2011年03月18日
▽筆者:安川嘉泰、加藤裕則
▽この記事は2011年3月9日と同月10日の朝日新聞(大阪)に掲載された原稿に加筆して再構成したものです。
会社法は資本金5億円以上か負債額200億円以上の株式会社(大会社)に、公認会計士や監査法人などの「会計監査人」を置き、法定監査を受けるよう義務づけている。ところが、会計士協会は「この制度が守られていない。会社法の欠陥だ」(幹部の一人)と訴える。
発端となったのは、今年2月に会社更生法の適用を申請した岡山のバイオ企業・林原(はやしばら)が長年、会計監査人を置かずに粉飾決算を繰り返し、銀行がずさんな審査で融資を続けたことだ。会計監査人を置いていれば、経営破綻を未然に防ぐことができた可能性があるという。
上場企業が会社の経営内容を広く一般に公開しているのに対し、非上場企業の情報を知りうるのはオーナーなどの株主や融資した金融機関に限られる。特に、会社法が基準とする負債額は金融機関しか確認できない。
林原のケースは資本金は1億円だが負債総額は1300億円にのぼり、会計監査人を置く義務があった。主力銀行の中国銀行(本店・岡山市)や準主力の住友信託銀行は単独で200億円を超えて融資しており、かりに負債額を粉飾されていても法定監査対象企業であることは知り得た。
会計監査人の有無は法人登記簿を見れば分かるが、「恥ずかしながら交渉担当者や本部も含め、誰もそのことを知らなかった」(中国銀行幹部)という。
企業会計に詳しい関西大学会計専門職大学院の松本祥尚教授(監査論)は「会計監査人を置かない大会社への融資は無責任。登記簿で確認できることすら知らないのでは、大口債権者としてガバナンス(企業統治)を担うべき金融機関の適性を欠く」と話す。
さらに、実態は500社を大きく上回る可能性が高い。今回、協会は5億円以上という資本金だけを基準にして調べた。国税庁の統計数値と、協会が監査法人を通じて調べた会計監査を受けている非上場の大会社の数を照らし合わせてはじき出した。つまり、200億円以上という負債額については、「全国で何社ぐらいがあるのか全く分からない。調べようがない。行政当局にもデータはない」(協会幹部)とお手上げの状態だ。法務省もこれを認め、「把握していな。把握しようがない」(民事局)という。
日本公認会計士協会は3月上旬に開いたマスコミとの懇談会でこの問題を説明し、「法律で規定されているのに、実態が不明という状態でいいのだろうか。従来からあった問題だが、今回は林原という明快な事例が出てきた。協会として的確に対応していく。少なくとも銀行協会などと意見交換していきたい」と語った。
金融庁の諮問機関である企業会計審議会などによると会社法上の大会社は全国に約1万社。このうち約1割の1千社程度が法に反して会計監査人を置いていない、との見方をする会計士もいる。
●主力銀行の責任重視
日本公認会計士協会による異例の要請の背景には、非上場大会社に対する会計監査人制度が「抜け穴」だらけという現実がある。特に主力銀行(メーンバンク)が融資先企業の経営指導を行う「メーンバンク制」のもとでは、その穴を事実上埋めることができるのは銀行以外になく、果たす役割は重大だ。
大会社の多くは法に従っているのに、違反企業があえて会計監査人を置かない原因の一つがペナルティーの低さだ。会計監査人の監査を受けなかった場合の過料はわずか100万円以下。会計監査人に対する報酬より安いため「違反しても過料を支払った方が割安だ」ととらえる企業がいてもおかしくない。会計士協会も「制度がおかしい。監査を受け入れやすい仕組みにしなければいけない」との立場だ。
銀行側はどうか。メガバンク関係者からは「いちいち会計監査人を置いているかなど確認したことも
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