2011年03月06日
■「トップの政治的決断が必要」
日本の対米貿易黒字を減らすには、日本による米製品の輸入を増やすのがもっとも手っ取り早く、また、縮小均衡に陥る恐れもない。1972年夏、それは“即効薬”であり、ハワイでのニクソンへの“手みやげ”でもあると考えられた。その輸入の対象とする米製品として、農作物、濃縮ウランなどいくつかの品目が日米交渉の俎上に上ったが、日米首脳会談の日程が決まった後、民間旅客機もその1つににわかに浮上した。
当時、日本の空では胴長の飛行機が旅客輸送に使われていたが、近い将来の大量輸送時代には広胴(ワイドボディ)のズングリ型の飛行機がそれに取って代わるのが必至とみられていた。72年7月23日には、広胴の旅客機であるロッキードのL1011、マクダネル・ダグラスのDC10が日本に相次いで飛来し、全日空や日航など関係者を前にデモンストレーション飛行をしてみせた。
米国の駐日大使館ではこのころ、経済担当の公使が、ロッキード、ダグラス、ボーイングの3社の東京の代表や運輸省の大臣官房審議官・原田昇左右に接触し、日本航空と全日空が米国製旅客機を購入する可能性とその時期を探った。その結果を国務省に報告した8月8日の公電は「大阪・伊丹空港の地元住民が騒音問題を心配していることによる政治的プレッシャー」などの阻害要因を挙げ、「ハワイ会談より前に問題を解決するのは航空会社にとっても日本政府にとっても簡単ではないのは明らか」「2週間かそこらで大阪の騒音問題を処理するよう運輸省航空局を説得するためのトップレベルの政治的決断が必要だろう」と分析した(注1)。期待を寄せられたのは田中だった。「トップからの強い圧力、たぶん田中首相自身からの圧力があれば、彼はハワイで、日本の航空会社は速やかにかなりの数の特定の航空機の購入契約を結ぶと表明できる可能性がある」
8月10日午前、米国の駐日大使インガソルは外相の大平正芳に面会し、
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