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「危機対応の知識習得、以前より必要」高まる

経営倫理士100人大震災緊急アンケート

 日本経営倫理士協会(ACBEE)は、3月29日から4月1日にかけて、会員である経営倫理士を対象に、東日本大震災をテーマにアンケートを実施した。「実践できるリスクマネジメントの重要性を痛感した」などの声が寄せられた。アンケート結果の概要を紹介する。

日本経営倫理士協会専務理事
千賀 瑛一

 ■48人から回答

日本経営倫理士協会・千賀瑛一専務理事千賀 瑛一(せんが・えいいち)
日本経営倫理士協会専務理事。東京都出身。1959年神奈川新聞入社。社会部、川崎支局長、論説委員、取締役(総務、労務、広報など担当)。1992年退社。1993年より東海大学(情報と世論、比較メディア論)、神奈川県立看護大学校(医療情報論)で講師。元神奈川労働審議会会長、神奈川労働局公共調達監視委員長、日本経営倫理学会常務理事、経営倫理実践研究センター上席研究員、「経営倫理フォーラム」編集長。日本記者クラブ会員。

 経営倫理士は現在415人いる。NPO法人日本経営倫理士協会が主催する資格講座(年間コース)を受講し、所定の試験、論文審査、面接を経ると、経営倫理士の資格を取得することができる。「経営倫理士100人アンケート」は、昨年スタートした取り組みで、経営倫理士は経営倫理、コンプライアンス、CSR等の専門的集団だけに危機管理、企業不祥事関連の動きが、かなり明確に把握できる。今回は東日本大震災をテーマに緊急に実施した。無作為に抽出した100人を対象に、無記名の回答をファクスまたはメールで回収した。

 回答は48人(男性39人、女性9人)から寄せられた。その内訳は、30歳代が6人、40歳代が18人、50歳代が20人、60歳代が4人。所属先は製造業が27人でもっとも多く、卸売・小売業5人、金融・保険業3人、サービス業3人、建設業2人、電気・ガス業2人などとなっている。社内での役職・役割は、管理職29人、一般職12人、役員4人、経営者1人となっている。

 地震が発生した際に社内にいたのは38人、社外にいたのは10人。「大震災発生時、あなたが携わっていた仕事に影響はありましたか」という質問に対して、「重大影響」があったと答えたのは1人だけで、45人は「軽度影響」、2人は「影響なし」と回答した。「会社・組織の業務にどれくらい影響がありましたか」という質問では、20人が「重大影響」があったと回答し、27人が「軽度影響」、1人が「影響なし」と答えた。

 ■組織内での危機対応の浸透を

 各質問には次のような回答があった。

 ――大震災で、あなたは会社・組織の特別な危機対応に参加しましたか?
 はい            20人
 いいえ           27人
 どちらともいえない    1人

 ――経営倫理士としての知識・ノウハウは危機対応に活かせると思いましたか?
 はい             15人
 いいえ            6人
 どちらともいえない     1人

 ――「経営倫理」の理論、実践は危機対応の要素を強く持っていますが、このジャンルの知識習得は、以前より必要と思いましたか?
 はい             30人
 いいえ            6人
 どちらともいえない    12人

 ――大震災で、貴方の会社で経営倫理、CSR、コンプライアンス部門等の組織変更の動きはありますか?
 はい             8人
 いいえ           39人
 わからない         1人

 回答の中では、「危機対応の知識習得」について30人が、以前より必要としている。経営倫理士は、会社内でコンプライアンスなど幅広いテーマで、教育研修の企画立案、講師役を担当しており、従来にも増して危機対応の組織内浸透の必要性を感じたものとみられる。また、経営倫理士自身についても、同テーマでの学習、知識習得のレベルアップを迫られていることがうかがえる。

 ■リスク感度を平時から持つこと

 「特に記述したい点がありましたらご記入下さい」という最後の質問には、さまざまな視点の意見が寄せられた。大震災直後の対応や情報発信のあり方について、また今後の基本的対策のあり方などについての貴重な提言だ。

 「突然発生する災害に対しては、日頃から意識啓発が最も重要であることを感じた。社内ではさまざまなルールを作っても、いざという時に訓練されていないと、何の役にもたたないことを体験した」(男性、40代、製造業、管理職)。「大規模災害では、どれだけ敏感に適切処理ができるかが重要。事前の準備、適確な指示系統があってこそ、会社や個人の倫理が生きる」(男性、50代、製造業、一般職)などといった受け止め方が目立つ。そして「今まで思いもしなかった方面への対応が出てきて、ステークホルダーの概念が変化した」(女性、40代、不動産業、管理職)といった回答も。さらに「経営倫理士講座でリスクマネジメントを学んだこともあり、社内での活動に大いに役立っている。同時に、学んだことに加え、リスク感度を平時から養い、持つことの重要性を感じた」(男性、40代、製造業、管理職)という人もいた。

 ■大災害時の情報に強い関心

 一方、大災害時の情報のあり方についての意見も出ている。「わが社は経営倫理と危機対応を同一部署で、切り分けることなく取り組んでいる。しかし今回のような大災害の場合、情報公開・伝達が後回しとなり、社内から不満の声が上がり反省材料にも」(女性、30代、卸売・小売業、一般職)。あるいは、「原発情報について、うわさ話レベルの情報で、若干混乱する社員もいた。正しい情報を、的確に速やかに発信する必要性を感じた」(男性、30代、製造業、管理職)。「風評への対応の難しさを実感」(男性、50代、複合サービス業、管理職)など。

 また今回のアンケートについても「メディア報道のあり方についての設問があってもよかった」の指摘もあった。

 ■想定外の対応は社会全体で考える

 日本経営倫理士協会では3月1日、創立15周年特別記念シンポジウムを開いており、基調講演「崖にたとえる危険管理・危機管理」(若狭勝弁護士)では、企業のリスク対応のあり方について、パネリスト、一般参加者らで熱い議論があった。

 今回のアンケートで寄せたれた自由意見の中では、「リスクマネジメントの重要性を痛感しました。形式的なマネジメントではなく、実践できるマネジメントはどうすべきかを考えなければ。手順書やマニュアルに頼るのではなく、状況により判断し、臨機応変できる柔軟性が求められている」(男性、50代、製造業、管理職)、「東電の対応に不満が集中しているが、危機管理は想定される事態に準備するもの。想定外の危機にどこまでコストをかけるのか。リスク対策投資等のコストとの兼ね合いも無視できない。『想定外に備えるシステム』には、一企業や業界だけの問題というより、社会全体で考え、構築していく必要がある」(男性、60代、製造業、管理職)など、慎重な意見もある。

 経営倫理の実践活動は、常にリスク対応と連動している。経営倫理士資格取得講座の中でも、かなりの時間を危機管理理論の研究、実践ノウハウに取り組んでいる。平常時のマニュアルをはじめ、トラブル発生時に着手すべきポイント、さらにメディア対応まで幅広いジャンルにわたってキメ細かく勉強する。経営倫理士の多くが企業のリスク対応、コンプライアンス、CSRなどのセクションに配属されており、今回の東日本大震災が大きな教訓になっていることが、アンケートで読みとれる。

 

 〈経営倫理士とは〉
 NPO法人日本経営倫理士協会が主催する資格講座(年間コース)を受講し、所定の試験、論文審査、面接を経ると、経営倫理士の資格を取得することができる。現在、経営倫理士協会で受講受け付け中

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