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短詩NO2

安達太良山の上はいつもの秋と変わりない「ほんとの空」のように
 2-1.2011年・フクシマ

種を蒔いても良いだろうか

苗を植えても良いだろうか

食べても良いだろうか

 

みんながこんなに迷った年はありませんでした

それでも種を蒔き、苗を植え、収穫をしました

迷いながら食べています。不安とともに

 

遠い昔から日本人の命を育んできた米を作っている人たちはじめ

老後も楽しめると家庭菜園に取り組んでいたひとたちまで

みんながこんなに迷った年はありませんでした

 

そうです、それは2011年

福島がフクシマになった年のことです

迷いは、不安はいつまで続くのでしょう

 

 2-2.Y君

福島原発から50キロメートル

環境放射能1時間当たり1.5マイクロシーベルト

すぐ隣の山蔭の集落は計画的避難地区

君の住む町もなんとなく落ち着かない

なのに君の家は実に穏やかだ

いつものように気持ちよく手入れされた庭

こうした時でさえ君は庭いじりを楽しんでいるのだね

 

一見無為無策にも見える君だが

僕は知っている

科学者の目を持っている君は

ボランテイア精神も旺盛で

この難局を冷静に見つめて動じないことを

そしてやるべきことは何かを

よく考え行動していることを

 

そうだよね

年間積算放射線量20ミリシーベルトには届かないのだし

幼い子供は別だけど

我々大人はあわてることは無いよな

遠い将来の発癌リスクも

考えなくてはならないが

覚悟を決めて

今日明日の生活を大切に生きること

僕も大いに共感するよ

 

 2-3.学 習

21世紀

新幹線は大地震がくれば自動停止し

ハヤブサがイトカワから還る時代

科学立国を標榜する日本

 

使用済み核燃料廃棄物の処理を

まだ見ぬ子供たちに託し

何の懸念もせず電気エネルギーを

湯水のように使い散らしてきた我々

 

2011年3月11日

想定外だという地震で

フクシマ原発は

核を撒き散らした

 

掴んでる情報もリスクも開示せず

なすすべも無い事業者と国

「直ちに健康に影響ない」とくりかえす国

村民まるごと一ヶ月も被曝させる国

 

ふるさとを後にして

見知らぬ土地に逃げざるを得なかった人びと

見えない放射線に

おびえて暮らす人びと

 

あなたは思いませんか

核も電気さえも無かった時代

ひとびとの生活は

もっと穏やかで心豊かであったと

 

我々は知ったでしょうか

学んだでしょうか

子孫のためにも

何をどうすれば良いかを

 

 2-4.哀しみの大地・うつくしま

福島

そこは美しい大地

かつて「うつくしま」と自称した大地

美しい陸の島

 

福島

そこは豊かな大地

生きとし生けるものが

ゆったりと命をつないできた大地です

 

福島の大地は今

その手足をもがれ

瀕死の傷を負い

すすり泣いています

 

福島の

美しい大地が

哀しみの大地になった日

それは2011年3月11日

 

それでも希望を持って前に進もう

幾世代か後の子孫たちが

先人の哀しみや思いを胸に抱きながらも

明るく笑える日が来るという希望を持って

 

福島

われわれのふるさと

日本人の心のふるさと

うつくしま・福島

 

 2-5.長い戦い

激しい大地の揺れと思ってもいなかった原発事故

翻弄され続けたこの数ヶ月

 

覚悟はできた

低レベル放射線量下で生き抜くのだ

 

長い、ながーい戦いになるだろう

不安はつのる、心がくじけそうになる

 

さあ、元気を出して

手を取り合って一歩ずつ前に歩くのだ

 

温かく見守ってくれている沢山の人たちのためにも

未来を築いてくれる子供たちのためにも

 

 2-6.ふるさとを

返してください

我々の山河を

 

返してください

我々のふるさとを

 

返してください

多くの命を生み育んできたふるさとを

 

返してください

穏やかだったころの生活を

 

返してください

子供たちに渡すはずだったふるさとを

 

風に揺れるススキ
 2-7.

激しい大地の揺れとともに

あわただしく降りた

福島の第1幕

 

制御する力量も無かった

おごれる人間がもてあそんだ

原子の火

 

飼いならされたかのように

振舞っていた

原子の火

 

大地の揺れと水の壁の手を借り

解き放たれた

原子の火

 

第2幕、フクシマの開幕

放射性ヨー素、セシウム、ストロンチューム

核の乱舞だ

 

いつまで続くのだ、この幕は

しばらくは原始の昔に還って

静かに眠るしかないのか

 

いや、この幕は

もう良い、たくさんだ

幕を降ろせ、はやく

 

原子の火を

原始の時代に戻せ

永久に封印せよ

 

われわれの命のリレーを続けるかぎり

きっと開けられる最後の幕

それこそ我らの真の時代だ