メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

「俺の手は真っ黒だ」と言って特捜検事は辞めた 検察・灰色の土壌

村山 治

 大阪地検特捜部の主任検事が、村木厚子元厚労省局長の虚偽有印公文書作成・行使事件(無罪確定)の捜査中に押収証拠を改ざんし、それを上司の特捜部長と副部長が隠蔽したとされる証拠隠滅・犯人隠避容疑事件。検事総長の引責辞任にまで発展した事件の背景には、走り出したら止まらない検察文化や、裁判所も深く関係した日本独特の捜査手法・捜査構造がある。それらをどう改善するのか。12月24日にも公表される最高検の検証結果と再発防止策に合わせ、「事件記者の目」で同事件を検証する。

  ▽筆者:村山治

  ▽関連記事: 検察史上最悪の不祥事 厚労省虚偽公文書事件の経緯

 

村山 治(むらやま・おさむ)村山 治(むらやま・おさむ)
 朝日新聞編集委員。徳島県出身。1973年早稲田大学政経学部卒業後、毎日新聞社入社。大阪、東京社会部を経て91年、朝日新聞社入社。金丸脱税事件(93年)、ゼネコン事件(93,94年)、大蔵汚職事件(98年)、日本歯科医師連盟の政治献金事件(2004年)などバブル崩壊以降の政界事件、大型経済事件の報道にかかわった。著書に「特捜検察vs.金融権力」(朝日新聞社)、「市場検察」(文藝春秋)、共著「ルポ内部告発」(朝日新書)。

 ■元主任検事の容疑

 最高検は10月11日、前田恒彦・元大阪地検特捜部主任検事を証拠隠滅の罪で大阪地裁に起訴した(最高検は管轄の関係で大阪地検に事件を移送。起訴検事は大阪地検の検事)。

 起訴状や最高検の説明によると、前田元検事は、2009年7月4日に村木さんを起訴したあとの7月13日、大阪地検で自分のパソコンにインストールしていたファイル管理ソフトを使い、郵便不正事件で逮捕した厚生労働省障害保険福祉部企画課元係長の上村勉被告=公判中=宅から押収したフロッピーディスク(FD)内の虚偽の証明書の文書ファイルの更新時間を「2004年6月1日、1:20:06」から「04年6月8日、21:10:56」へと変えるなどし、村木さんの刑事事件の証拠を変造した、とされる。

 この虚偽の証明書は、上村係長が実態のない障害者団体宛に作成したもので、同団体が郵便割引制度を悪用して05年以降、約80億円の料金の支払いを免れる小道具として使われたとされる。元検事は改ざん3日後に、FDを元係長側に郵便で返却していた。

 元検事は最高検に対し、「そのままFDを返却すれば、検察に不利な証拠だと気付かれる可能性があったため、改ざんした。公判が紛糾することを避けたかった」「改ざんしたFDデータを手元に置いておきたくなかった」などと供述しているという。

 これらの供述から、最高検は、前田元検事の改ざん動機を、村木さんが企画課長だった04年6月初め、同団体代表から要求され、障害者団体との実態がないと知りながら、部下の上村勉元係長に5月28日付の虚偽の証明書を作らせ、同団体幹部が6月10日、割引適用を受けるため郵便窓口に提出した、とする検察側の起訴の筋立てに合わせるためだった、としている。

 ■FD改ざんは「できごころ」か

 最高検は「前田元検事がFDの還付作業中に、FDのデータの改ざんを思いついた。相手側に返したときに気づかれるといやだな、ということで念のために変えておこうとした。それを積極的に立証に使おうという意思はなかった」と説明。押収資料の返却手続

・・・ログインして読む
(残り:約11671文字/本文:約12831文字)