2010年10月13日
質疑を始める前に、伊藤次長は「異例の会見」であることを宣言した。
「質疑応答の前に、ひとこと言わしてもらいたい。検察庁では、公判立証の関係から答えを控えさせてもらってきたが、今回の事件では検察官の不祥事事案であり、国民から厳しい批判があるので、可能な範囲で詳しい説明をさせてもらいたい。今後の公判、現在の元特捜部部長らの捜査にも与える影響があるので、答える範囲には限界がある」
質疑は約80分間に及んだ。
前田元検事の逮捕は9月21日。すぐに故意の改ざんを認め、「大変申し訳ないことをした」と反省しているという。
質問は、前田元検事が改ざんの動機をどう語っているかに集中した。「フロッピーディスク(FD)データという不利な証拠があっても、当時は立証可能だと考えていた」「嫌な証拠だなということで改ざんした」「手元に置いておきたくなかった」「改ざんデータを積極的に有罪立証のために使う意図はなかった」……。最高検はそうした説明を繰り返した。
今年1月下旬には、FDデータの矛盾を村木氏の弁護側が指摘したが、検察側はその後も有罪を前提に裁判を続けた。そのことを問われた伊藤次長は「ギリギリの証拠だったが、有罪になる可能性があるということで訴訟を遂行した」と釈明した。
最高検の説明では、前田元検事は2004年ごろ、FDのデータを書き換える機能があるソフトを、初めて自分のパソコンに導入した。今回の改ざんに使った私用パソコンに、同じソフトを導入したのは08年5月ごろだったという。
「多様な目的で使えるソフトだ。日時を変えるために導入したのではない」と、同席した八木宏幸・最高検刑事部検事は強調。前田元検事が他の事件でもデータ改ざんをしたか否かについては、伊藤次長が「科学的に分かるものがあれば捜査する」と語った。
会見の終盤、郵便不正事件の捜査について伊藤次長は「村木さんの名前が書かれた公文書が、不正に郵便料金を免れるキーの役割を果たしたのは間違いなく、捜査は当然だった」と振り返った。
一方で、こう総括した。「ブツ(物証)を中心に捜査を進めていれば、こんなことにはならなかった。主任の前田がブツを軽視し、供述に寄りかかりすぎた」
前田元検事の裁判は、最高検の捜査チームに加わる東京の検事数人を大阪地検に異動させて担当させる方針だ。
主な質疑の概略は次の通り。
■FDあっても別の証拠で立証可能と判断
――懲戒処分について、公判請求前にしたのか。また、検察官で本日付でほかに処分を受けた人はいるか?
池上刑事部長:懲戒処分は法務大臣なので、こちらが答えることは適切ではないという前提でお答えするが、本日午前に前田(元検事)には懲戒処分の処分書の告知が行われた。理由は公訴事実と同様と聞いている。ただいまのところ、他の職員の懲戒処分は聞いてない
――事実関係だが、前田元検事がいつFDの改ざんを思いついたのか。高機能ソフトウェアとは何か。ソフトを入れたのはいつか。パソコンは本人のものか、機種は?
伊藤次長検事:今回の犯行を思い立ったのは村木(厚子)さん(元厚生労働省局長)の起訴後の(昨年)7月中旬ごろ。パソコンは私用のもの。ソフトウェアのインストールは、はるか前のこと。本件とは全く関係ない時期に個人のために入れた。パソコン機種は、ノート型パソコンで、ソフトウェアは管理ソフトでその名前は控える。FDドライブは外付けを使用している。
――犯行を思い立ったのは起訴後とのことだが、改ざんに到った動機について、なんと言っているのか。懲戒処分についてはなんと言っているか
本人は事実関係を認め、大変申し訳ないことをしたと反省している。動機については、FDの証拠があったとしても、当時立証可能と考えていたが、公判が紛糾することを出来るだけ避けたいと思ったと認められる。
――FD改ざんの時に、村木さんの無罪を認識していたのか
FDのデータという消極証拠があったとしても、関係証拠から立証可能と考えていた。
――前田(元検事)は私用パソコンを普段から使っていたのか。検察官のなかで、それは日頃から認められているのか
前田(元検事)は日頃から私用パソコンを使っていたのは間違いない。大阪地検の内規では、検察庁のパソコン以外のパソコンを使うことは禁止されている。
――前田被告(元検事)の動機だが、改ざんを行わないと起訴できない、有罪にできないという思いがあったから改ざんしたということではないのか。事件の関係者を有罪にできると確信していたということか。にもかかわらず、改ざんをしたならば、なぜ改ざんしたのか。
消極証拠であるという認識はあった。しかし、ほかの証拠で有罪を得ることができると考えていた。公判で紛糾することを出来るだけ避けたいということから犯行に及んだと、我々は証拠上認定している
■公判の紛糾を避けたいと改ざん
――最高検、高検、地検を含めて、有罪にできるとみていたということか?
いずれにしても、起訴する段階で副部長、部長、次席、高検、最高検がFDについて認識していたということはない。
――前田検事(当時)が私用パソコンを使っていたとうことだが、前田検事は応援で東京地検にも来ていたが、執務室に持ち込んでいたのか。ソフトをインストールしたのはいつか?
東京地検の時にどうしていたかはわからないので、必要なら調べる。インストールしたのは、本件犯行とは近接していない、ずいぶん前。今回のソフトをインストールしたのは2008年5月ごろと思われる。
――ほかの証拠で有罪を得られると考えていたということだが、FDが弁護側から証拠請求されたら無罪になるという認識はあったのか。
無罪かどうかわからないが公判が紛糾すると考えていた。さきほどから言っているように、立証可能と考えていた。
――FDが提出されても、無罪にはならないと思ってたんですか
我々の捜査ではそう認定している
――前田検事(当時)は事実を認め、申し訳ないといっているとのことだが、申し訳ないというのは村木さんに対してなのか、検察組織に対してなのか。
すべてに対して。
――大坪元部長(前大阪地検特捜部長)の勾留請求はいつしたのか?
すでに勾留請求して、10日延長の10月21日が満期。
――5月26日(昨年)にFDを押収して、27日にはプロパティに気づいていたはずだが、自分で抱え込んだまま村木さんの逮捕に踏み切ったことについて。
前田(元検事)より上の者がプロパティを認識していたとは認められないが、それ以上のことは差し控える。
――「6月上旬に村木さんが指示した」という見立てに合わせるように改ざんしたと前田元検事は言っているのか。
今の段階ではコメントできない。
――上村(勉・元厚労省係長)にFDを返却したのはなぜ?
公判の紛糾をできるだけ避けたいという意図で還付したと考えている。
■手元に置いておきたくないとFDを還付
――よくわからない。
その証拠を積極的に何かに使う意図はなく、手元に置いておきたくないと。証拠関係では、そう考えている。
――なぜ手元に置いておきたくないのか?
それ以上は証拠の中身になるので。
――次長としてではなく、上司としてうかがいたいが、前田検事(当時)はほかの証拠で有罪にできたとのことだが、作成日時が6月1日だっとわかっていても最高検は立証可能と決裁をしたのか。
きわめて仮定の話なので。検討する。
――公訴事実のなかで、パソコンと高機能ソフトウェア「等」、更新日時を改変する「など」とあるが、「など」の部分について。
手口の詳細は公判で。数字だけではなくて、変えたものがある。何を使ったかというと、外付けフロッピーディスクドライブという趣旨。
――公判で紛糾をさけたいとのことだが、上に決裁を上げるにあたって、まずいということはあったのか。6月1日のデータだとまずいということは?
それはないのではないか。起訴した後の話だから
――今年2月の段階で大坪(前大阪地検特捜部長)、佐賀(同前副部長)に対してはどのような報告をしていたのか?
現に捜査中の話なので、コメントできない。
――ほかの証拠というのは、供述調書も含めて?
もろもろの証拠ですね
――数字だけでなくて、ほかも変えたということだが。文書そのものを改変したということか?
詳細を言えないが、FD内にはいくつかの文書が入っていて、その文書の順番を変えた。文書自体はつくったり変えたりしてない。
■公判中に無罪と考えたことはない
――最高検の認識としても、もろもろの証拠から有罪になると認識だったということだったが・・・
私どもがFDがあることを知ったのは、たしか1月27日の報道だったと思う。それまでは、問題があることは最高検では誰も知らなかった。それがあっても、どういう立証ができるのかは大阪で考えられたのだろう。最終的には論告までいった。改ざんの話は(今年)9月20日に初めて知った。そのような客観的な事実関係。
最終的には論告したときがありますね。そのときは色んな証拠は却下されたりしたが論告している。あそこに書いてあるような証拠の構図になっているが、それでも有罪になる可能性があるということで訴訟を遂行したのではないだろうか。
――じゃあ、なぜ控訴しないのか
控訴審となると、ますます証拠制限が厳しくなる。それでもなおかつ控訴審で勝てるのかと言われれば、無理だろうと。断念する例はよくあるとはいわないが、いっぱいある。今こういうことがあってからは別。少なくとも、訴訟をやってるときは無罪と考えたことはない
――FDの問題があれば変わるんですか?
そんなこ
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