2011年01月11日
▽筆者:奥山俊宏
▽敬称は略します。
▽この記事は岩波書店の月刊誌『世界』2011年1月号に掲載された原稿に加筆したものです。
「日本政界へのカネ」は暴露されたが、そこには、政治家や公務員の名前は一切なかった。ロッキードのカネを受け取った政治家は一体だれなのか? それが世の中の関心の焦点となった。
米上院の多国籍企業小委員会は2月6日、ロッキードの副会長アーチボルト・コーチャンを尋問し、「200万ドルは丸紅を経由して日本政府当局者(複数)に届いた」と証言させた。しかし、肝心の日本政府当局者の名前はそこでも伏せられた。大物フィクサーとして知る人には知られていた児玉や小佐野賢治の名前が出ても、公務員の名前は出ない。多国籍企業小委員会は、ロッキードや国務省の意向に従い、人権に配慮して、個別の公務員名を表に出さないのを方針としていたからだ。
収まらないのは日本国内だった。疑惑を突きつけられながら、その核心については、はぐらかされた、蛇の生殺しにも似た状況だった。児玉は中曽根の、小佐野は田中の、それぞれの知人として知られていたから、疑いのまなざしはそれら政治家に向けられた。しかし、裏付けはない。
答えを求めて記者や与野党の政治家がワシントンに向けて次々と旅だった。米国の駐日大使館の分析によれば注6、野党の議員らは自民党にダメージを与える情報を求め、自民党の議員らはワシントンにある情報の程度を測ろうとした。日本政府からも、東京・霞が関の外務省キャリア官僚の中ではナンバー2の地位にある外務審議官・有田圭輔が訪米することになった。
2月7日、土曜日、国務省は、前日にあった多国籍企業小委員会の公聴会の内容の要旨を伝える公電を東京の駐日大使館に送り、その公電の中で、次のような見方を示した注7。
「小委員会は、外国政府公務員の名前を公聴会の場には出さないという基本原則を維持しているが、ヨーロッパの政治家の名前はすでにリークされ始めている。日本の記者や政治家が議会に激しい取材攻勢をかけており、ロッキードの日本での活動に関するさらなる詳細が表に出るのは間違いない」 (次回につづく)
▽連載「秘密解除・ロッキード事件」目次
(1) ホワイトハウスに届いたメッセージ「MOMIKESU」
(2) 米上院の暴露が朝刊に突っ込まれる
(3) 発覚翌日、米国務省日本部長と中曽根幹事長が接触
(4) カネを受け取った高官はだれ? 公務員の名前は暴露されず
注6: 09 FEB 1976, 1976TOKYO01966, “JAPANESE POLITICAL VISITORS TO
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