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内部告発への不適正な対応で厚労省職員処分、その理由と背景

奥山 俊宏

 厚生労働省の監督下にある自治労共済の事業運営に不正があると指摘する内部告発(公益通報)が同省に寄せられたのに、同省が、1年4カ月にわたってこれを放置し、違法行為の是正が遅れていた問題で、同省は「公益通報者保護法の適用が不適正だった」として職員2人を文書で厳重注意したことを明らかにした。その上司2人についても、「公益通報者保護法の周知が不十分だった」として厳重注意とした。厚労省職員は、不正の当事者である自治労共済に通報者の名前を伝え、その後、通報者は職場を追われる結果となったが、職員は、通報者の名前の伝達について「自然のことと思っていた」という。同省の検証報告書は「守秘義務違反ではない」としつつ「軽率の嫌いは否めないと言わざるを得ない」と指摘している。

  ▽筆者:奥山俊宏

  ▽関連記事:   厚労省が内部告発を放置 違反者に告発者名を知らせる

  ▽関連資料:   厚労省の報道発表


 内部告発放置の問題は2010年10月3日の朝日新聞朝刊で報じられ、細川律夫厚労相が同月5日の記者会見で、「私の指示で調査させている」と明らかにした。厚労省社会・援護局の総務課は12月3日、当時の担当者2人と管理監督者2人について厳重注意にしたと発表した。

 朝日新聞記者は情報公開法に基づき、この調査の結果をまとめた文書などの開示を厚労省に請求し、今月、文書が部分的に開示された。開示された調査結果の報告書によると、調査は昨年10月に始まり、公益通報に対応した職員1人とその上司4人、通報者が所属する自治労共済の担当者から事情を聴いた上で、11月30日に結論がまとめられていた。調査の過程で通報者には事情を聴かなかった。

 開示された報告書によると、2008年10月、生協法違反の事案があるという内容の通報が労働者から同省に寄せられ、同省職員が1時間半にわたって通報者の説明を聴き、その書面を受け取った。その翌日、通報に対応した職員と係長が自治労共済の担当者から15分ほど事情を聴取した。職員は、生協に関連する基準を誤解しており、資料の精査も不十分だったため、通報内容が生協法違反にあたると判断できなかった。この結果、朝日新聞が報道する2010年3月まで生協法違反の是正指導が遅れることとなった。

 また、職員は2008年10月に通報を受けた際に、この通報が「公益通報」にあたると認識せず、公益通報者保護法の趣旨を意識することなく、通報者の名前を自治労共済に伝えていた。報告書によると、職員は、今回の調査の事情聴取に対して「通報者の名前をその所属組織に伝達することの了解を得た」「この伝達を業務上自然のことと思っていた」と主張したという。厚労省が「公益通報として受理した」と通報者に通知したのは通報から1年半近くが過ぎた2010年4月になってからだった。

 公益通報者保護法の施行を前に国の各省庁が申し合わせた「国の行政機関の通報処理ガイドライン」では「通報者の秘密を守るため、通報者が特定されないように十分に配慮する」という規定がある。しかし、調査結果の報告書によると、公益通報者保護法を所管する消費者庁は厚労省の問い合わせに対して「通報者自身が通報者の名前を勤務先に伝えることを了承している場合には、この規定に違反しているとは言えない」との解釈を示したという。その結果、調査報告書は「明文の法令の規定に違反する行為とは言えない」と結論づけた。

 一方で、報告書は「公益通報者の保護という公益通報者保護法の趣旨に鑑みれば、それを正当化すべき特段の例外的事情がない限り、通報対応者は通報者姓名を通報者所属組織に伝達すべきではないと考えられる」とした上で、通報者名の自治労共済への伝達について「事案を処理するうえで必須の行為とは言い難く、また、この伝達にあたって生協業務室の管理者と相談もしてない」と指摘し、「軽率の嫌いは否めないと言わざるを得ない」と批判した。

拡大厚労省の調査報告書の一部

 こうした事態となった背景として、調査報告書は「公益通報制度について関係職員への周知が十分ではなかった」と指摘した。報告書によると、生協業務室では、公益通報制度に特化した勉強会などは行われていなかった。また、個別案件について、論点を検討した上で室長まで判断を求めるという、組織としての個別案件処理の体制もとられていなかった。

拡大厚労省の調査報告書の「結語」の部分

 上司に対する口頭厳重注意の内容は次のようなものだった。

 「部下職員が公益通報の処理に当たり、適切に是正指導並びに公益通報の受理及び措置手続を行わなかったことは管理監督者としての注意義務を欠くものであり、遺憾である。よって、今後、かかる事態を再び惹起することのないよう、厳重に注意する」

 ■厚労省の調査結果をどう読むか

 厚労省に通報を寄せた自治労共済の元職員の訴訟代理人を務める岡崎由美子弁護士は、厚労省が開示した文書を読んで、「厚労省は何の目的で通報者の名前を自治労共済に伝えたのだろうか?」と疑問に思ったという。

 「『調査のため』ということだと思っていたが、文書を見ると、そういう目的は見受けられず、放ったらかしにしている。通報があった直後に自治労共済に連絡をして、通報者の名前を伝え、それが結果的に解雇につながっている。厚労省は何のために自治労共済に連絡したのか?」

 岡崎弁護士は「厚労省が通報者の名前を秘匿するのは当然」とも述べた。

 消費者庁の企画課によると、厚労省からは昨年10月、「通報者の承諾があった場合」のガイドラインの解釈について一般論として問い合わせがあり、次のように答えたという。

 「一般論として、通報者自身が通報者の名前を勤務先に伝えることを了承している場合には、通報者が特定されないように配慮する義務が、了承の内容に応じて減免されると考えられ、調査が遅滞なく、必要かつ相当と認められる方法で行われたものである限りにおいては、ガイドラインの規定に違反しているとはいえないと考えられる」

 了承があれば、通報者の氏名を伏せる義務が必ず免除されるというわけではなく、免除の場合もあるし、減じられるだけの場合もあるという趣旨でこういう返答の表現にしたという。たとえば、違法行為をしている当人に通報者の名前を伝えるのは相当性を欠く

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筆者

奥山 俊宏

奥山 俊宏(おくやま・としひろ) 

 朝日新聞編集委員。
 1966年、岡山県生まれ。1989年、東京大学工学部卒、朝日新聞入社。水戸支局、福島支局、東京社会部、大阪社会部、特別報道部などで記者。『法と経済のジャーナル Asahi Judiciary』の編集も担当。
 著書『秘密解除 ロッキード事件  田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店、2016年7月)で第21回司馬遼太郎賞(2017年度)を受賞。同書に加え、福島第一原発事故やパナマ文書の報道も含め、日本記者クラブ賞(2018年度)を受賞。 「後世に引き継ぐべき著名・重要な訴訟記録が多数廃棄されていた実態とその是正の必要性を明らかにした一連の報道」でPEPジャーナリズム大賞2021特別賞を受賞。 近刊の共著書に『バブル経済事件の深層』(岩波新書、2019年4月)。
 そのほかの著書として『パラダイス文書 連鎖する内部告発、パナマ文書を経て「調査報道」がいま暴く』(朝日新聞出版、2017年11月)、『ルポ 東京電力 原発危機1カ月』(朝日新書、2011年6月)、『内部告発の力 公益通報者保護法は何を守るのか』(現代人文社、2004年4月)がある。共著に 『現代アメリカ政治とメディア』(東洋経済新報社、2019年4月)、 『検証 東電テレビ会議』(朝日新聞出版、2012年12月)、『ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか』(同、2008年9月)、『偽装請負』(朝日新書、2007年5月)など。
 ツイッターはhttps://twitter.com/okuyamatoshi
 ご連絡は okuyama-t@protonmail.comに。メールの内容を暗号化する場合はPGPで。パブリックキーのIDは7D2BAD43550EAD96

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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