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入試にまつわる不正とその法律問題 危機管理の教訓も

渋谷 卓司

 インターネットを悪用したカンニング受験生の逮捕の是非が論議を呼んだのは記憶に新しい。試験に不正はつきもので、中には、組織的で巨額の利益を上げる悪質なものもある。元検事の渋谷卓司弁護士が過去の入試不正を分析し、不正原因の解明と再発防止策の策定、公表がいかに大切かを説く。受験生・家族はもちろん、試験する側、企業法務関係者にもぜひ読んでもらいたい一文だ。

 

入試にまつわる不正とその法律問題

 

西村あさひ法律事務所
弁護士 渋谷 卓司

渋谷 卓司(しぶや・たかし)
 1990年慶應義塾大学法学部卒業、2004年ジュネーブ国際大学(MBA)修了。1992年から2010年まで検事。東京地検特捜部、法務省刑事局(刑事法制課、国際課)、外務省在ジュネーブ国際機関日本政府代表部などで勤務。2010年4月弁護士登録。危機管理・コンプライアンスを中心とした企業法務を主に担当。

 ■はじめに

 新入学の時期である。今年は有名大学の入学試験を舞台とする、携帯電話と質問投稿サイトを用いた不正受験事案が発生し、一時はマスコミで連日報道されるなど社会的注目を集めた。ひるがえって考えると、古くは中国の科挙(官吏登用試験)の時代から、試験にまつわる不正は古今東西を問わず存在した。冒頭の事案は被疑者である受験生(少年)の逮捕にまで発展したが、大学受験に限っても、入試にまつわる不正が刑事事件に発展した例は過去にも存在する。興味深いのは、その内容の違いにより、問われる犯罪の名前も異なる点である。そこで、本稿では、大学入試の不正に絡み、過去にどのような犯罪があったかを紹介した上、今回の事案を振り返ってみたい。

 ■過去の事例

 (1) 入試問題の事前入手

 入試問題を事前に入手できれば、試験当日は用意していた解答を答案用紙に書くだけで済む。今からちょうど40年前、国立大学を含む2大学の入試問題を3年間にわたり不正に入手して、試験前に受験生(実際にはその親たちであろうが、それも含めて受験生という)に販売した事件が発覚した。

 当時、それらの大学の入試問題は、内容が外に漏れないよう地元の刑務所の印刷工場で印刷されていた。本件は、その刑務所の受刑者Aらと元受刑者Bが共謀し、Aらが当該印刷された入試問題を塀の外に持ち出し、Bがこれを販売したというものである。

 その際、Aらが刑務所から持ち出した方法は相当、奇抜である。(1)1年目は、Aが入試問題を破り、運動時間にボールに仕込んで塀の外に投げ出して、外で待っているBに渡し、(2)2年目は、Aが出所

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