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ローソンの震災対応をコンプライアンス・リスク統括室の部長に聞く

そのとき経営倫理士は……

 東日本大震災で各企業のリスク対応担当者らはさまざまな場面で活動した。経営倫理士にとって、リスクマネジメントも重要な仕事。経営倫理士らは今回の震災でどのような業務をこなしたのか。株式会社ローソンでコンプライアンス・リスク統括室の部長を務める吉田浩一氏(経営倫理士・第10期生)に話を聞いた。

日本経営倫理士協会専務理事
千賀 瑛一

 ■大震災発生直後、富山からレンタカーで本社へ駆けつける

吉田浩一部長

 3月11日、吉田部長は、仕事で富山に出張中だった。富山でも激しい揺れに見舞われ、「これは大変だ」と感じた。東京都品川区大崎の本社にすぐに連絡をとり、帰社することになった。飛行機か鉄道に乗ろうと考えたが、いずれもかなわず、急きょレンタカーを借りて本社へ向かった。到着まで約12時間かかった。この間、携帯電話やメールで本社と連絡を取りながら移動した。本社では、地震発生5分後に災害対策本部を設置。災害対策マニュアルにもとづいて活動が始まった。

 同社の災害対策マニュアルには、初期行動、緊急対応、復旧対策などの行動基準、緊急連絡フローなど、災害の種類、規模に応じた対策が盛り込まれてある。基本的な考えとなるのは、(1)本人及び家族、従業員、顧客の安全確保(2)経済活動の維持、街のライフラインとしての営業継続(3)地域社会へ貢献するため、被災地への救援物資の提供など。

「我が社ではコンプライアンス担当が本社と7支社あわせて31人おり、震度5強以上の場合、即時、それぞれが勤務する本社支社に集合することになっている。(今回の震災でも)これらコンプライアンス担当者らを中心に動き出した。対策本部では、初めに集まった人たちで、可能なこと、出来ることから仕事を始めた」

 災害対策本部長は浅野学・常務執行役員が務め、吉田部長は本社に到着すると、その事務局の責任者として陣頭指揮にあたった。「特に現場との連絡態勢の確保に気を使った」という。

 ■店長ら13名死亡、14名の安否未確認  

 大震災の前には、同社では東北6県と茨城県で911店舗が営業していたが、震災直後の建物の破損、停電、断水、商品供給ストップなどで営業を停止したのはそのうち約4割。4日後の3月15日には、東北6県等の工場や配送センターが再開し、5月20日までに約9割以上の店舗が営業可能になった。加盟店のオーナー3人、店長4人、加盟店の従業員6人が死亡し、加盟店のオーナー3人、店長1人、加盟店の従業員10人の安否が確認できていない。

 本社対策本部では、1日4回、テレビ会議システムを利用して会議を開き、仙台市にある東北支店と打ち合わせしながら、対応策を検討した。主な内容は従業員の安否確認、店舗被害情報の集約、各物流センターの稼動状況の確認、商品供給体制のチェック、応援隊の派遣準備とその宿泊場所の確保、建設チーム派遣、ガソリン・軽油・重油の調達、自治体救援物資の調達。同社は、災害に備えて、1道2府43県9市区の自治体、6交通機関、東京消防庁との間で、緊急物資輸送、道路優先使用について相互支援協定を結んでいる。

 「特に東北へ向けて送り出した先遣グループのバイク部隊が活躍した。これはトラックで東北へ運んだもので、現地でバイクに乗った東北支社対策本部員らが、関係者の安否確認や被災地の状況調査などに活動した。社員の出勤用車両や工場従業員の車両のガソリン不足、商品配送車の軽油不足が起きた。また、食料品製造工場のボイラー用の重油不足も深刻な問題だった。これらの燃料不足を解消するため、バイク部隊が走り回って(燃料を)調達してくれた。特に東北地方の商品提供については、仙台工場の損傷が激しく稼動できないため、他の地域から商品を運び込み、臨時の体制をとって対応した。北海道からパンを青森県、岩手県に補充、東京からは福島県、宮城県、山形県に加工食品や日用品を、毎日大型トラックで納品した」

 各店舗は災害時に「徒歩帰宅者支援ステーション」として、店舗の営業継続に支障がない場合、徒歩で帰宅する人たちにトイレ、水道水、情報の提供を行うことになっている。今回は、9都県市で実施された。

 ■“買い物過疎地”に仮設店舗オープン

 今回の大震災は、被災地域も広く、ローソンでは自社配送が困難な場所へは航空輸送をしている。3月14日に日本航空・大阪~八戸便で、おにぎりなどを送っている。航空便では、おにぎりを中心に菓子パン、カップ麺などを送るが、特におにぎりは衛生面や鮮度などを配慮して、安定した温度下でスピーディに運ぶ必要があり、細心の注意を払ったという。3月中には日本航空を3便使用、また自衛隊が緊急空輸2便で協力してくれた。

仮設店舗の陸前高田鳴石店が4月21日にプレオープンした際にはテレビなどの報道関係者が取材に来た。

 周りに商店がなく買い物に不便な地域である陸前高田市にプレハブの仮設店舗を1店舗開いた。4月21日のプレオープンでは、店長が復興決意を表明。“買い物過疎地”に仮設店舗――ということで、NHK、テレビ朝日などでも放映された。

「新浪剛史社長から『災害対策は経費にとらわれると、発想が乏しくなる。どんなことがあってもチャレンジを』と言われたことが、活動の支えになった。私も対策本部事務局の責任者として、時には帰宅せず、事務局で仮眠することもあった。本社支社など全社が一丸となって取り組んだだけにやりがいもあり、コンプライアンス・リスク統括室に対する信頼もより高まったと感じている」

 同社には、2004年10月の新潟県中越地震、07年3月の能登沖地震、同年7月の新潟県中越沖地震などで、救援物資提供を実施した経験を生かして作成された「災害対策マニュアル」がある。同マニュアルにもとづいて防災訓練を年2回(1月、9月)実施、災害対策本部の設置・運営、安否確認、情報伝達、物資輸送などの訓練を行い、全社的なリスク対応の実践・意識の強化を図っている。同時に、事業継続計画(BCP)を05年下期から導入している。これには、地震災害のほか新型インフルエンザ対策なども盛り込まれている。

 吉田部長は「各地の大災害後の反省と教訓を込めてマニュアル化しており、3年前に改定した。今回も災害対策マニュアル、BCPガイドラインの改定準備に着手している。そのためには、現場の生の声を生かすため、直接ヒヤリングを4回やっています。リスク対応は常に反省と分析が必要です。まず9月1日の防災訓練に向けて、改定する予定です。また総合訓練と並行して、各職場での日頃からの教育・研修による浸透も大切」と話している。

 ■多くの場合、経営倫理士は後方支援で活動

 日本経営倫理士協会(ACBEE)では、東日本大震災を受け、3月29日から3日間、「経営倫理士100人緊急アンケート」を実施した。ここで寄せられた回答を見ると、多くの経営倫理士の震災時活動は後方支援が多い。本社の対策本部に組み込まれる者もいるが、多くのケースでは情報収集、現場の支援、必要物資の手配、記録作成などの業務に就いている。それぞれの業種やポストによって、取り組んだ業務の内容はさまざま。吉田部長のように対策本部の陣頭指揮にあたったケースはほとんどない。今後、経営倫理士のリスク関係の業務はさらに重要視され、経営倫理士取得講座のリスク対応講座強化が必要で、吉田部長の体験は参考になるだろう。

 

 〈経営倫理士とは〉
 NPO法人日本経営倫理士協会が主催する資格講座(年間コース)を受講し、所定の試験、論文審査、面接を経ると、経営倫理士の資格を取得することができる。企業不祥事から会社を守るスペシャリストを目指し、経営倫理、コンプライアンス、CSRなど基礎理論から実践研究など幅広く、専門的知識を身につける。これまでの14期(14年間)で、415人の経営倫理士が誕生、企業で活躍している。現在、第15期生が年間コース(5~12月)を受講中。1コマ受講もできる(一日分につき経営倫理士=8,000円、一般20,000円)。第16期受講は、今年12月から受け付け。 問い合わせは、03-5212-4133へ。E-Mailはkeieirinrikyo@cz.blush.jp 

 千賀 瑛一(せんが・えいいち)
 東京都

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