2011年10月19日
安達太良山の上はいつもの秋と変わりない「ほんとの空」のように
種を蒔いても良いだろうか
苗を植えても良いだろうか
食べても良いだろうか
みんながこんなに迷った年はありませんでした
それでも種を蒔き、苗を植え、収穫をしました
迷いながら食べています。不安とともに
遠い昔から日本人の命を育んできた米を作っている人たちはじめ
老後も楽しめると家庭菜園に取り組んでいたひとたちまで
みんながこんなに迷った年はありませんでした
そうです、それは2011年
福島がフクシマになった年のことです
迷いは、不安はいつまで続くのでしょう
2-2.Y君
福島原発から50キロメートル
環境放射能1時間当たり1.5マイクロシーベルト
すぐ隣の山蔭の集落は計画的避難地区
君の住む町もなんとなく落ち着かない
なのに君の家は実に穏やかだ
いつものように気持ちよく手入れされた庭
こうした時でさえ君は庭いじりを楽しんでいるのだね
一見無為無策にも見える君だが
僕は知っている
科学者の目を持っている君は
ボランテイア精神も旺盛で
この難局を冷静に見つめて動じないことを
そしてやるべきことは何かを
よく考え行動していることを
そうだよね
年間積算放射線量20ミリシーベルトには届かないのだし
幼い子供は別だけど
我々大人はあわてることは無いよな
遠い将来の発癌リスクも
考えなくてはならないが
覚悟を決めて
今日明日の生活を大切に生きること
僕も大いに共感するよ
2-3.学 習
21世紀
新幹線は大地震がくれば自動停止し
ハヤブサがイトカワから還る時代
科学立国を標榜する日本
使用済み核燃料廃棄物の処理を
まだ見ぬ子供たちに託し
何の懸念もせず電気エネルギーを
湯水のように使い散らしてきた我々
2011年3月11日
想定外だという地震で
フクシマ原発は
核を撒き散らした
掴んでる情報もリスクも開示せず
なすすべも無い事業者と国
「直ちに健康に影響ない」とくりかえす国
村民まるごと一ヶ月も被曝させる国
ふるさとを後にして
見知らぬ土地に逃げざるを得なかった人びと
見えない放射線に
おびえて暮らす人びと
あなたは思いませんか
核も電気さえも無かった時代
ひとびとの生活は
もっと穏やかで心豊かであったと
我々は知ったでしょうか
学んだでしょうか
子孫のためにも
何をどうすれば良いかを
2-4.哀しみの大地・うつくしま
福島
そこは美しい大地
かつて「うつくしま」と自称した大地
美しい陸の島
福島
そこは豊かな大地
生きとし生けるものが
ゆったりと命をつないできた大地です
福島の大地は今
その手足をもがれ
瀕死の傷を負い
すすり泣いています
福島の
美しい大地が
哀しみの大地になった日
それは2011年3月11日
それでも希望を持って前に進もう
幾世代か後の子孫たちが
先人の哀しみや思いを胸に抱きながらも
明るく笑える日が来るという希望を持って
福島
われわれのふるさと
日本人の心のふるさと
うつくしま・福島
2-5.長い戦い
激しい大地の揺れと思ってもいなかった原発事故
翻弄され続けたこの数ヶ月
覚悟はできた
低レベル放射線量下で生き抜くのだ
長い、ながーい戦いになるだろう
不安はつのる、心がくじけそうになる
さあ、元気を出して
手を取り合って一歩ずつ前に歩くのだ
温かく見守ってくれている沢山の人たちのためにも
未来を築いてくれる子供たちのためにも
2-6.ふるさとを
返してください
我々の山河を
返してください
我々のふるさとを
返してください
多くの命を生み育んできたふるさとを
返してください
穏やかだったころの生活を
返してください
子供たちに渡すはずだったふるさとを
風に揺れるススキ
激しい大地の揺れとともに
あわただしく降りた
福島の第1幕
制御する力量も無かった
おごれる人間がもてあそんだ
原子の火
飼いならされたかのように
振舞っていた
原子の火
大地の揺れと水の壁の手を借り
解き放たれた
原子の火
第2幕、フクシマの開幕
放射性ヨー素、セシウム、ストロンチューム
核の乱舞だ
いつまで続くのだ、この幕は
しばらくは原始の昔に還って
静かに眠るしかないのか
いや、この幕は
もう良い、たくさんだ
幕を降ろせ、はやく
原子の火を
原始の時代に戻せ
永久に封印せよ
われわれの命のリレーを続けるかぎり
きっと開けられる最後の幕
それこそ我らの真の時代だ
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