メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

経営倫理の教育・研修、自社に合った内容で

 企業の内部で経営倫理を本当に浸透させ、コンプライアンスを確立するためには、どのように社員を教育し、研修させていったらいいのだろうか。その取り組みを追った。

日本経営倫理士協会専務理事
千賀 瑛一

 ■重要な研修プログラム作成

日本経営倫理士協会・千賀瑛一専務理事千賀 瑛一(せんが・えいいち)
日本経営倫理士協会専務理事。東京都出身。1959年神奈川新聞入社。社会部、川崎支局長、論説委員、取締役(総務、労務、広報など担当)。1992年退社。1993年より東海大学(情報と世論、比較メディア論)、神奈川県立看護大学校(医療情報論)で講師。元神奈川労働審議会会長、神奈川労働局公共調達監視委員長、日本経営倫理学会常務理事、経営倫理実践研究センター上席研究員、「経営倫理フォーラム」編集長。日本記者クラブ会員。

 日本経営倫理士協会(ACBEE)が主催する「経営倫理士」取得講座(第14期)の12回目「経営倫理と教育・研修」が10月19日、東京都内で開かれた。協会主任フェロー研究員・村松邦子氏(前日本テキサス・インスツルメンツ企業倫理推進責任者)が講師を務め、テーマは「経営倫理の教育・研修」。経営倫理の基礎理論から実践ノウハウなど経営倫理士になるため幅広いジャンルにわたって勉強するこの講座もこのテーマでほぼ最終段階となる。資格取得後の経営倫理士の多くは、経営倫理、コンプライアンスの教育・研修を担当する。それぞれの組織内で職種、階層に応じて研修の企画から司会、講師などを受け持つことも多い。

村松邦子講師
 村松講師は、経営倫理教育の基本として、まず自分の会社に合った内容を企画、実施すべきことをあげた。またステータホルダーの企業に対する要求の多様化を背景に、CSR(企業の社会責任)、コンプライアンス、内部統制などへの対応についても十分に考える必要性があることを強調した。研修目的としては、法令・諸規則の順守・徹底をはじめ、倫理観の醸成、価値観の共有などをあげ、研修教育そのものの必要性についても理解させなければならないと話した。また学習方法については、全社員必修、階層別研修、リスク別研修などについて解説。さらに講義主体の座学型、ケース集中討議型、グループワーク型についても説明。内容と参加対象によって使い分けることをアドバイスした。

 村松氏は「コンプライアンス教育担当者は、基礎知識、幅広い実践ノウハウを身につけることが求められる。研修浸透の基本は、個人の気づきをいかに引き出すか、そしてそれをどう行動へ結びつけるかでしょう。さらに重要なことは、自分の所属する部署だけでなく、法務、人事、経営企画セクション等と一体になった方針を打ち出すこと。現在、資生堂、東京電力、関西電力、東京ガス等が教育、研修面でかなりのレベルにあると思うが、今後は各社とも総合的な教育体制を目指していく」と話している。

 ■BERCの新研究会に「教育・研修」

経営倫理実践研究センターで新たにスタートした「経営倫理の教育・研修研究会」
 一方、経営倫理実践研究センター(BERC、日本経営倫理士協会の連携組織、法人会員制、現在102社加盟)の今年度の新しい活動として「経営倫理の教育・研修研究会」が10月12日にスタートした。毎月1回。来年3月まで計6回、開かれる予定。担当はBERC主任研究員で関東学院大学教授の小山嚴也氏。経営倫理担当の講師力向上が目的。

 この研究会が取り組むのは、興味を持たれにくい経営倫理の教育・研修を効果的に行うために「何を」「どのように伝えたらよいのか」という課題だ。そのため「講師のレベルアップ」「研修体系・手法の見直し」「動機づけの模索」の3つの狙いを掲げている。第1回目は、講師力を高めるためのトレーニングとして「自己紹介を兼ねたミニスピーチ大会」が行われた。受講者全員が1人ずつ前に出て、2分間の持ち時間で自己紹介をする。1人終わるたびに、ほかの参加者は声の大小、スピードなどについて評価表に記入し、小山氏も講評した。このような実習をとり入れるため、受講者は20名に限定された。

小山嚴也講師
 全員のスピーチ終了後には、小山氏が「講師として意識すべきこと」を解説した。「声の大きさとスピード」と「メリハリ」。また「動き」もポイント。手を広げて動かしたり、視線が聴いている人全員に回るように顔を動かしたり、左右に動くことが大切、と話した。さらに「企業の教育・研修の場で、担当者の中には研修参加者に理解させるのが上手でない人もいる。一生懸命やっているわりには、対象者に伝わっていない。経営倫理という地味でなじみにくいテーマだけに、テクニックも重要。各社で研修体制の見直し、強化が進んでおり、担当者の役割、能力が問われている」という。

 ■注目される荏原製作所のリエゾン委員制

 専門講師による研修担当者への教育に加えて、企業では経営倫理の組織内浸透状況に注目している。企業倫理室やコンプライアンス部など組織の強化と同時に、全社的な意識浸透に取り組んでいる。荏原製作所(本社東京、従業員2662人)では企業倫理活動の中でコンプライアンス・リエゾン(連結)委員制を設けている。各社とも営業や生産等の現場における倫理浸透に努力しているが、現職場責任者やラインのグループ・リーダーといった職場の上司に担当させているケースが多い。荏原製作所のリエゾン委員制は、さらに踏み込んで、職場でのコンプライアンス推進役と明確に位置づけ、システム化している。同制度は2007年に発足、コンプライアンス室を事務局に、本社はじめ全国に現在、42名いる。目的と役割はコンプライアンス意識の職場への浸透、職場のリスクの拾い上げ、身近な相談窓口だ。同社の企業倫理委員会(委員長・社長)に直結している。リエゾン委員らは年2回の研修会参加、年4回事務局へ定期報告書を提出する。委員の中には技術系専門職の社員で、今までコンプライアンス担当を全く経験していない人もいる。同社では現在、リエゾン委員就任社員に「経営倫理士」取得講座に参加させ、即戦力となるようにしている。

 荏原製作所では、職場への浸透状況を把握するため「コンプライアンス・アンケート」を2004年度から毎年1回実施している。第2回以降は国内全グループ会社を対象とし、アンケート集計結果を社内で公表している。内容に関連して社長メッセージも発信している。アンケート回答率は当初は22%(05年)だったが、最近は52%(08年)、48%(09年)と5割前後となっている。「会社はコンプライアンス実践に熱心に取り組んでいると思いますか」という設問では、「思う」「概ねそう思う」という回答を合わせると、51%(05年度)が77%(09年度)に上昇している。これに対し「あまりそう思わない」「そう思わない」は46%(05年度)から21%(09年度)となっている。これら意識調査アンケートは、浸透度把握そのものに有効だが、さらに社員のコンプライアンス意識の増幅、深化にも役立っている面がある。

 ■従来以上に積極的

 「経営倫理の浸透、コンプライアンスの周知徹底に近道はない」という専門家もいる。一方で、シンクタンク等の教育機関では「コーチングセミナー」や「スキルアップ講座」が開かれるなどノウハウ開発は活発だ。企業の取り組みは従来以上に積極さもみられるが、今後の動きに注目したい。

 

 〈経営倫理士とは〉
 NPO法人日本経営倫理士協会が主催する資格講座(年間コース)を受講し、所定の試験、論文審査、面接を経ると、経営倫理士の資格を取得することができる。現在、経営倫理士協会で受講受け付け中。
 企業不祥事から会社を守るスペシャリストを目指し、経営倫理、コンプライアンス、CSRなど基礎理論から実践研究など幅広く、専門的知識を身につける。これまでの14期(14年間)で、415人の経営倫理士が誕生、企業で活躍している。2011年は発足15年にあたるため、特別シンポジウムなどの記念行事が予定されている。
 受講スケジュール:2011年5月10日から12月6日まで全13回開講。時間はいずれも午後2時から午後4時半まで。
 会場:青山ダイヤモンドビル9F(JR渋谷駅から徒歩8分)
 内容:経営倫理、CSR、コンプライアンス等について専門講師から13講座19テーマを学ぶ。
 資格取得:期間中2回の論文提出、全講座修了後の筆記テスト、面接試験を受け合格した受講者に経営倫理士資格を授与。
 受講料:18万円(消費税別、全講座1名分、資料代込み)
 問い合わせは、03-5212-4133へ。E-Mailはkeieirinrikyo@cz.blush.jp 

 千賀 瑛一(せんが・えいいち)
 東京都

・・・ログインして読む
(残り:約247文字/本文:約3545文字)