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形骸化する「内部統制報告制度」、信頼確保へ金融庁が見直し

加藤 裕則

 金融庁は12月22日、企業会計審議会の内部統制部会がとりまとめた内部統制報告制度の改訂案を公表した。パブリックコメントの募集を2011年1月25日まで受け付けている。証券市場の信頼回復を目的に08年4月、鳴り物入りで始まった制度だが、日本の企業社会に浸透したとは言い切れず、市場の反応も冷たい。金融庁はこの制度を生かすため再挑戦する構えだ。

  ▽筆者:加藤裕則

  ▽この記事は2010年12月9日の朝日新聞朝刊に掲載された原稿に加筆したものです。

 

 改訂案で注目されるのは、「重要な欠陥」という用語を廃止し、「開示すべき重要な不備」と変えることだ。「重要な欠陥」という言葉については、企業側から「欠陥企業と思われる」「きつい。例えそうだとしても出しづらい」との声が寄せられていた。

 実際、「重要な欠陥」と自己評価する企業の割合が少なく、関係者の間には不信感が高まっていた。金融庁によると、開示の初年度にあたる09年6月~10年5月の間、「重要な欠陥」と開示したのは報告書を提出した3785社のうち92社で、わずか2.4%。10年3月期以降の決算にあたる11年6~9月の発表分でみると、2843社のうち24社でわずか0.8%だった。約4年先行して制度を導入した米国では初年度16.9%と高く、その後は下がってはいるが、それでも10%前後だ。

 日本公認会計士協会の幹部は「新興市場にはきちんとした決算書を作れない企業もある。こんな低い数値とは考えられず、まともな開示をしていない。だから証券市場もマスコミもこの制度への関心は薄く、信用もされていない」と語った。

 「少ない」という問題は、内部統制部会でも取り上げられた。10月28日夕、予定していた項目の審議を終えて一息ついた時、青山学院大学大学院の町田祥弘教授が手を挙げ、発言を求めた。

 「制度として何が実施したいのか、健全な資本市場や投資家保護の観点から、我々は何を企業に望むのかということが大事。そのうえで譲れない一線というものがある」と前置きして話し始めた。

 一例として挙げたのは、「内部統制は有効」から「重要な欠陥がある」に変えた内部統制報告書の訂正についてだった。「どうして訂正報告が出たのか。原因の追及をしなければいけない。つまり、いい加減な報告をしておいて、何か問題が出たらそのときに訂正報告すればよい、ということでいいのか。それが認められるのか」と制度が形骸化している可能性を示唆した。

 そして、「開示したくなるような制度を考えるべきだ。あるいは開示すれば何らかの免責的な措置がとられることも必要」と指摘。「『重要な欠陥』の開示企業はやはり少ない。本当にちゃんと評価しているのか。『重要な欠陥』は、決して欠陥企業ではなく、逆にちゃんと管理しているから大丈夫なんだということが広く認識されなくては」と続けると、他の委員も真剣な表情で聴き入っていた。

 これを受け、金融庁の担当課長は「非常に大きな問いかけだと思うので、受けとめてまた研究させていただければと思う」と答えるのがやっとだった。

 町田教授が言うように、「内部統制は有効」といったん公表しながら、会計不祥事が発覚した後で「重要な欠陥がある」と訂正する事例は相次いでいる。評価への信頼が揺らぎ、「制度が機能していない」との批判も膨らんでいる。

 朝日新聞の調べでは、「有効」と発表してから「重要な欠陥」に訂正した企業はこれまでに少なくとも17社。うち4社は2年分を訂正した。多くは、架空取引や売上高の前倒し計上などの不正が表面化し、有価証券報告書の訂正と同時に評価を覆している。

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