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企業倫理ヘルプライン、効果あるのか 各社の取り組み

 公益通報者保護法が2006年に施行され、また、パワーハラスメント対応が深刻化していることもあって、企業の倫理ヘルプラインへの取り組みが注目されている。どうしたらヘルプラインの信頼を高め、有効に機能するのか――。今回は、このテーマに先進的に取り組んでいる資生堂、東京ガス、大和ハウス工業3社の活動を取材した。

日本経営倫理士協会専務理事
千賀 瑛一

 ■基本は「何でも相談」受け付け

日本経営倫理士協会・千賀瑛一専務理事千賀 瑛一(せんが・えいいち)
日本経営倫理士協会専務理事。東京都出身。1959年神奈川新聞入社。社会部、川崎支局長、論説委員、取締役(総務、労務、広報など担当)。1992年退社。1993年より東海大学(情報と世論、比較メディア論)、神奈川県立看護大学校(医療情報論)で講師。元神奈川労働審議会会長、神奈川労働局公共調達監視委員長、日本経営倫理学会常務理事、経営倫理実践研究センター上席研究員、「経営倫理フォーラム」編集長。日本記者クラブ会員。

 資生堂(従業員、約40,800人)は、2000年に「資生堂相談ルーム」を開設した。法令違反、資生堂コード違反、就業規則違反などの不正行為に関する通報・相談を受け付けている。これに加えて2002年には「資生堂社外相談窓口」を設けた。

 相談件数は2002年に102件(このうち社外相談窓口は3件)、2007年度は176件(同18件)、2008年度は180件(同26件)、2009年度は197件(同26件)と推移している。受け付けは、メールと電話がほぼ半数ずつだという。

 「相談ルーム」の窓口の基本姿勢は「何でも相談」。仕事上疑問を感じたこと、職場の中であったことや悩んでいることについて、“何でも対応する”と従業員に呼びかけている。

 ■ BERCのヘルプライン実務者研究分科会

 資生堂総務部法務室でヘルプラインを担当している北村充孝さんらの提案で、経営倫理実践研究センター(BERC、一般社団法人、加盟102社)の活動の一つとして、2008年4月、「ヘルプライン実務者研究分科会」がスタートした。月1回の頻度が開かれてきており、3年目になる。参加者は約40人。3つのグループに分かれ、各社がかかえる課題を取り上げている。

資生堂の北村充孝さん
 北村さんは第一グループの幹事を務め、BERCが開くセミナーなどでヘルプラインをテーマとする講師も受け持つ。ヘルプラインの基本的な考え方として、北村さんは、コンプライアンス体制の一環として位置づけることと、通報を歓迎する姿勢を社内でPRすることを重要視している。また、コーポレートガバナンス(企業統治)との関係も大切で、社員の不平や不満だけをキャッチするための手段ではなく、経営者のチェック&バランスを機能させるものである、と強調する。

 「99年末、相談ルームの開設準備段階から、この仕事を担当してきた。ヘルプラインは、どこまで機能しているかが問題。さらに継続と信頼が大切。弁護士の法律相談とは違う、ハードルの低い、利用しやすい仕事を目指している」と北村さんは話す。

 ■ 東京ガス・ライフバル(関連業者)各社に相談窓口

 東京ガス(従業員、約30,000人)のヘルプラインは「コンプライアンス相談窓口」として2003年3月にスタートした。担当はコンプライアンス推進室。コンプライアンスに関わる通報、相談を受け付け、問題を早期に発見・解決し、企業としての自浄作用がより有効に機能することを目的としている。

 注目されるのは、2010年10月、東京ガス・ライフバル(主に現場での業務を担当する東京ガス関連業者)全社に独自相談窓口を設置したことだ。対象は45社、9000人。現場工事等を受け持つ中小企業で、経営幹部が窓口となるが、東京ガスの本社窓口でも受け付ける。東京ガスグループとして、法令、社内規則、行動基準に関して、職制や担当部門長に相談できない場合の通報・相談窓口としている。窓口への相談を理由として不利益を被らないよう配慮している。

 コンプライアンス相談窓口での受け付けは2007年度が63件、2008年度が66件、2009年度は52件となっている。内訳は法令・社内規則40%、職場の問題30%、雇用10%などとなっている。相談終了の1年後には、相談者に対して不利益な取り扱いがないかを確認している。

 コンプライアンス相談窓口とは別に職場コミュニケーション専用相談(人権問題等を主に担当)があり、こちらも年間60件程度の受け付けがある。

 コンプライアンス推進室長・北野寿之さんは「相談窓口の信頼性を重視している。一度でも利用したことがある人や、この制度に関心を持ち情報を入手している人からの評価は、高くなってきていると思う」と話している。

 ■"傾聴"の姿勢を大事に

 大和ハウス工業(従業員、約13,800人)の「企業倫理ヘルプライン」は2004年9月、企業倫理綱領制定時に設置されている。担当はCSR推進室。匿名でも受け付けている。件数は231件(07年度)、117件(08年度)、126件(09年度)。09年度の相談内容をみてみると、パワーハラスメントが27%ともっとも多く、職場環境・人間関係24%、労務問題17%と続いている。

 相談・通報があったときには、CSR推進室が調査ヒアリングを実施するか、関係部署に調査を依頼する。関係部署とともに、事実確認・是正措置を行い、本人にフォードバックする。同室の担当役員は副社長。経営リスクの芽に早期に対応できることを期待して、経営陣の関心も高い。

 同室が発行しているCSRニュース(月刊)で、相談者や内容を特定できない範囲で事例を紹介している。CSR推進室でヘルプラインを担当している池田圭吾さんは「私は営業出身ですが、人と接することの難しさを改めて感じています。通報の場合は、結論を明確に出せるが、相談には、ともかく“傾聴する”という姿勢で対応している。誰でもが利用できるようなヘルプラインを心懸けている」と話している。

 ■社内への情報開示

 最近の企業のCSRレポートをみると、各社ともヘルプラインについての情報開示は慎重だ。相談内容がセンシティブで、具体的ケースは開示できない。そんななかでも、全体的な傾向や特色などを社内告知し、ヘルプラインの信頼と有効な活用を心がける動きもある。

 

 ◆ シンポジウム「企業不正と社会責任」
 NPO法人 日本経営倫理士協会(ACBEE)創立15周年を記念して、「企業不正と社会責任 ―― 経営リスクのビフォー&アフター」と題したシンポジウムが2011年3月1日午後に開かれる。現在、参加受け付け中。
 企業の不正事件・不祥事が跡を絶たず、いま企業倫理、コンプライアンスの強化が強く求められている。不正事件の発生原因とCSR(企業の社会責任)のあり方を探りつつ、不正発生の防止と事後対応を考える。
 ◎ 開催日時  2011年3月1日(火)13:00~16:40
 ◎ 会  場  こどもの城 9階(東京・渋谷)
 ◎ 参 加 費  一般:10,000円 経営倫理士:8,000円 ACBEE会員:5,000円
 ◎ 定  員  200人(定員になり次第締め切り)
 ◎ 基調講演とパネリスト
 ・基調講演
 若狭  勝(弁護士、前東京地検公安部長、元東京地検特捜部副部長、ACBEE講師)
 ・パネルディスカッション
 司会
 若狭  勝
 パネリスト
 池田 耕一(立教大学大学院ビジネスデザイン研究科教授、元パナソニック企業倫理室長、ACBEE講師)
 三浦 佳子(消費生活コンサルタント、ACBEE講師)
 森  一夫(日本経済新聞 特別編集委員)
 ◎ 申し込み  日本経営倫理士協会 事務局 03-5212-4133

 〈経営倫理士とは〉
 NPO法人日本経営倫理士協会が主催する資格講座(年間コース)を受講し、所定の試験、論文審査、面接を経ると、経営倫理士の資格を取得することができる。現在、経営倫理士協会で受講受け付け中。
 企業不祥事から会社を守るスペシャリストを目指し、経営倫理、コンプライアンス、CSRなど基礎理論から実践研究など幅広く、専門的知識を身につける。これまでの14期(14年間)で、415人の経営倫理士が誕生、企業で活躍している。2011年は発足15年にあたるため、特別シンポジウムなどの記念行事が予定されている。
 受講スケジュール:2011年5月10日から12月6日まで全13回開講。時間はいずれも午後2時から午後4時半まで。
 会場:青山ダイヤモンドビル9F(JR渋谷駅から徒歩8分)
 内容:経営倫理、CSR、コンプライアンス等について専門講師から13講座19テーマを学ぶ。
 資格取得:期間中2回の論文提出、全講座修了後の筆記テスト、面接試験を受け合格した受講者に経営倫理士資格を授与。
 受講料:18万円(消費税別、全講座1名分、資料代込み)
 問い合わせは、03-5212-4133へ。E-Mailはkeieirinrikyo@cz.blush.jp 

 千賀 瑛一(せんが・えいいち)
 東京都

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