メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

「パワハラ」と「指導・教育」を分かつ境界線はどこか

 多くの企業で問題となっている「パワーハラスメント」。最近は、モンスターペアレントならぬモンスター従業員まで現れ、人事担当者の悩みのタネになっているという。一方で、管理職が部下に正当な指導・教育を行うのは必要なことだ。それとパワハラとの境界線はどこにあるのか。杉原えり弁護士が境界判断のポイントを判例をもとに考察する。

指導とパワハラの境界線

西村あさひ法律事務所
弁護士  杉原 えり

杉原 えり(すぎはら・えり)
 2004年東京大学法学部卒業。2005年弁護士登録、西村ときわ法律事務所(現・西村あさひ法律事務所)入所。主たる業務分野はM&A及び労働法。労働法分野においては、労働紛争、日常的な労務管理といった一般的な分野と共に、労働者派遣、年金・社会保険といった専門分野の案件も扱う。また、M&Aの過程において生ずる労働問題について、多くの案件を手掛けている。経営法曹会議会員。

 ■ はじめに

 「パワーハラスメント」という言葉が注目されるに至って久しい。この言葉そのものは、日本の人事コンサルタント会社であるクオレ・シー・キューブ社による造語であり、2001年の「誕生」から今年で10年となる。

 パワハラ問題は今や多くの企業で認識されている。管理職らに対してパワハラ防止のための研修会を開いたり、ハラスメント防止規程を整備したり、相談窓口を設けるなど、その防止・解決に繋げようと努力している会社も多い。また、裁判例や労災認定の事案も一定程度蓄積してきたところである。

 しかし、多くの人事担当者やコンプライアンス窓口担当者から、パワーハラスメント関係の相談が後を絶たない。パワハラといっても結局は無数の類型が考えられる不法行為の一部分である。何通りものパワハラの類型を説明され、あれも駄目、これも駄目ですと説明されても、管理職は正しい判断をできるようにはならず、現場も混乱する。また、最近は、モンスターペアレントならぬモンスター従業員のように、正当な指導であっても逐一パワハラだと訴えてくる従業員もおり、問題となっている。このような従業員に対しても、何がパワハラなのかということを会社がきちんと判断できないと毅然とした態度をとれず、当該従業員に振り回されてしまうことになる。

 パワハラ事例には、何時間も立たせて大声で説教する、暴力を振るう、嫌がらせをするといった例もある。しかしこのような

・・・ログインして読む
(残り:約5054文字/本文:約5848文字)