する金融機関については、本店のある国の監督当局(本国監督当局)に加えて、それぞれの金融機関の活動が大きな影響を持つ複数の国・地域の監督当局から構成されるsupervisory college(監督当局同士の集まり)を通じた協調が進められている。金融庁が母国当局である日本の金融機関等についてのsupervisory collegeに加え、欧米等外国当局が母国当局であるグローバルな金融機関のsupervisory collegeについても、当該金融機関の在日拠点の業務の規模、日本市場の与える影響等を踏まえて、金融庁が参画している。このようなsupervisory collegeにおいては、それぞれの当局の監督・検査等を通じて得られた情報の共有が図られ、グローバル化し複雑化した金融機関の全貌を把握する観点からの協力が進められている。いわば、国際的な市場規律の強化が図られているわけである。

 次回のこの場では、今回ご紹介した監督検査の対象である金融機関以外の、グローバルな金融証券取引の投資家やその他の関係者の問題についてご紹介することとしたい。

 
 ▽文中、意見にわたる部分は筆者の個人的見解である。

 ▽市場の規律を求めて
 (1) 多様な担い手を結びつけるのも監視委の役割
 (2) 証券取引所など自主規制機関とともに
 (3) 証券市場に広がる弁護士の役割
 (4) 監査役監査や内部監査に課題 公認会計士監査は厳格化
 (5) 不動産鑑定評価が適正か注視 鑑定士の不正加担が増加
 (6) 証券不公正取引への税理士の関与が増加
 (7) 市場のプレーヤーとしての金融機関、その自己規律と金融検査
 (8) 金融検査で得られる情報や分析結果の複線的・レバレッジ活用
 (9) 株式公開買付け(TOB)関連のインサイダー取引が増加

 ▽証券取引等監視委員会のホームページ
 ▽金融庁のホームページ
 

 佐々木 清隆(ささき・きよたか)
 東京都出身。1983年、東大法学部卒業後、大蔵省(当時)に入省。金融監督庁(現金融庁)検査局、OECD(経済協力開発機構)、IMF(国際通貨基金)など海外勤務を経て、2005年に証券取引等監視委員会事務局特別調査課長、2007年同総務課長。2010年7月30日より金融庁検査局総務課長。