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公益通報者保護法、内閣府消費者委が議論
大阪弁護士会が意見書

奥山 俊宏

 この3月末で施行5年を迎える公益通報者保護法について、大阪弁護士会は16日、「保護されるべき通報者に退職者や取締役、取引事業者を追加すべきである」などと法改正を求める意見書を発表した。これまで実際に通報者らから相談を受けてきた活動を踏まえた意見だという。一方、18日に開かれた内閣府の消費者委員会では、公益通報者保護法改正について両論を併記した専門調査会の報告書が提出され、消費者委の松本恒雄委員長(一橋大学法科大学院長)は「消費者委員会として今後、意見を示していきたいと考えておりますので、機会を改めて議題としたい」と述べた。

大阪弁護士会の意見書

 大阪弁護士会の意見書は消費者委員会の松本委員長あてとなっており、7項目について、制度改正を求めている。

 大阪弁護士会は公益通報者保護法施行にあわせて、2006年4月1日、公益通報者サポートセンターを設置し、毎週月曜日の正午から午後3時まで、弁護士が電話で通報者らの相談に応じてきた。この1月末までの4年10カ月で、電話相談は287件、面接相談は29件に上るという。

 意見書によると、寄せられた相談の中には、たとえば、「圧倒的に強い力関係を背景として取引事業者に対し違法な行為を要求していた」という事例や、「保険金の不払いを保険会社の本部に通報したところ、代理店業務を廃業に追いやられた」という事例があったという。しかし、現行の公益通報者保護法の保護対象は「労働者」に限られており、これらの事例は入らない。このため、意見書は「取引事業者についても法で保護される通報者の範囲に含めるべき」と提言している。

 また、「退職後通報しようと思うが、これに対する報復について法による保護があるのか?」という内容の相談があるという。しかし、現行法の下では退職者については「法の保護が及ぶ」と断定的に説明することができない。退職後であっても、守秘義務違反などを理由に損害賠償を請求されるなどの報復を受けることを心配する人がおり、大阪弁護士会の意見書は「その心配を少しでも取り除くことができれば、通報の決意が容易になるはずである」と指摘している。

 また、現行の公益通報者保護法は保護対象となる通報内容を狭く限定しており、たとえば、脱税など税法違反はそこに入らない。一方、公益通報者サポートセンターに相談を寄せる人の中には、徴税や会計の業務にかかわる公務員や労働者が比較的多いという。しかし、「税法違反を是正したい」という相談が寄せられても、現行法ではそれに対応できない。このため、意見書は、通報内容を現行法よりも広くするよう求めている。

 このほか、意見書によると、「上場会社における会社ぐるみの粉飾決算を監査法人や株主に通報したいというケース」「相談者の持っている情報や資料だけからでは、弁護士が公益通報者保護法の外部通報の保護要件の存否を判断することが困難な例」「犯人(通報者)捜しから身を守るにはどうしたらよいかなどの相談」などの事例があるという。公益通報のために職場の資料を持ち出したことについて「違法であった」との確認書への署名を強いられるなどした事例では、公益通報者サポートセンターの相談を経て訴訟となり、「公益通報のために必要な証拠書類の持出し行為も、公益通報に付随する行為として、同法による保護の対象となる」とする判決が言い渡されたが、この裁判例の考え方が他の事例に適用されるかどうかは個別に判断するしかないのが実情となっている。

 こうした実例を踏まえて、大阪弁護士会の意見書は、監査法人、株主など「企業の法令遵守を監督する立場にある者」や外部への通報の保護要件を緩和すること、通報者の民事免責や刑事免責、通報者を特定するための調査(犯人捜し)の禁止、公益通報者保護法違反への罰則制定などを提言し、法改正を求めている。

消費者委員会

 公益通報者保護法を改正するかどうかについて政府としての検討を担う立場にある内閣府の消費者委員会は18日午後3時から東京・永田町で会議を開き、公益通報者保護専門調査会の島田陽一座長(早稲田大学法学学術院教授)から検討結果の報告を受けた。

拡大島田座長(奥)から報告を受ける消費者委員会の委員ら(手前)=2月18日午後3時1分
 法を改正すべきかどうかなどの論点については、島田氏は
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筆者

奥山 俊宏

奥山 俊宏(おくやま・としひろ) 

 1966年、岡山県生まれ。1989年、東京大学工学部卒、朝日新聞入社。水戸支局、福島支局、東京社会部、大阪社会部、特別報道部などで記者。2013年から朝日新聞編集委員。2022年から上智大学教授(文学部新聞学科)。『法と経済のジャーナル Asahi Judiciary』の編集も担当。近刊の著書に『内部告発のケーススタディから読み解く組織の現実 改正公益通報者保護法で何が変わるのか』(朝日新聞出版、2022年4月)。
 著書『秘密解除 ロッキード事件  田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店、2016年7月)で第21回司馬遼太郎賞(2017年度)を受賞。同書に加え、福島第一原発事故やパナマ文書の報道も含め、日本記者クラブ賞(2018年度)を受賞。 「後世に引き継ぐべき著名・重要な訴訟記録が多数廃棄されていた実態とその是正の必要性を明らかにした一連の報道」でPEPジャーナリズム大賞2021特別賞を受賞。
 そのほかの著書として『パラダイス文書 連鎖する内部告発、パナマ文書を経て「調査報道」がいま暴く』(朝日新聞出版、2017年11月)、『ルポ 東京電力 原発危機1カ月』(朝日新書、2011年6月)、『内部告発の力 公益通報者保護法は何を守るのか』(現代人文社、2004年4月)がある。共著に『バブル経済事件の深層』(岩波新書、2019年4月)、『現代アメリカ政治とメディア』(東洋経済新報社、2019年4月)、 『検証 東電テレビ会議』(朝日新聞出版、2012年12月)、『ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか』(同、2008年9月)、『偽装請負』(朝日新書、2007年5月)など。
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※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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