《新刊書評》 日銀エリートの「挫折と転落」
2010年12月06日
地味な風貌で目立たず物静かなのに、政治や社会の話題になると、強固に自分の意見を述べるタイプの男子学生が、昔の高校や大学のクラスには必ずいた。
木村剛が、「ルール違反をした銀行は退場せよ」と主張し、世に出たころ、日銀出身の地味でまじめそうな男が、ずいぶんはっきりした正論を吐くなあと驚いたものだ。
その木村剛が、政権お墨付きのコンサルから、新設の日本振興銀行の実質オーナーとなり、今年6月、銀行法違反(検査妨害)の容疑で逮捕され、同行は経営破綻し、国内初のペイオフが発動された。
ミイラ取りがミイラになったわけではないだろうが、出発点と着地点のあまりのギャップをどう理解したらよいのだろうか。
木村剛は、人間が変わってしまったのか、そもそもどういう人物なのか。本書は、事実の積み重ねと公表数字をもとに、こうした疑問を解き明かしていく。
著者は、アングラ経済にまで取材力を持つ経済ジャーナリスト。本書で明らかにされるのは、木村剛というフィルターを通して見た、この10年の日本経済の実像でもある。
それは竹中平蔵を中心とした一連の「改革」の負の側面であり、混迷する金融業界にとどまらず、ホリエモン(堀江貴文)に代表されるITベンチャー、M&A企業のブレーキなき強欲ぶりに他ならない。
木村とSFCG大島健伸の欲得に基づく連携とだまし合い、債権二重譲渡問題のくだりは、醜悪さを通り越して、華麗なマジックを見るようでさえあった。
木村の「正論」に退場させられた大手銀行の怨嗟、新しい銀行モデルを木村に企画提案した創業者の追放劇、ノンバンク債権の買い取り、迂回融資、金融庁の検査妨害へと突き進んだ木村剛は、どこで、何を間違えたのか。
銀行関係者、経営者、企業に勤める者であれば、他山の石とすべき点も多い書籍である。(木村の元側近など周囲の肉声取材がもう少しあれば、さらによかったと思う。)
木村逮捕後の本年7月31日、創業時以来、社外取締役を務めてきた赤坂俊哉弁護士が、自宅で首吊り自殺した。51歳。
若き日の好漢ぶりを知る者として、冥福と鎮魂を祈りたい。
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▽評者記事: 連載・滝沢隆一郎
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