2011年04月20日
証券会社に対する連結ベースでの規制・監督の導入
~「川下連結」「川上連結」とは~
西村あさひ法律事務所
弁護士 井下 祐忠
■はじめに
平成23年4月1日より施行された金融商品取引法(以下では、単に「金商法」と呼ぶ)の改正により、第一種金融商品取引業を行う金融商品取引業者、すなわち、証券会社に対する連結ベースでの規制・監督(いわゆる「川下連結」および「川上連結」)が導入された。これにより、従来は当局の規制・監督の対象とされていなかった、傘下に証券会社を有する企業グループの持株会社が、連結ベースでの規制・監督の対象となる可能性が出てきた。それは、実務上重要な意味を有すると考えられるため、その概要を解説することにしたい。
■連結ベースの規制・監督と単体ベースの規制・監督
我が国における金融機関に対する規制・監督の態様としては、当該金融機関のみを対象とする単体ベースの規制・監督と、当該金融機関およびそのグループ会社を対象とする連結ベースの規制・監督とが存在する。連結ベースの規制・監督に服している例としては、銀行を挙げることができる。他方、従来の証券会社に対する規制・監督は、単体ベースで行なわれていた。
■従来の証券会社への規制・監督の枠組み
従来の金商法の下では、証券会社に対し、原則として単体ベースの規制・監督が行なわれていた。すなわち、経営の健全性維持の観点からの自己資本規制比率、当局に対する業務および財産の状況を記載した事業報告書の提出、証券会社に対する当局による業務の運営または財産の状況の改善に必要な措置命令など、いずれも証券会社単体ベースのものとされていた。もっとも、当局の監督実務においては、国際的に活動する証券会社グループに対しては、連結ベースでの監督が行なわれていたところである。
■今般の証券会社グループへの規制・監督の強化の背景
このように、従来、証券会社については単体ベースでの規制・監督が原則とされてきたのは、証券会社は銀行と異なって資金決済機能を担わないことから、その経営の悪化が金融システムに及ぼす影響が相対的に限定的であると考えられてきたことによるものである。しかしながら、近時の世界的な金融危機において見られたように、決済機能を担わない証券会社のような金融機関であっても、その破綻が引き金となって金融システムに深刻な悪影響を及ぼすおそれがあることが明らかになった。
他方で、大規模かつ複雑な業務をグループで一体として行っている証券会社の場合には、グループ内の他の会社の経営悪化などの影響により当該証券会社本体が突然破綻する懸念があるにもかかわらず、従来の単体ベースの規制・監督では、そのような証券会社グループ全体の経営状況やリスク状況の把握は困難であった。国際的にも、国境を越えて活動する主要な商業銀行や投資銀行について、グループ全体の業務・リスク状況を当局が把握するための枠組み構築の必要性が提唱されている。
このような状況を背景に、金商法を改正し、一定規模以上の証券会社に対する連結ベースの規制・監督(いわゆる「川下連結」および「川上連結」)が導入されることになった。以下では、川下連結および川上連結の内容についてそれぞれ簡単に説明することとしたい。
■川下連結
「川下連結」とは、一定規模以上の証券会社、具体的には総資産額が1兆円を超える証券会社(ただし、外国法人は除かれる)について、当該証券会社(「特別金融商品取引業者」と呼ばれる)およびその子会社などからなるグループを規制・監督の対象とすることを意味する。川下連結による規制・監督の概要は、次のとおりである。なお、以下において、「子法人等」とは、支配力基準による子会社および影響力基準による関連会社などを指す。
・ 総資産額が1兆円を超える証券会社は、自らが「特別金融商品取引業者」である旨を当局に届け出なければならない。
・ 当該証券会社に親会社が存在する場合には、当該親会社の傘下に所属するグループ全体に関する業務および財産の状況などを記載した書面を当局に提出しなければならない。具体的には、親会社に関する基本的な情報、当該証券会社が属するグループの最上位の親会社に関する連結の四半期報告書、当該証券会社が属するグループが他の法令(外国の法令を含む)に基づく監督を受けている場合にはその旨、親会社による当該証券会社の経営管理や、グループ会社による当該証券会社に対する資金調達の
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