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M&A差止めを求める訴えが米国で急増

宇野 伸太郎

  米国では、株主によるM&Aの差し止め請求訴訟が急増している。多くはクラスアクション(集団代表訴訟)だ。証券詐欺訴訟が減少傾向にある米国では新たな弁護士ビジネスとなっているようだ。金融危機による不況で米国のM&A市場は買い手優位。売り手側株主の不満が高まっていることも背景にあるという。日本企業も、そのターゲットになる可能性があるのだろうか。宇野伸太朗弁護士が詳しく解説する。(4月2日一部修正)

 

米国で急増するM&A差止めを求める訴え

西村あさひ法律事務所弁護士
Shearman & Sterling法律事務所客員弁護士
宇野 伸太郎

宇野 伸太郎(うの・しんたろう)
 2002年、東京大学法学部卒業。2003年、弁護士登録(司法修習56期)。2010年、カリフォルニア大学バークレー校ロースクール修了(LL.M.)。2011年ニューヨーク州弁護士登録。現在、清水建設国際支店(シンガポール)に出向中。

 ■はじめに

 米国では、株主によるM&Aの差止めを求める訴えが急増している。ある統計によると、M&A差止めの訴えの件数は、連邦裁判所と州裁判所の合計で、2003年は18件、2006年は107件であったところ、2010年には335件へと増加している。また別の統計によると、証券取引法違反を理由とする連邦裁判所におけるM&A差止めの訴えは、2009年の7件から2010年には40件と急増している。

 2011年に入ってもその勢いは衰えず、例えば、先日公表されたNYSEユーロネクストとドイツ証券取引所の合併に対しても、NYSEユーロネクストの株主により、合併差止めを求めるクラスアクションが提起されている。

 このようなM&A差止めを求める訴えとはどのようなものであろうか。なぜ急増しているのであろうか。日本企業もターゲットになり得るのであろうか。

 ■M&A差止めを求める訴えとは

 M&A差止めを求める訴えは、多くの場合、買収の対象となる会社や合併において合併比率が低い方の会社(以下、便宜上、「対象会社」と総称し、買収を行う会社及び合併比率が高い方の会社を「買収会社」という)の株主により提起される。差止めの根拠として、対象会社の取締役ら個人に株主に対する忠実義務(fiduciary duty)違反

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