2011年07月05日
日本経営倫理士協会専務理事
千賀 瑛一
■「想定外」に強いBCPを……
東日本大震災が発生してから3カ月余がたち、企業は今、非常時に事業活動の維持・存続をどう図っていくかという重要なテーマを突きつけられている。自然災害、原発事故、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した時に備えて、企業活動継続を目的に、資産の被害を最小限にくい止め、早期復旧と組織存続をめざす方策をあらかじめ定める。それがBCPだ。さらに、このBCPを経営戦略として位置づけるBCM (Business Continuity Management)という考え方も導入されつつある。
日本経営倫理士協会の吉田邦雄・主任講師(経営倫理実践研究センター上席研究員)は「日本の企業には従来からBCPがあったが、それは、今まで考えられていた規模の災害や新型インフルエンザを想定したケースや、また避難や安否確認を重点とする防災と組織維持体制が中心だった。しかし、いまや『想定外』の緊急事態発生に対応しなければならない。従来型のリスクマネジメントでは通用しなくなってしまった。東日本大震災の教訓として、今、本格的なBCP策定に取り組むべき時だ」と提言する。さらに「大切なことは重要業務を見極め、事業継続のための経営資源を効果的に注ぎ込まなければならないこと。なんとしても企業存続のため、最大限の努力をしなければならない。企業の業種・業態・規模・経営方針などによって具体的な対応はさまざまだ。想定外の脅威に柔軟に取り組む『継続性』を確保することが大切」という。
■動き始めたBCPの内容は……
東日本大震災の結果、多くの企業でBCPづくりが動き始めた。業種や規模によってその内容も違ってくるが、
(1)グループ全体での取り組み強化
(2)本社機能の代替センター確保
(3)定期訓練重点型
などの特徴をそれぞれに読み取ることができる。
自社だけでは非常事態対応に限界があるとして、関係会社や取引先との連携を強化する電機メーカーや医療品卸会社がある。菓子メーカーのカルビーでは、沖縄にあるITセンターの機能を強化して、東京のITセンターの機能を沖縄で代替できるようにしている。制御機器メーカーのオムロンは、京都本社のほか、シンガポールにも本社機能を置く方向で検討を始めたという。データセンターの建造物の免震構造化や、重要システム回復の敏速化などの面で改善・工夫を進めている企業もある。防災訓練も、従来型を見直し、関連会社を含めるなど大規模にし、また、訓練回数を増やす企業が出ている。
BCPの策定にあたっては、情報収集・伝達、広報体制の確立、通信連絡体制の構築、救急医療などの再点検も必要となってくる。また、災害発生時に地域社会への被害の拡大を防ぐため、行政機関と連携して火災・爆発の防止、有毒ガス等の流出防止へ向けた検討を進めている企業もある。
内閣府は平成17年に「事業継続ガイドライン」を公表し、21年に改訂している。多くの企業はこれを参考にBCPを策定している。同ガイドラインはバックアップシステムや代替オフィスの確保、要員の確保、定期訓練の実施、敏速な安否確認などを重点項目に挙げており、一般的には、自社の防災体制とこのガイドラインを照合し、検証、点検しておくことが必要だ。
日本経営倫理士協会の「第15期経営倫理士取得講座(2011年5月~12月)」では、吉田邦雄主任講師(第6回、7月12日)、小山嚴也講師(第9回、9月13日)が、BCP、危機対応の新しい動きなどについて講義する予定だ。また、日本経営倫理士協会では2009年の発足以来、経営倫理士在籍企業を対象に、コンサルティングを実施しているが、今後、BCPについても相談・助言をする。
■7月21日にBCPシンポジウム
7月21日(水曜日)午後1時からは、シンポジウム「東日本大震災からの教訓、あなたの会社の事業継続計画(BCP)は大丈夫ですか?」を開く。
吉田邦雄主任講師らが中心となって企画したもので、東日本大震災のような「想定外」の災害に対し、リスク対応の重要性、事業継続計画策定の方法などを学べるようにする。第1部では、阿部勝征氏(文部科学省地震調査委員会委員長、内閣府中央防災会議委員、東京大学名誉教授)が「東日本大震災と今後懸念される巨大地震」をテーマに話す。第2部では、大林厚臣氏(内閣府「事業継続計画策定推進方策に関する検討会」座長、慶応義塾大学教授)が「内閣府BCP策定指針」について話す。第3部では、BCMコンサルタントの昆正和氏が「BCP策定上の留意点」について話した後、1グループあたり6~7人のグループに分かれて、ディスカッションをする。全体のファシリテーターは吉田邦雄氏。
今回の東日本大震災から学ぶべきポイント、「想定外」の意味、今後の巨大地震発生リスクと想定被災規模、内閣府・事業継続ガイドラインの概要、想定外の事態が起きても被害を最小にするポイント等について解説がある。
吉田邦雄主任講師は「私の専門は内部監査だが、このテーマの重要な柱がリスクマネジメント。いま、企業の存続、活動継続が最大のテーマ。今までのBCPでは、もう対応できない。このシンポジウムで『想定外』に強いBCPとは何か、を考えたい」と話している。
シンポジウム「東日本大震災からの教訓、あなたの会社の事業継続計画(BCP)は大丈夫ですか?」
日時:平成23年7月21日(木)午後1時~5時20分
場所:海事センタービル801会議室(東京都千代田区麹町4-5-4)
会費:経営倫理実践研究センター会員(関連企業も含む)1万円、非会員3万円(いずれも消費税込)
お問い合わせ:〒102-0083東京都千代田区麹町4-5-4桜井ビル3F、一般社団法人経営倫理実践研究センター、TEL:03-3221-1477 FAX:03-3221-1478
〈経営倫理士とは〉
NPO法人日本経営倫理士協会が主催する資格講座(年間コース)を受講し、所定の試験、論文審査、面接を経ると、経営倫理士の資格を取得することができる。企業不祥事から会社を守るスペシャリストを目指し、経営倫理、コンプライアンス、CSRなど基礎理論から実践研究など幅広く、専門的知識を身につける。これまでの14期(14年間)で、415人の経営倫理士が誕生、企業で活躍している。現在、第15期生が年間コース(5~12月)を受講中。1コマ受講もできる(一日分につき経営倫理士=8,000円、一般20,000円)。第16期受講は、今年12月から受け付け。 問い合わせは、03-5212-4133へ。E-Mailはkeieirinrikyo@cz.blush.jp
千賀 瑛一(せんが・えいいち)
東京都
有料会員の方はログインページに進み、デジタル版のIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞社の言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください