2010年12月21日
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2009年9月、有権者の手による政権交代が史上初めて実現した。
8月下旬の総選挙で鳩山政権の誕生が確実となり、政権交代を祝う国民の機運は絶頂に達した。鳩山政権発足時の支持率は70%。細川政権に次ぐ高い支持率で、私が政権発足前に発掘した政治資金のスキャンダルは「これで吹き飛んだな」と思った。投票日前の各紙は、東京地検特捜部が総選挙後に鳩山偽装献金問題の捜査に着手すると報じていたが、私に伝わってくる感触は、「地検は捜査に消極的」というもので、「告発を受けたのでとりあえず」といった雰囲気が拭えなかった。
捜査の早期収束は最初から感じられた。「秘書すら起訴にするかどうかわからないレベルだそうだ」。法務省にルートを持つある知人は言った。
私のところに伝わってくる情報は捜査着手前から、「東京地検が現職総理を摘発できるわけがない」といった常識的な観測に沿ったものばかりだった。別の情報筋は次のような情報を伝えてきた。「○○氏が鳩山を守るために検事総長と手を打った」
ちょうどお盆を迎えた8月中旬頃にはもう少し具体的な話も出回るようになった。「秘書を在宅で起訴するだけで、民主党政権の総理になる鳩山氏と検察の利害が一致した」。裏を取ったわけではないが、政権発足前から、捜査の展望が聞こえてくるというのは、東京地検がある程度の地ならしをしようとしていた可能性がある。
当時、検察にとって、政権獲得前に民主党が掲げた「取り調べ可視化法案」、そして「小沢一郎」は目前にそびえる壁だった。政治主導を掲げる民主党の実力者、小沢氏が政権を握れば、人事などで裏で検察に揺さぶりをかけてくるのは目に見えていた。そうした中で「最高権力者のスキャンダル」となる鳩山偽装献金問題は、予想外の事件の一方で、検察が民主党と取引できるカードの一つだったのかもしれない。
■十全ビルの家賃
鳩山献金の初報から間もなく総選挙の公示を迎えたこともあり、思う存分続報が書けたとはいえなかった。たまっていたウップンをはらすため、「夏の終わりにもう一発ぶちかましたい」と私は思っていた。
ネタが一つあった。永田町に構える鳩山事務所の家賃に関する疑惑だった。
ある鳩山家の関係者が、鳩山氏の秘書・勝場から次のような話を聞いたというのだ。
「永田町にある鳩山事務所の家賃は、鳩山個人が払っているので(政治資金収支報告書に)報告していない」
「永田町の鳩山事務所」とは実は2カ所ある。1カ所は、国会の向かいにあり、国会議員全員に用意されている議員会館と呼ばれる事務所だ。もう1カ所は、議員会館から300メートルくらい歩いたところにある民間のビルの一室にある。十全ビルと呼ばれるこのビルは、TBR、パレロワイヤルと並び、いまは少なくなった大物と言われる政治家の事務所が多く入居していたビルだ。そこの601、602の2部屋を借りていたのだ。
勝場秘書の話のうち、「鳩山個人で借りていて収支報告していない」という部分がカギだ。鳩山氏は、この2室を政治活動に使っている。家賃は一部屋あたり約60万円、2部屋で120万円。鳩山グループと言われる民主党の同僚たちとの会合の場所だ。そして、もう一室は、まさに事務所の経理を一手に引き受ける勝場秘書が働いている一室である。
この2室は明らかに鳩山氏の政治活動のために、使用されている。しかし、その経費を報告していないということは、政治資金の収支を透明化するという流れに明らかに反する。目くじらを立てて……というほどのことではないが、鳩山氏のように、政治活動を通じ、政治資金の透明化を訴えてきた政治家ほど、自らが不透明であったことが、より大きな矛盾となって世間に伝わる。
9月1日から私は「特別報道チーム」から文化グループに異動することになっていた その前に取材を終えてしまいたかった。
■芳賀秘書に直撃取材
総選挙を控えた8月の終わり頃、永田町の議員会館で「なかなか会えない」と言われた鳩山氏の芳賀大輔・政策秘書に話を聞くことができた。その日、鳩山氏の議員会館事務所を訪れると、部屋の外側のドア横にあるランプは消えていた。部屋に滞在者はいないという印なのだが、ドアのノブを捻ってみると、カギはかかっていなかった。
「すんませ~ん」と中に声をかけてみると、そこに現れたのが芳賀大輔秘書だった。「はい、なんでしょう?」
私と同僚が名刺を差し出すと、途端に困惑した表情を見せた。
鳩山献金問題の発覚以降、鳩山氏の秘書はほとんど表に出てこなかった。雲隠れしてしまったのである。それから2カ月。夏休みにたまたま議員会館で作業しているところへ記者が訪ねてくるとは思っていなかったのだろう。
それなのに、なぜ、芳賀秘書があっさり認めたのかといえば、一つは法的解釈の中に、政治家による個人の政治活動という領域を認める考え方があるためだ。これは、現行の政治資金規正法が、政治団体の収支報告をもとめ、政治家個人の収支を公開する趣旨ではないこととも関係してくる。個人の収支を公開しないのだから、個人の政治活動の収支も公開していないことになる。
■不透明さ、改めて浮き彫りに
しかし、これを認め、政治家個人の政治活動ならば収支報告しなくていいということになってしまうと、表に出したくないものは何でもこの理屈で通ってしまう。極端にいえば、ゼネコンからの裏金も、「政治家個人の政治活動の中で得た収入」と片づけ、報告しなくてもよくなってしまうのではないか。少なくとも、政治資金の透明化に向けて、より進化してきたはずの政治資金規正法の根底にある考え方とは相反する。だから、政治活動の経費は、議員の資金管理団体など政治団体の収支報告書で公開することが当然、求められる。
だから鳩山氏の個人事務所の収支も、この理屈に沿って公開することが当然だが、鳩山氏関連の政治団体の「事務所費」を見ると、例年、数百万円程度しかなく、1200万円の費用を計上した記載はどこにもない。
それは、芳賀秘書が言う「個人事務所だから(計上しなくてよい)」に帰結する。しかし、実は鳩山氏側がこの経費を収支報告書に記載できない理由は、別に存在する。それは前述した「鳩山氏個人が事務所を借りている」という証言と、政治家本人は、自らの資金管理団体に1000万円を上
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