2010年12月01日
アメリカのドッド=フランク法の
日本の金融機関と企業への影響
西村あさひ法律事務所
弁護士・ニューヨーク州弁護士
東京大学大学院法学政治学研究科客員教授
松尾 直彦
リーマン・ショック(2008年9月15日)などを契機とする金融危機に対応して金融規制監督を大幅に強化するため、アメリカのオバマ大統領は、2010年7月21日に「ドッド=フランク ウォール・ストリート改革および消費者保護法」に署名し、いわゆるドッド=フランク法が成立した。
ドッド=フランク法は、1930年代の大恐慌時以来の金融改革立法であると指摘されることがある。確かに、ドッド=フランク法は、(1)システム上重要な金融機関の規制監督の強化、(2)システム上重要な金融機関の破綻処理法制の整備、(3)店頭デリバティブ規制の強化、(4)ヘッジファンドなどの私募ファンドの助言業者の規制強化、(5)上場会社の規律の強化など、包括的かつ大幅な改革を行う内容となっている。
■ドッド=フランク法の評価
しかしながら、ドッド=フランク法は、歴史的に積み重ねられてきたアメリカの金融システムと金融規制当局の制度を抜本的に変更するものではなく、1930年代の大恐慌時以来の大改革とはいえないと思われる。ドッド=フランク法のもとでも、連邦制国家であるアメリカ金融システムを基礎づけている伝統的な分権尊重の考え方が維持されている。
具体的には、次の金融システムと金融規制当局の制度が維持されている。
(1) 銀行業と商工業の分離
(2) 銀行本体における銀行・証券分離規制(グラス=スティーガル法16条と21条)
(3) 預金取扱金融機関における連邦免許制度と州免許制度の併存(二元銀行制度)
(4) 預金取扱金融機関における預金金融機関(銀行と貯蓄金融機関)と信用組合の区別
(5) 預金取扱金融機関における連邦規制当局の分立(財務省通貨監督庁(OCC)、連邦準備制度理事会(FRB)、連邦預金保険公社(FDIC)と全国信用組合管理機構(NCUA))
(6) 市場当局における証券取引委員会(SEC)と商品先物取引委員会(CFTC)の分立
(7) 連邦免許の保険会社制度と連邦保険規制当局の不在
以下では、ドッド=フランク法の日本の金融機関、アメリカ上場の日本企業および日本の金融規制への影響について、説明する。
■システム上重要な金融機関の範囲
ドッド=フランク法は、いわゆる「システム上重要な金融機関(SIFIs)」に対する規制監督を強化している。FRBは、2012年1月までにその実施のための最終規則の制定を義務づけられている。
システム上重要な金融機関は2類型からなる。第1の類型は、連結総資産500億ドル以上の銀行持株会社であり、これには全世界の連結総資産規模が500億ドル以上の外国ベースの銀行持株会社も含まれ得る。この類型のシステム上重要な金融機関は、すでに銀行持株会社として、FRBの規制監督下にある。
第2の類型は、新たにFRBの監督対象となるノンバンク金融会社(「FRB監督ノンバンク金融会社」)である。これはAIGなどが想定されているものであるが、外国ノンバンク金融会社も含まれている。新設された金融安定監督評議会(FSOC)がFRB監督対象ノンバンク金融会社を決定する。外国ノンバンク金融会社の決定にあたっては、アメリカ国内資産の
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